うちのミケ様は招き猫【三毛猫奇譚】
NAO
天界のお猫様
第1話 吾輩は猫である
吾輩は猫である。
名前はミケ・キサラギ。
暗くジメジメした所でニャアニャアと鳴いて…はいないが、おっかさんのピンと立てたしっぽを目印に、後を必死に追っていた事は記憶している。
なーんて、人間界の「ナツメナントカ」って偉い小説家先生の作品の一部を引用したまではいいんでありんすが、この先何を言えばいいのか分からないので、いつもの口調に戻すでありんす。
わっちは「う〜ん」と背伸びをして、自分の三色の毛並みを繕ったはいいが、特にする事もないので縁側に寝転ぶ。
「平和でありんすねぇ〜。」
と、背伸びをしたらついでにアクビまで出る始末。
平和とはホントに猫を「ダメ」に…いや、違うでありんす。
「デブ」にするものでありんす。
またアクビが出るでありんす。
─くわぁぁ…
と、大口を開けようとした瞬間、障子が「バァン!」と開いて、思わず垂直跳び。
おっといけねぇ…舌をしまい忘れていたでありんす。
わっちは舌をしまって
「ななな…何でありんす…か?」
と、無意識に針山になってしまった背中と歯ブラシ尻尾を通常に戻しながら言った。
怒髪天の如き形相でわっちを睨む着物姿の男は「ヴィリー・キサラギ」。
わっちの「同居人」でありんす。
あくまで「飼い主」ではなく「同居人」でありんす。
紫色で後ろで1つに縛った髪は、今にも逆立ちしそうで、普段から少しつり上がってる目は更に釣り上がり、完全に怒っているのが分かる。
しかし、ヴィリーの両腕には3つの小さい毛むくじゃら、手に猫じゃらしを握っているので、なぜその状態で怒り心頭なのかわっちにはさっぱりわからないでありんす。
「ヴィリー…?それは…何でありんすか?」
わっちは恐る恐る聞く。
「何でありんすか?じゃねぇよ!おめぇはただ猫じゃねぇんだからちゃんと節操くらいは持ってろよ!」
と、手で握った猫じゃらしをふにょふにょさせながら講釈を垂れる。
わっちは思わず目が「くわっ」となりそうなのを堪えて
「だから何の話でありんすか?」
と、聞き直す。
ヴィリーは持っていた3つの毛むくじゃらをわっちの目の前にずぃっと差し出して
「コイツらだよ!どこで孕ませて来やがった?!これ以上は飼えねぇぞ?!」
と、怒鳴る。
3つの毛むくじゃらが3つの顔を出すと、茶色と黒毛の斑が
「ニャぁ!にゃあーん!(あっ!とーちゃん!来たよ!)」
と、わっちの頭に頭突きした。
「お前たち来たでありんすか!」
わっちは1人ずつ顔を舐めて歓迎する。
黒と白の虎毛が
「にゃあーん!にゃにゃにゃ!(迷子になってたんだけど、そのオジサンがあそんでくれたー!)」
た、目をまん丸にして答える。
「そしたらね、どーしてここにいるの?って、オジサンに聞かれたからとーちゃん探してるって言ったら、ここに連れてきてくれたの!」
わっちと同じ三毛が上機嫌でひっくり返って前足をわきゃわきゃしだした。
…ん?ちょっと待つでありんす…?
「ヴィリーはなぜわっちが父親だとわかったんでありんすか?この子達を今日紹介するつもりだったんでありんすが…?」
と、首を傾げながらヴィリーに聞く。
するとあぐらを組み、両腕を組んでふんぞり返って
「その三毛猫が人語喋ってたから分かったんだよ。いくら天界でも『猫の姿』で『人語』を喋るのは、おめぇさんの『血統』しかいねぇからな。」
と、鼻を鳴らした。
わっちは目を丸くして
「…そうなんでありんすか…初耳でありんす。」
ヴィリーも目を丸くして
「…マジか…。」
マジでありんす。わっちの『血統』って…実はスゴい…?
それはさておき…わっちは畳の上に脱ぎ散らかした着物の中に入り込み
─ぽん
と、煙と共にわっちの体は猫から人に変化した。
自分で言うのもナンでありんすが、人の姿のわっちは髪は金髪ベースの3色、目は切れ目長、鼻筋は通っていて『いけめん』でありんす。
「にゃあーん!!(やっぱとーちゃんの人の姿かっけぇ!!)」
と、虎毛が言う。
わっちは得意げに
「まぁ、お前さんたちも大人になれば『いけめん』になれるでありんすよ。わっちの息子でありんすから。」
わっちは自他ともに認める『いけめん』。
「それはそうと、息子たち、人になるでありんす。でないとヴィリーに言葉が通じないでありんす。」
と、言うと、3人の子供がじとーっとした目でヴィリーを見た。
ヴィリーは眉にシワを寄せながら
「なんだよ?その目は?」
三毛の子はジト目のまま
「…このオジサンがヴィリー?とーちゃんの下僕なのにいつも上から目線のヤツ…?」
「…下僕って…おめぇ…俺の事何て言ってんだよ?」
ヴィリーは今にもわっちの胸ぐらを掴み掛かりそうな勢いなので
「まぁ、そんな事より人になるでありんすよ。娘は着物がないから猫のままでいいでありんす。」
と、子供たちに促した。
子供たちもわっちと同じ様に
─ぽん
と煙と共に人の子供の姿に変わった。
わっちには良く分からないんでありンすが、わっちが人化する時は『裸』、この子達が人化する時はちゃんと着物を着ている。
そして、人にならないと『人語』が話せない。
どうやら息子2人は『母親』の血の方が濃いのであろう。
しかし、三毛の娘はわっちと同じで『猫でも人語』を話し『人化すると裸』なので、恐らくわっちの血が濃いと思われる。
「んで?この子達はおめぇの子供で間違いねぇんだな?」
ヴィリーが子猫のままの娘を抱き上げて言った。
娘はヴィリーの鼻の頭をちょいちょいと前足で触り、ヴィリーはまんざらでもない顔をしている。
「そうでありんす。生後3ヶ月でありんす。」
と、言いながらわっちもあぐらを組む。
「…でもこれ以上は飼えねぇぞ?」
ヴィリーが少し寂しげに言う。
「大丈夫でありんす。この子達にもわっちと同じ様に、自分の身を置く場所は自分で見つけさせたいでありんす。」
わっちは息子二人をあぐらに乗せながら言った。
「おめぇみてぇに人間界にでも落とすつもりか?」
ヴィリーがわっちを睨む。
「そんなこたぁせぬよ。ただ、決められたレールを進ませたくありんせん。自分自身で決めて欲しいだけでありんす。決められたレールはツラいでありんすから。」
わっちは息子たちの頭を撫でる。
すると虎毛が
「とーちゃんは人間界にいたんだろ?どんな所だったの?」
と、わっちの顔を覗き込む。
それに便乗する様に斑が
「僕、人間界がどんな所でとーちゃんがどーして天界に来たのか知りたいよ!」
目をキラキラさせながら覗き込む斑にわっちは目線を合わせて
「人間界は…そうだねぇ…。」
と、言いかけた所で
「ニャー…ん(わっちも知りたいでありんす)」
鳴き声の方を向くと、庭に黒猫が座っている。
ヴィリーがボソッと「猫が増えた」と言っているが、その目ははキラキラしている。
猫派はちょろいでありんす。
「かーちゃん!!」
子供たち3人が勢いよく黒猫に寄っていく。
「かーちゃん?!ってこたぁ、おめぇさんミケの嫁か?!」
ヴィリーが立ち上がって目を丸くした。
「にゃん(そうでありんす。)」
「そうでありんす。」
黒猫とわっちの声がハモる。
「にゃにゃーんにゃ、にゃーんにゃ(ヴィリー様、いつも旦那様がお世話になってます。)」
と、言っているが多分ヴィリーには伝わっていない。
黒猫はひとしきり子供たちを舐め終わると
「にゃにゃん?にゃーん?(それでお前様、人間界での話は聞かせてくれるんでありんすか?)」
と、くりくりの目をわっちに向けた。
「…か…かわいい…。」
「…か…かわいい…。」
今度はヴィリーとハモったわっちは顔を赤くする。
「にゃん、にゃーんにゃ(お前様はいつもこの手の話ははぐらかすから、この際話してくれてもいいじゃありんせんか?)」
黒猫がそろりそろりと縁側に飛び乗り、わっちのあぐらに前足を乗せながらわっちの顔をじっと見つめる。
こんなに詰め寄られたら…惚れ直しちまうでありんす…(照れ)
「おめぇの人間界での事は忘れてぇ程ツラい事だったのか?そうでないなら話してやりな。おめぇが「自分の道は自分で」と言うなら、この先子供たちが人間界に行きたいって言い出しかねないからなぁ。」
と、ヴィリーがわっちの頭にポンと手を乗せて言った。
「そうでありんすね…、話したくない訳じゃないでありんすが…つまらない話でありんすよ…?」
と、前置いて、わっちはうわの空を見上げた。
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