第113話 城塞都市イザーク

2030年9月5日


 俺たち【暁】はリスター帝国学校を出発した。今回馬車は2台だ。


【黎明】で1台、【創成】と【剛毅】で1台の計2台で今回の馬車のワゴンは前よりもワンサイズ大きい。どちらも大人が6人乗り荷物を入れても余裕のサイズだ。そしてどちらの馬車にも御者を雇っている。


「なんかマルスがワゴンの中にいるのは新鮮ね」


 隣で俺と手をつないでいるクラリスがそう言うと反対側にいるミーシャも


「4年前もマルスはずっと御者役やっていたからね。なんか近くにいると安心というか嬉しいね」


 嬉しいことを言ってくれる。エリーは俺の肩で寝ており、カレンはこっちの馬車に来ているミネルバと話をしていた。


 つまり【黎明】側の馬車は男は俺だけ。女子も全員こっちにいる。対してもう1つの馬車には男が4人恨めしそうにこっちを見ている。なんか非常に気まずい……


 今日の夜泊まる予定のリーガン伯爵領の最北端の街に着くと、ご飯を食べてから宿に泊まった。



2030年9月6日


 朝7時に宿を出発し、すぐにフレスバルド公爵領に入る。そこには大きな関所があり、騎士団員が大勢詰めていた。


「すごいなぁ……関所にこんなに騎士団員を割くのか・・」


 俺がそういうとカレンが自慢げにこういった。


「これが4カ所にあるのよ。その他に2つの騎士団がいるわ。だからフレスバルド領で魔物は滅多に出ることはないわ」


 俺たちが関所を通過する番になり騎士団員からワゴンの中身と行先を聞かれた。これを全員にやっているのか……するとカレンがワゴンから出て行き


「ご苦労様。私のことわかるかしら? イザーク辺境伯の指名クエストに行くから急いでいるんだけど?」


 カレンがそういうと俺たちに質問した人はカレンの事を知らなかったらしいが、後ろに控えていた少し偉そうな人が


「これはカレンお嬢様。失礼致しました。フレスバルド公爵とリーガン公爵からは聞いております。どうぞ、お通り下さい」


 と片膝をついてから言うと、カレンを知らないさっきの騎士団員も慌てて片膝をついた。どこに行ってもカレンは特別待遇だな。


 フレスバルド領の馬車道はとても綺麗だった。道路は全て石魔法で敷き詰められているようで、道路の模様もひと工夫されていた。道路の脇にはきれいに牧草らしきものが生えている。


 何より魔物が一匹も出てこないことに驚いた。魔物が出なくて道も舗装されていると馬車の速度も自然と上がる。城塞都市イザークへの旅はとても順調だった。



 2030年9月9日


 フレスバルド公爵領を2日かけて縦断するとフレスバルド領の北の関所があった。この先が城塞都市イザークだ。


 関所を難なく通過するとそこは別世界だった……荒れた道、荒らされた草、そして遠くで魔物たちが我が物顔で徘徊している。


「な、なによこれ……」


 そう言ったのはカレンだった。


「もともとこんな感じじゃないのか?」


 俺がそう聞くとカレンが


「違うわ。イザークは死の森の防波堤の役目を果たしているから、イザークへ行くまでの道はきれいに舗装されていたのよ。フレスバルド家の騎士団が何度も往復するから。逆にイザークから死の森まではこんな感じだったと思うけど……」


「わかった。取り敢えず俺はワゴンの上に登って警戒する」


 俺がそう言ってワゴンの上に上がると隣の馬車からも俺を見習ってかバロンがワゴンの上に上がる。


「バロンはイザーク辺境伯領に来た事あるのか?」


 俺がバロンに対して聞くとバロンは


「何度かは来た事ある……死の森まで行ったことはないが……それにしても異様だな……魔物の気配が凄い」


「とりあえずイザークへ向かいながら魔物たちを倒そう。クラリス、カレン、ライナー、ブラム! 4人は馬車を護衛しながら進んでくれ! エリー、ミーシャ! 2人は先陣を切って魔物たちを倒してくれ! バロン、ドミニク、ミネルバ! 3人はエリーとミーシャの援護を! 俺は少し東の方から北上する! 魔物は東側から来ているようだ! みんな少しでもダメージを受けたらワゴンに戻ってくれ! いいな?」


 俺がみんなに指示を出すと一斉に動いた。もしかしたら死の森で魔物達の行進スタンピードが起きているのか? いや死の森って確か相当脅威度が高い魔物しか出ないと聞いていたから違うか……見える限りだが魔物の脅威度が最高でもDだからな。油断は出来ないが最悪な状況は免れているという事か……


 俺はウィンドカッターで遠くに見える敵を倒し続けた。他のメンバーも順調に敵を倒し続けている。魔物が居るのは東側ばかりで西側と進行方向にはあまり敵は居なかった。


 やはり東側……東北東方面から魔物は来ているらしい。少し北上するとすぐに城塞都市イザークが遠くに見えた。


 城塞都市というだけあってかなり高い壁に囲まれているのが分かる。壁もかなり分厚いみたいであれなら突破されるのにはかなり時間がかかる。それに壁の上から城外を攻撃できるようになっていた。近くに行けばもっと詳細に分かるだろう。


 どんどん北上していくと城塞都市イザークの南門が見えてきた。


「みんなもう少しで着くぞ!少し急ごう!」


 俺がそう言うと御者も馬車のスピードを上げる。御者としては一刻も早く城塞都市の中に入りたいだろう。


 城塞都市イザークの近くまで来ると南側の城門はしっかりと閉じられていた。これどうやって入るんだよ。


 みんなには待機をしてもらって俺は東側の城門の方へ向かった。壁が高くて東側がここからでは見えない。


 焦る気持ちを抑えて東側の方へ出ると、そこには東から3列に並んで突進してきている魔物たちと、それを迎え撃っているリスター帝国学校の紫色の刺繍の制服の人達が10名ほどいた。


 紫色という事はAクラスだ! あれは5年生のAクラスの人たちか。俺は急いで5年生たちの所へ向かう。


「リスター帝国学校1年Sクラスのマルスと言います! 先輩たちと交代するようにイザークに来たのですが」


 俺がそう言うと重装備をした5年生が


「助かった! 今は猫の手も借りたい! 昨日までは散発的にしか魔物は来なかったのだが、今日になってこれだ。最初は脅威度FとGしか出てこなかったのだが今はおそらくDとEばかりだ。どんどんDっぽいのが増えていっている。さすがに脅威度Dは倒すのに手間がかかるから援護を頼む!」


 俺はその言葉を聞いていきなりファイアストームを発現させるとファイアストームが東側から来る魔物たちを飲み込む。


 別に剣で倒していっても良かったのだがそれだと先輩たちと話す時間が減ってしまうと思ってファイアストームを使った。


 ぞくぞくと後方から来る魔物たちを焼き殺していると先輩たちはそれを呆然として見ていた。


「あのー……まだSクラスの仲間が南側の城門にいるのですが、どうやったら中に入れますかね?」


 呆然としている先輩たちに俺が問いかけると


「これはマルスがやっているんだよな? なんだ……この魔法は? 初めて見たんだが? そういえばマルスって新入生闘技大会の武術の部の大将の剣聖じゃなかったっけか?」


 と聞いてきたので


「ええ。詳しい話はあとにしてもらってどうやれば僕たちは中に入れますか?」


 俺が再度聞こうとすると城壁の上から声がかかった。


「ディバル君! なんだあのファイアストームは!?」


 すると俺と話していた先輩が


「これは援軍による魔法です! 南門に僕たちの代わりの生徒が来ていますので南門を開けてもらってもよろしいでしょうか?」


「分かった! すぐに開けるようにするから待ってもらってくれ!」


 上にいた男が見えなくなり俺は魔物たちの方を見た。まだファイアストームが魔物を蹂躙している。4年前はファイアストームで脅威度Dのキラーアントたちを倒せなかったのを考えると俺はだいぶ強くなったなと思う。


「先輩たちはどうやって城内に戻るつもりだったのですか?」


 俺がそう聞くとディバルと呼ばれていた男が


「俺たちは普通に東の城門を開けて戻るつもりだったよ? この門の裏にはイザーク騎士団の訓練生がいるから危なくなりそうだったら交代するつもりだったんだ」


 ちなみにこのディバルという男、相当ステータスが高い。今この場にいる10人のAクラスの中でも頭一つ抜けている。



【名前】ディバル・キリス

【称号】-

【身分】人族・キリス男爵家長男

【状態】良好

【年齢】14歳

【レベル】39

【HP】98/121

【MP】12/21

【筋力】50

【敏捷】40

【魔力】10

【器用】12

【耐久】60

【運】1

【特殊能力】斧術(Lv8/C)

【特殊能力】土魔法(Lv1/G)


【装備】ウォーアックス

【装備】バンデットヘルム

【装備】ミスリル銀の鎧

【装備】オーガシールド

【装備】バンデットグリーブ



 これを見るといくら魔剣ブラムを装備していたからとはいえ、ライナーのSクラス序列2位というのが霞んでくる。ライナーの場合は全てブラムに経験値を抜かれていたようだから仕方ないのかもしれないが……ただディバルもカレンや眼鏡っ子先輩のような魔眼持ちには絶対に勝てないだろう。


 俺はファイアストームを維持しながら、先輩たちが倒したであろう魔物たちの死体の山をファイアで焼き始める。


「おい……あんな凄い魔法を使っているのに同時に別の魔法を使えるのか?」


 とディバルが俺に対して聞いてくる。


「え、ええ……まぁ」


 とだけ俺が言うと更にディバルが


「今回マルスたちは武神祭でないんだよな?」


「リーガン公爵からは今年は諦めろと言われましたので来年頑張ります」


 するとディバルが安心した顔で


「マルスが武神祭に出場しなくて正直ほっとしているよ。俺は今年第2シードだからな。決勝でグレンと戦って勝つためにこの1年間頑張ってきたからな」


「ディバル先輩と呼ばせて頂きますね。第1シードは誰ですか? あとディバル先輩は4年生の時レベルいくつでした?」


 と俺が聞くと


「第1シードは当然去年準優勝でマルスの兄のグレ……アイクだ。4年生の時は覚えていないが、今年の2月の時はレベル25だったぞ」


 ディバルが答えてくれた。8か月でレベルが14も上がったのか……


 成長期だとレベルも上がりやすくなるのかな? 俺たちが話をしているとイザークの東門が開いた。


 中から【暁】のメンバーが出てくると俺の周りに集まった。するとディバルたちが女性陣を見るとざわつき始めた。


「近くで見るとやっぱ圧倒的だな」

「これを独り占めは流石にダメだろ」

「5人に増えていないか?」


 バロンやドミニクもいるのに女子しか見えないのか……


「マルス、イザーク辺境伯は騎士団と一緒に死の森へ向かっているらしい。今から代理の人が会ってくれるという事だからマルスは俺と一緒に来てくれ。ディバル。お前も一緒に来て引継ぎをしてそのままリスター帝国学校へ戻ってくれ」


 ライナーが俺とディバルにそう言ったのでここは残りのメンバーに任せて城塞都市イザークの中に入ろうとしたがカレンが一緒についてきた。このレベルの魔物であればクラリスとエリーが居れば十分すぎるだろう。


「私も行くわ。イザーク辺境伯領はフレスバルド公爵家の息が掛かっているから私が居れば話し合いもスムーズに進むと思うの」


 確かに……フレスバルド公爵家から騎士団も派遣されているから何かあればカレンが居てくれた方が絶対にいいに決まっている。


 俺たち4人はイザーク辺境伯の代理を務めている人の所まで急いで向かった。

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