第136話 怖いリスター祭

 なんなのよ……ここは……みんなが楽しいから絶対に行った方がいいって言っていたから来てみたけれど……さっきのウィンドトラベル(マルスのいう所のジェットコースター)で危うくあの世に旅行するところだったじゃない……あれがリスター帝国学校の目玉の一つなんて……怖すぎる。


 も、もう乗らないわ……今度はもっとマイルドな所に行こう……


「お姉ちゃん楽しかったね! あっちの水のやつも面白いってよ! あっちも乗ろう!」


 こ、この子はバカなの?


「ア、アリス? 女の子がキャーとかワーとか言うのははしたないからやめておきなさい。さっきアリス酷かったわよ」


 隣のアリスの事を気にしている余裕なんてなく、一瞬たりともアリスの事を見ていなかったが、手段を選んではいられない。


「やっぱり見ていたんだね。さすがお姉ちゃん。怖いんだけど楽しくてついつい叫んじゃった。私は自分の事で精一杯で周りの事見られなかったなぁ」


 怖いけど楽しいですって……? 私なんて怖すぎてちびったわよ! これだから子供は困るわ……ちなみにアリスは相当怖がりだ。もしかしたら私よりも怖がりかもしれない。だがそれ以上に好奇心が強いから質が悪い。それに子供と言ってもあまり私と体形が変わらないのが癪だけど。


「ほら、あれに行くわよ」


 適当に目についたのを指さしたら学校の墓場と書いてあった。


「えー、お化け屋敷なんて子供騙しじゃん……つまんないよぉー」


 アリスがごねるが今の私には心を落ち着かせる時間が必要だ。学校の出し物のお化け屋敷なんて怖いわけがない。私の通うデアドアセイント学校は本当に怖くない。というかクオリティが低すぎて客が笑ってしまうレベルだ。


「いいから。私の学校でもお化け屋敷は定番だからリスター帝国学校がどれ程の物かちょっと見てやりたいのよ」


 無理やりアリスを引っ張って列に並ぶ。5分くらいで私たちの順番になった。このお化け屋敷についての説明文が書かれている。なになに……


 リスター連合国で一番怖いお化け屋敷だと思われます。怖いのに弱い方は絶対に来ないでください。何組もカップルが破局した経緯があります。男性は絶対に女性を置いてけぼりにしないでください。


 ふん! 書く位であればうちの学校でもできるわよ! お化け屋敷ごときがバカにしないでちょうだい! 私は何故か怒りがこみ上げて来た。もしかしたらさっきのウィンドトラベルでちびったことをどこかで怒っているのかもしれない。


「ようこそ……学校の墓場へ……何名様ですか……?」


 うん? どこからか声が聞こえた……風魔法で声をのっけたのか? 相変わらず手の込んだことをする……


「どこですか? 私たちは2人です」


「ありがとうございます。どうぞ私を手で払って前にお進みください」


 上から女の生首が落ちてきて言った。 ま、また漏れた……さっきお化け屋敷に入る前に出し切ったのに……何事もなかったかのように平静を装いながらアリスと一緒に先に進もうとするが女の生首が邪魔で行くことが出来ない。避けて進むとアリスに怖がりだとバレてしまう。


「アリス、その生首でビビっているようだと入る資格は無いわ。もしもアリスがそれを触れなかったら戻りましょう……」


 生首から目をそらし、アリスの方を向きながら言うと


「キャー! 本物みたーい! こわーい! 早く入りたーい!」


 すでにめっちゃ怖がりながら? 生首を触って騒いでいる……怖がっているのにそのテンションはなんなの? え!? 本当は怖くないの……?


 アリスと一緒に手を繋いでお化け屋敷に入るとまず印象的なのが真っ暗なことだ。これじゃあお化けを怖がることすらできないと思えるくらい真っ暗なのだ。少し歩くと徐々に目が慣れてきたようで少し見えるようになった。


 真っ暗も怖いのだが、少しだけ見えるのも怖い……私はアリスの手を握りながら、もう片方の手で壁に手をつきながらゆっくり歩く。1階は比較的しかけが少なかった。


「やっぱこんなものね。楽勝よ」


 自分を鼓舞するために少し大きめな声で言うとアリスも


「お姉ちゃんがいるから私も怖くないよ」


 完全に私を信用してくれている。私たち姉妹が少し油断しながら歩いていると、2階に上がる直前に藁人形に釘を打ち続けている真っ白な女がいた。


 当然のようにこのお化けは口が裂けている女だった。これくらいだったら、デアドアセイント学校でもやるのだがここのお化け屋敷は一味違った……


 藁人形の顔が釘を打たれるたびに変わるのだ。激痛に耐える表情、絶望に染まる表情、そして釘を打つたびに藁人形から悲鳴が聞こえてくる。


 藁人形の顔は何故か女の人の顔を連想させるような作りだった。や、やばい……これは夢に出てきそうな不気味さだ……今日は色々な理由をつけてアリスと一緒のベッドで寝るとしよう。


 2階に上がると小さい箱があって「これを開けろ」と書いてあった。ふん。誰があんたらのいう事を聞くもんですか! するとアリスは私と繋いでいた手を解き、何の躊躇いもなく箱を開けた。なんてことするのこのガキ! と思ったのも束の間、箱の中には1枚の白い仮面が置いてあった。その仮面は藁人形の顔に似ていて恐怖の表情をしていた。


「どうしよう……お姉ちゃん怖いよ……」


 あんたが開けたんだからあんたが処理しろ……と口から出そうになったが


「アリス。こういうのは無視していいのよ、先に行きましょう」


 すぐにこの場から離れることを提案した。アリスも私に従って黙ってついてきた。そう言えばアリスと手を繋いでいない事に気が付きすぐに私が後ろに手を差し出すとアリスがしっかりと握り返してきた。やはりアリスもなんだかんだ怖いのだろう……


 少し歩くと「決して振り返ってはならない」と書いてあった。今度はアリスが変な行動を起こす前にしっかりと言い聞かせることにした。


「アリス。こういうのは別に守らなくてもいいんだからね」


 後ろからついて来ているアリスに言うと返事がない。怖くて声も出ないのか……ここはお姉ちゃんらしく勇気づけてあげよう。


「大丈夫。怖くても今日一緒にベッドで寝てあげるから」


 と言うと私の手を握る力が少し強くなった。これでお姉ちゃん的ポイント大幅アップだ。どさくさ紛れに一緒に寝る約束もできたから一石二鳥だ。私はずっと前だけを警戒し、後ろはアリスに任せていた。


 私はアリスと手を繋いでいないほうの手で壁を触りながら歩いた。すると少し歩くと壁を触っていた手が湿っている事に気づいた。なんだろうと手を見てみると手には赤い血がついていた。


「はぁー。よくあるやつね。アリスちょっとハンカチ取って。壁触ったら血のりがついちゃった」


 後ろに呼びかけるがアリスは全く反応してくれない。


「ちょっとアリス早くして……ねぇ聞いているの?」


 反応がないアリスにしびれを切らし後ろを振り返ると……そこには先ほどの藁人形の仮面をした誰かが立っていた……私はその藁人形の仮面をした誰かと手を繋いでいる……悲鳴を上げようとしたがその誰かが予想外の事をした。


 仮面をした誰かが仮面を外そうとしている。なんだやはりアリスだったのか……そう思って胸をなでおろしていると仮面の下には藁人形が杭で打たれていた時と同じ女の絶望の表情の顔があった。私が覚えているのはここまでだった……



 ☆☆☆



「おい! 失神者が出たぞ! 女の子2人だ! 男は来るなとの事! 女子たち頼む!」


 俺がお化け屋敷から離れようとすると大きな声がお化け屋敷の方から聞こえた。相当怖いんだろうな……これってクラリスと一緒に来れば……あとなんで男は行っちゃだめなんだろう……?


 そんな疑問を抱えつつ今度俺たちはアイクたちが開催している闘技大会へ足を運んだ。


 入場料……鉄貨3枚

 出場料……銀貨1枚

 全員抜き……金貨10枚贈呈(最初のお1人様限定)


 入場料も出場料も妥当だろうな。


 それにしても全員抜きで金貨10枚か……アイクまで倒すと金貨10枚もらえるという事か。


 これってA級冒険者とかきたら無理だろうと思っていると、しっかり参加資格は15歳未満と書いてあった。15歳未満ではA級冒険者はおろか普通の冒険者すら滅多にいない。特例で俺たちが許可されているくらいかもしれないレベルだ。


 入場料を払って闘技大会が開催されているデカい体育館というかホールに入った。や、やばい人の数だ……これでは全く試合が見られない……困っているところにちょうど眼鏡っ子先輩が通りかかり、俺たち全員を関係者専用の部屋に通してくれた。


「ちょうどいいところに来たわね! 今から初めてアイクが戦うわ!」


「えっガル先輩負けちゃったんですか?」


 眼鏡っ子先輩に聞くと


「ガルは別の試合で少し痛めてしまってね……今3人抜かれて4人目でアイクが出ているのよ……もしアイクが負けたらマルスが出てね。いっぱいサービスしてあげるから」


 いつものように揶揄いながら眼鏡っ子先輩が言う。これを【黎明】女子の前で言えるのは眼鏡っ子先輩だけであろう……


「アイク兄の相手は誰なんですか?」


「なんかさっきリングアナウンサーが控室でチラッと言っていたんだけど、ある意味因縁の相手って言っていたのよ……」


 俺は眼鏡っ子先輩から出た名前に驚きを隠せなかった。

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