第114話 補給

(ちっ、あの女狐め!武神祭という名目で最強クラスを撤退させるなんて! そして寄越してきたのは先生と1年生だと? 武神祭にも出る事が出来ない1年生を送ってくるとは何事か! 使い捨てとして送ってきた奴らだろうが、リスター帝国学校の生徒だから一応は私が出向いてやるがもう会う事は無いだろう。名誉の戦死をしてくれたと涙しておけば生徒たちも浮かばれるだろう)


 私の部屋に4人が通された。1人は優秀なディバルで1人はさわやかな中年剣士。そして赤い髪のどこかで見たことがあるような顔の美少女小娘と、今まで見たこともない超絶イケメン金髪剣士だ。


 よし決めた。この超絶イケメン剣士だけは私の所に置いておこう。この超絶イケメンを奴隷として扱ってやろう。いやそれだけだと勿体ないな……この男はアクセサリーとしての価値もありそうだ……どういう理由でこの私に侍らせてやろうか……


「お初にお目にかかります。私はリスター帝国学校のライナーと申します。リーガン公爵からもうすでに連絡は来ていると思いますが、武神祭の為に5年生をリーガンへ戻させて頂きます。その代わりに教師2名と1年生Sクラス8名を連れて参りました。引率者は私ですが、代表は1年生です。マルス自己紹介を」


 さわやか中年がそう言ったので、私は優雅に見えるように頷いた。こういうのは第一印象が重要だからな。それにしてもSクラスが来たのか……リーガン公爵からの手紙を直接見ていないから詳しいことは分からないが、使い捨てを送ってきたわけではないのか……


 それどころか今後のリスター連合国を担う者を連れてきたという事か。だとしたらこの超絶イケメンもSクラスという事だな。この顔でリスター連合国のホープ。何としても手中にしたい!


「初めまして。リスター帝国学校1年Sクラス序列1位 マルス・ブライアントです。ディバル先輩たちの後任として対応させていただきます。まだ1年生なのでご迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」


 うん! 実にいい! このはきはきした感じは最高だな。それにしてもこの背格好で1年生か……もう父とあまり差がないと思うが……これは絶対にモテるな。早く既成事実を作らねばならないな。男は……特にこのくらいの男の子は単純だから奥の部屋で胸の1つでも触らせれば私の事を好きになるだろう。


「私はイザーク辺境伯の長女イリーナ・ヴァイス子爵です。皆さま長旅ご苦労様でした。ディバルはライナーさんに引き継ぎをしてください。マルスは私と少し奥でお話をしましょう」


 私がマルスの手を引いて奥の部屋に行こうとした時だった。


「パシィィィン!!!」


 という乾いた音が部屋中に鳴り響いた。



 ☆☆☆



。私の自己紹介がまだだけど?」


 カレンは鞭を地面に叩きつけてイリーナの方に向かって言うと、イリーナは顔を引きつらせてカレンにこういう。


「あら? では自己紹介してくれる?」


 完全にイリーナはカレンの事を知らないな……カレンは鞭を地面に叩きつけながら自己紹介をした。


「リスター帝国学校1年Sクラス序列4位。フレスバルド公爵家次女、カレン・リオネルよ。イザーク辺境伯家の者がフレスバルド公爵家の者を前にして随分頭が高いと思うのは私だけかしら?」


 この一言は絶大な威力を発揮した。この場をカレンが完全に支配したのだ。イリーナはお辞儀をし、膝を曲げ、カレンの手を握り


「申し訳ございませんでした。今代のフレスバルド公爵家に次女が居るという事は知っておりましたが、まさかカレン様だとは……

カレン様のお噂は聞いております。何百年かぶりのフレスバルド家次女という事でフレスバルド公爵も大変喜ばれているとか」


 うん? 何百年かの次女って……フレスバルド家ってそんなに女の子が出来なかったのか……


「賢明ね。イリーナ。全てを水に流しましょう。それで私たちは何をすればいいのかしら? あ、これから先はマルスがやって。あなたがパーティリーダーだし、クランマスターなのだから」


 イリーナは先ほどまで自分が座っていた場所にカレンを座らせると、イリーナ自身は立ったままで返答した。


「本来ディバル達には死の森にいるフレスバルド公爵家の第2騎士団の烈火騎士団とイザーク騎士団に物資の補給のお願いと魔物の間引きのクエストを出していたのですが、急に東側から魔物が襲来してきたので、東の防衛をしてもらっておりました。幸いまだ魔物が弱かったようですが、だんだんと強くなっているようで……迷宮飽和ラビリンス魔物達の行進スタンピードではないと思うのですが……」


「分かりました。ではまず補給物資を我々が届けに行きましょう。幸い現在東側からきている魔物は我々だけでも食い止めることが出来ると思いますが、1日中戦い続けることは無理だと思いますので7時間だけ休憩時間をください。その7時間だけはイザーク側で戦力を捻出することは可能ですか?」


「……多分可能だとは思う……その辺の調整は騎士団員と直接お願い」


「分かりました。それでは僕たちはこれで失礼します」


 俺がそう言うとイリーナが


「ディバルはちょっと待っていて。依頼したクエストは完了してないけど、それは私たちが勝手に依頼内容を変更してしまったからだから、その辺のことを私が書きます。それをリーガン公爵に見せてください」


 ディバルは頷くとそれを聞いた俺は


「それでは戻ったら外にいる先輩たちにはここに戻る様に言っておきます。ディバル先輩お疲れさまでした」


 東の城門の外に出ると魔物はもう見えなくなっていた。そして城門付近には5年生の先輩たちがいたのでイリーナの所に戻る様に言うと先輩たちが


「【黎明】ってまだ1年生だよな? 可愛いし、綺麗だし、美人だし、スタイルいいし何よりも強いし可愛いし」


 可愛い2回言ったぞ。


「とりあえず戻る様にという事は伝えましたからね!」


 俺はそう言うとみんなの気配がする東の方へ向かった。1kmくらい東に進むと【創成】のメンバーを中心に魔物達を順調に倒していた。


「みんな聞いてくれ! これから2パーティに分ける。俺とカレンとブラムは一旦イザークに戻って死の森にいる騎士団たちに補給物資を届ける。


 他の7人はこのまま魔物を倒してほしい。だがあまり城門から離れないようにしてくれ。5年生たちはもう帰るから城門に何かあると困るから。また7時間の休憩がもらえると思う。クラリスとライナーでいつ休憩にするかイザークに戻って話し合ってくれ」


 あ、ライナーとブラムの事を呼び捨てにしていた。何人かは事情を知っているが知らない者もいるのに……まぁそのうち話すか……今はしっかりと先生と言うようにしないとな。


 俺たちは全員東門の方に戻ると、まずクラリスとライナーに騎士団の人と話し合いをしてもらった。


 クラリスとライナーの話し合いが終わるまでは俺たち補給班は東門で魔物達と戦う事にした。


 さすがにクラリスとライナーが抜けるとエリーの負担が大きくなるからね。少しするとバロンが後方に戻ってきた。


「すまない、ダメージを負ってしまったようだ。マルス頼めるか?」


 バロンが悔しそうに言ってきたので俺はもちろんと言ってバロンにヒールを唱えた。


 本当は俺に戦闘を変わって欲しいという事を言いたかったのは分かっている。だが俺はここで敢えてバロンにヒールを唱えた。


「な、なんだと……ヒール? 傷が塞がっている……」


 その様子を見たドミニクが俺とバロンの所にやってきて


「バロン、俺もマルスに新入生闘技大会の時に右腕を治してもらった。覚えているだろう? 俺のセレアンス王立学校の先鋒戦を」


 ミネルバも見ていたようで口が開きっぱなしだ。


「剣聖で、風王で、神聖魔法使い……過去にこんな人間が居たことあるのか?」


 バロンが信じられないという感じで呟いた。


「これで俺の隠し事もほとんどなくなった。さぁバロン魔物を倒して頑張ってレベルを上げてきてくれ。俺が行く前に念のためみんなにヒールをかけるから多少の傷は気にせず戦ってくれ!」


 するとバロンが納得したように


「そうか……だから【黎明】のメンバーのレベルや強さは異常なのか。怪我を気にせず戦えるのだからマルスのMPが続く限り戦えるし、パワーレベリングなんかしなくてもいいしな!」


 バロンが勢いよく魔物達の群れに突っ込むとドミニクとミネルバもそれに続く。エリーとミーシャは自分の方に来た魔物だけを倒す感じだ。


 しばらくするとクラリスとライナーが帰ってきたが2人の顔は暗かった。


「マルス……クラリスのサブリーダー……いや交渉役は考え直した方がいいな」


 ライナーが苦虫を潰したような表情で俺に言うとクラリスは「ごめんなさい」と困惑しているだけだった。


「どうしたのですか? クラリスにそんなに致命的な所は無いと思うのですが……」


「クラリスが悪い訳ではない。ただ話がなかなか進まないんだ。騎士団員も男だろ? 完全にクラリスに魅了されてしまってな。休憩時間を決めるだけで30分も掛かってしまった。騎士団員はどうしても話を長引かせたいらしくてな……

結局俺たちの休憩時間は21:00〜5:00までだ。お風呂入ったりご飯食べたりするのにもう1時間多めに貰っておいた」


 あー少しでもクラリスと一緒に居たいという事か……


「それでは次からバロンと一緒に行ってください。クラリス、みんなを頼んだぞ」


 俺はそう言ってブラムとカレンと一緒に東門を離れてイリーナの所に行った。


 イリーナの所に行き補給物資を受け取る事になったのだが、なんとまだ用意が出来ていないという。どうやら大量の水が必要らしい。まあ水は生命線だから仕方ない……


「イリーナ様、水はこちらで用意できます。他の物資だけを積み込もうと思うのですが、それの用意はできていますか?」


「ええ……馬車5台分の保存食はもうすぐに用意できます。だけど水は大丈夫ですか? 馬車10台分は必要ですが?」


 馬車10台分……2日くらいは死の森付近で過ごさないとダメかもな。水は水魔法を使って用意するつもりなのだ。


「はい。大丈夫です。それよりもあまり騎士団の方たちを待たせるわけにはいかないと思います。既に出発が2日ほど遅れていると思うので今すぐに出発したいと思うのですが?」


 本当はイザークに来たばかりで少しは休みたかったが、そうも言っていられない状況だと思ったのですぐに出発することにした。


 こうして俺とカレンとブラムは死の森にいる騎士団に物資を補給しに行くのであった。

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