第130話 ブリザード

「今からブリザードという魔法を使おうと思う。まだ使ったことは無いからちゃんと発現できるか分からない。俺は風魔法は得意だが、水魔法はあまり得意ではない。だから2人に水魔法の発現を手伝ってもらいたい。

確かレッカ様がファイアストームを1発現させるとはみたいなことを言っていたからファイアストームは何人かで発現させる魔法なんだと思う。

その水魔法版だからこれも複数人で発現させることが出来ると思う。もしも失敗してもキラービーであればトルネードで絶対に屠れるはずだ。なぜブリザードで倒そうと思ったかというと地獄の蛇ヘルスネーク対策だ。多分だけど地獄の蛇ヘルスネークは寒さに弱いと思う。今ブリザードを使えるようになれば今後戦略の幅が広がると思うんだ。だから2人とも力を貸してくれ」


 俺が一気にまくしたてると2人は頷いてくれた。


「よし! いくぞ! ブリザード!」


 俺がトルネードを発現させながら水魔法でトルネードの内部の気温を下げていく。クラリスとミーシャの水魔法でトルネード内の気温が一気に下がる。


 周囲の霧の水分が鋭い氷の刃となりブリザード内は地獄絵図となっている。寒さで身動きが取れなくなったキラービーを無数の氷の刃で切り裂く。キラービー10分もしない間に全滅した。巣の中にいた上位個体たちもいつの間にか死んだようだ。


 また巣の近くにいた地獄の蛇ヘルスネークも寒さで動きが鈍くなり、6匹がブリザードに飲み込まれて死んだ。それにトレントを火で倒した時とは違いブリザードを放った近くには魔物が全く近寄らなかった。これは死の森ではかなり強力な魔法となるだろう。


 残りの4匹はこちらに向かって突進してきた。迎え討とうと思ったら隣でドサッという音がした。音がした方を見るとなんとミーシャが倒れたのだ!


「ミーシャ! どうした!?」


 ミーシャにヒールとキュアを何度も唱えるが目を覚まさない。ミーシャを鑑定するとMPが0になっていた。ブリザードでMPが枯渇してしまったのだ。倒れるまでずっとMPを消費し続けるなんて……暴走エルフ恐るべし。


 そうか普通の人のMPだと1発撃つだけが精一杯……それを10分弱保たせるという事はいくら3人で発現させていてもMPがすぐに枯渇してしまうのか……


「クラリス! エリー達の所まで撤退するぞ! 俺が殿を務めるから大変かもしれないがミーシャをおんぶしてくれ。風魔法で補助をするからそこまで重さを感じないと思う!」


 クラリスは頷きもせずに寝てしまっているミーシャをおんぶすると一目散にエリー達の所に走り出した。正直今の俺なら地獄の蛇ヘルスネークの4匹くらい簡単に倒せると思う。だが俺だけが強くなってもダメなのだ。いつも俺がみんなの近くに居ることが出来るとは限らない。


 急いでエリー達の所に戻るとエリー達はもうすでに戦闘態勢が整っていた。


「クラリス、エリー、カレン、ライナー! 地獄の蛇ヘルスネークを1匹ずつ仕留めてくれ! 俺は周囲の警戒をしておく! 危なくなったらすぐに助ける! カレン! ここでは火魔法を使っても大丈夫だから思う存分力を発揮してくれ!」


 俺はMP枯渇で寝ているミーシャをクラリスから受け取った。


 俺の予想では一番早く倒せるのがエリーとカレンで、クラリスとライナーは結構苦戦すると思っていた。クラリスのステータスは俺の次に高いのだが全て平均的。俺とバロンの中間のような感じだから負けることは無いと思ったが、決定打に欠けて倒すのに時間が掛かると思った。


 エリーは筋力と敏捷で圧倒しているからそんなに苦戦することもないと思ったし、カレンに至ってはフレアを何発か当てれば余裕で倒せると思った。


 ライナーが一番時間が掛かると思っていたが、一番安心していた。ライナーの防御能力は地獄の蛇ヘルスネークごときでは崩せない。


 しかし予想は大きく覆された。最初に地獄の蛇ヘルスネークを倒したのはクラリスだった。水魔法で地獄の蛇ヘルスネークの周囲の温度を下げて動きを鈍らせると、ずっと地獄の蛇ヘルスネークのこめかみに魔法の弓を寸分狂わず命中させていた。蛇は寒いところに弱い個体が多いと聞くが地獄の蛇ヘルスネークも例外ではなかったようだ。


 次に倒したのはカレンだった。フレアをただ当てるだけの単純作業で難なく倒していた。


 意外に時間が掛かったのはエリーだった。短剣ではなかなか地獄の蛇ヘルスネークの急所には届かないし、鱗を突き刺すのにも苦労していた。それでも多少のダメージを食らうだけで地獄の蛇ヘルスネークを倒せたのだから間違いなくクラリス、エリー、カレンはB級冒険者だろう。


 最後に倒したのはライナーだったが一番苦戦していた。地獄の蛇ヘルスネークの物理攻撃はなんなく捌けるのだが、溶解液を大量に噴射されるとライナーの敏捷値では避けきれなく、服の至る所に穴が空いていた。これ女の子の服だったら……ライナーに何度もヒールをかけてなんとかライナーが地獄の蛇ヘルスネークを倒した。


 地獄の蛇ヘルスネークを倒し終わり一旦砦まで撤退することにした。ミーシャがこのままだとさすがに危ないからね。撤退する際にキラービーが20、30匹襲い掛かってきたが、クラリスが全て魔法の弓で射ち落としていた。クラリスが興奮しながら俺に話しかけてきた。


「私もマルスみたいに魔法を使いながら弓で攻撃できるようになったわよ。地獄の蛇ヘルスネークを試しにやってみたけど案外上手くいったわ。最近あまり成長しない自分に少しイライラしていたけどこれで戦い方の幅が広がったわ。これからも少しずつ強くなってマルスを助けられるようにするね」


 最近クラリスの戦闘のモチベーションが下がっていたのはなんとなく気づいていたがそう言う事だったのか……気づいてあげられなくてゴメン。だけど気づいてあげられることもあった。


 今回キラービーの巣を3人で一気に潰し、地獄の蛇ヘルスネークも何匹か倒したことで俺のレベルが1、クラリスのレベルも1、ミーシャのレベルは2上がっていた。そしてクラリスだけは特筆する成長を遂げていた。まずは俺とミーシャのステータスをサラッというと。



【名前】マルス・ブライアント

【称号】雷神/風王/聖者/ゴブリン虐殺者

【身分】人族・ブライアント伯爵家次男

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】33

【HP】82/82

【MP】7095/7899

【筋力】78

【敏捷】79

【魔力】98

【器用】78

【耐久】71

【運】30


【固有能力】天賦(LvMAX)

【固有能力】天眼(Lv9)

【固有能力】雷魔法(Lv8/S)

【特殊能力】剣術(Lv9/A)

【特殊能力】火魔法(Lv3/E)

【特殊能力】水魔法(Lv3/E)

【特殊能力】土魔法(Lv5/D)

【特殊能力】風魔法(Lv9/A)

【特殊能力】神聖魔法(Lv7/B)


【装備】雷鳴剣

【装備】火精霊の剣サラマンダーソード

【装備】偽装の腕輪


 全て(オール)70を超えた。あと1レベルで魔力が100に届くと思う。



【名前】ミーシャ・フェブラント

【称号】-

【身分】妖精族エルフ・フェブラント女爵長女

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】32

【HP】54/54

【MP】0/176

【筋力】46

【敏捷】57

【魔力】46

【器用】49

【耐久】27

【運】5

【特殊能力】槍術(Lv7/B)

【特殊能力】水魔法(Lv4/C)

【特殊能力】風魔法(Lv5/D)


【装備】風精霊の槍シルフランス

【装備】幻影のローブ



 水魔法のレベルが上がっていた。もうそろそろミーシャもB級冒険者だな……この前も誓ったが、あえて言わないようにしないと……



【名前】クラリス・ランパード

【称号】弓王・聖女

【身分】人族・ランパード子爵家長女

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】36

【HP】73/73

【MP】349/1471

【筋力】53

【敏捷】53

【魔力】63

【器用】63

【耐久】51

【運】20


【固有能力】結界魔法(Lv4/A)

【特殊能力】剣術(Lv5/C)

【特殊能力】弓術Lv8/B)

【特殊能力】水魔法(Lv4/F)

【特殊能力】風魔法(Lv3/F)

【特殊能力】神聖魔法(Lv7/A)


【装備】ディフェンダー

【装備】魔法の弓マジックアロー

【装備】聖女の法衣セイントローブ

【装備】神秘の足輪ミステリアスアンクレット

【装備】偽装の腕輪


 なんと弓術レベルは変わらないのに称号【弓王】を手に入れていた。クラリスに伝えると


「本当に!? でもなんか少し実感があるの。さっきキラービーを倒したときに私っていつの間にこんなに正確に、動きが速くて遠い小さな的を射ることができるようになったのだろうって」


 興奮しながら話してくる。


「さっきのキラービーを倒したときは凄かったね。いつか死の森で魔法が使えない状況が出来るかもしれないから、その時はクラリスがキラービーを倒してくれ」


 俺の言葉にクラリスが嬉しそうに「うん」と言って頷いた。か、かわいい……


 無事に砦まで辿り着くとミーシャをベッドで寝かせてから、俺たちはお風呂に入って軽食を食べた。


「朝あれだけ美味しいご飯を食べてしまうとこれだと物足りないわね。クラリスまた作ってくれない? なんかクラリスの料理はリスター連合国にはないような味付けですっかり私はあの味のファンになってしまったわ」


 カレンが言うと俺も


「確かに……味付けが優しいんだけど決して薄味ではない。今まで食べてきた料理で一番おいしかったよ」


「……今度は……クラリスの……肉料理……お願い……」


 エリーも気に入ったようだ。そしてライナーも


「もしもマルスと結婚してもたまには俺たちの為にも作ってくれ。俺もあの料理の味付けは本当に好きだ」


 全員でクラリスを褒め称える。クラリスは照れながら


「わ、分かりました。じゃあ夜は肉料理でも作るわ」


 クラリスが諦めたように言うとみんな大はしゃぎだった。早速クラリスは夜ご飯の仕込みに入った。遅めの昼ご飯を食べたばかりなのに……申し訳ない……ただエリーとカレンがクラリスを手伝う……らしい……どう考えてもエリーはつまみ食いをしようとしているだけに見えるが……


 俺とライナーはバロンたちの所に向かってミネルバの成長を見ることにした。ミネルバの鎖捌きはかなり上達していたおり、キラーアントの足に鎖を器用にひっかけて転ばして剣で仕留めていた。


「ミネルバ大分上達したじゃないか」


 ミネルバに話しかけるとミネルバは嬉しそうに


「うん! でも本当は鎖の先端で刺したりするんだけど、私が刺してもまだ倒せないし、引っ張り合いでキラーアントに負けちゃうのよ。本当はこういう使い方はしないらしいんだけど筋力値があがるまでは自分なりに工夫して鎖を使えるようにしてみるよ。

今度お店を色々回って鎖装備を探すことにしたの。魔力をエンチャントすると鎖が伸びたりする鎖があるんだって。イザーク辺境伯が私はMPが多いからそういう鎖を選んだ方がいいって。あと鎖使いが少ないから鎖装備はとても安いらしいの」


 バロンもドミニクも一生懸命ミネルバをサポートしている。色々あったがとても良い方向に動いており大満足だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る