ディスカバリー・オブ・パラレルワールド

銀星石

イントロダクション

 その日、あなたはスマートフォンでWEB小説を読んでいた。ランキング上位のはピンとこず、なにか自分の琴線に触れるものはないかと検索していたら見つけていた作品だ。

 日の目を見ることは決してなく、書籍化など夢のまた夢とといった程度の代物だろう。客観的に評価するのなら、それはあなたが今まで読んできた中では下の下でしかない。とはいえ、ごくわずかでも情をかされたのまた事実だ。

 

 あなたは作者を応援する気持ちで、その作品に評価点を入れてSNSにささやかな感想をつぶやいた。

 その時、不意に周囲の空気が変わったのを感じた。

 見知らぬ屋敷、その中庭に置かれたベンチにあなたは座っていた。

 思わず立ち上がり、あなたは周囲を見渡す。いつの間にか夜に……いや、夜ではない。頭上に広がる漆黒に星の光はなく、さりとて雲に覆われているわけでもない。


 だが、全くの暗闇というわけではない。太陽のとは違う光、黄金の輝きを放つ何かが後ろにあると感じたあなたは振り返る。

 おそらくは何キロも離れた場所に金色に輝く巨大な樹があった。

 このような場所は現実にはあり得ない。異世界転移とか転生とかは大好きなジャンルだが、それが我が身に起こりうるとは思えない。

 あなたは自分が正気を失ったのだと思った。毎日むさぼるように小説を読み続けていたために、いつの間にか現実と空想を区別する理性を失ってしまったのかもしれない。


 あなたは誰でもいいから、誰かに会いたかった。家族や友人ではなく、赤の他人だっていい。自分を正気に戻してくれる誰かを欲した。

 あなたは屋敷へと向かう。中庭が丁寧に整えられているので、さすがに廃墟ではなかろう。一人くらいは住民がいるはずだ。


 しかし屋敷の中はしんと静まりかえっていて、あなたは余計に不安を覚えてしまう。とにかく目に付く扉を片っ端から開けて、誰かいないか探す。

 その中であなたは図書室を見つけた。2階吹き抜け構造で、小さな図書館としてもやっていけそうな規模だ。

 図書室には安楽椅子に座って本を読む女がいた。


「あら、お客さんなんて珍しいわね」


あなたに気づいた女は読んでいた本を閉じる。歳は20代の半ばと言ったところだろうか? 不思議な雰囲気を持つ人だ。10歳にも満たぬ幼児のようにも、100歳を超えた老婆のようにも感じ取れる。

 あなたは彼女が何者であるのか尋ねた。


「私はアカシック。あなたは?」


 あなたは自分の名前を答える。


「そう。どうやら、第1並行世界から迷い込んできたようね。たまにいるのよ、あなたみたいな人」


 神秘的な雰囲気を持つ女性を前にし、あなたはますます自分の狂気を恐れ始めた。


「あなたは正気よ。間違いなく」

 

 アカシックと名乗った女性はそんなあなたの内心を読み取ったように言う。


「第1並行世界にとって、ここは空想上の場所かもしれないけれど、直接この場に立ち、そして観測している以上は紛れもなく現実の世界よ」


 アカシックの言葉は余計にあなたを混乱させた。冷静になるため、あなたはまず一つのことだけを意識するよう努めた。

 つまり、自分は元の場所に帰れるのかと。それをアカシックに訪ねた。


「帰れるわよ。しばらくすればあなたは元の場所に引き戻される。それは強制的で、むしろあなたがこの場所にずっとと留まる方が難しいくらい」


 それをきいてあなたは少し安堵する。


「いつ引き戻されるのかは、振れ幅があるから私にも分からないわ。これまでの経験則から言うと、一番長くて三日くらいだったわ」


 三日。つまりは最悪でそれだけここで過ごさないといけないようだ。


「ここにいる間は私が面倒を見てあげるわ。戻る時まで暇でしょうから、ここにある本や資料は好きに呼んでいいわよ。あなた以前に、ここに迷い込んで来た人たちもそうしていたわ」


 そういってアカシックは読書に戻ってしまった。

 このまま立ち尽くす訳にもいかず、さりとて読書をたしなむ者としてアカシックの邪魔をするのはなんだか悪い気がしてきたあなたは、ひとまず目に付いた本を手に取る。

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