6章 少年期 ~リスター帝国学校 1年生 夏休み?編~
第90話 修羅場
2030年6月30日
今俺は正座をしている。
そして俺の目の前には一通の手紙がある。
【親愛なるマルス君へ】
まぁ俗に言うラブレターである。そしてこれが届いたのが昨日、届け先が1年生の女子寮の最上階……つまり【黎明】の女子パーティの部屋であった。
こういう手紙は結構届くのだが、人物と書かれている内容が良くなかった。
もちろん差出人は眼鏡っ子先輩だ。内容はというと
『マルス君へ
この前2人で授業を抜け出した時の約束覚えてるよね。7月1日の放課後にいつもの場所で待ってます。
P.S.私の初めてをあげたんだから約束忘れていないよね? 忘れていたらアイクに泣きつきます。 あなたの眼鏡っ子より」
俺が今どこで正座をしているかと言うと女子寮6階のみんなが羨むハーレム部屋だ。
俺の周りには4人の鬼と部外者1名……部外者と言ってもSクラスの女子4人一緒の部屋に住むと1人だけ仲間外れみたいな扱いで可哀想とクラリスが言ったのでミネルバも一緒に黎明の女子パーティの部屋に住んでいた。
普通女子寮に入るのは禁止だ。
だが俺は同棲を解消しただけで、別にいつだってこの部屋に入ることは出来る。
いや出来てしまう……女子寮立ち入り禁止にしてくれれば良かったのに……
クラリスが笑顔を顔に貼り付かせて俺に言う。
「マルス。怒らないから正直に言ってごらん。最近エーデ先輩ととても仲いいよね? 眼鏡っ子先輩とかよく言ってるよね? エーデ先輩の初めてって何をもらったの?」
クラリスの目が怖くて直視できない俺は下を向いて答える。
「い、いえ何も貰ってません……」
「あら、ではエーデ先輩が嘘を言ってるという事かしら? 忘れられると泣いてしまうような事を
「そ、そんなことはしてないです……」
すると今度は嫉妬の女王が
「……マルス……最近変わった……悲しい……」
刺さる言葉を言ってきた。
なんかこういう言葉を女性に言わせるのはダメだと思うんだ。
最低な奴って感じがする……言わせているのは俺なんだけど……
次はリトル女王が
「クラリスとエリー、ミーシャならいざ知らず、エーデには負けられない! さぁマルス、エーデに犯った事を今すぐ私に犯りなさい!」
そう言うとカレンは急に横になって目を瞑った。
カレンさーん。字が危険な字ですよー。
最後に暴走エルフが急に俺に抱き着いてきてキスをしようとしてきた。
「なんで私はダメなの? 眼鏡先輩はよくて……?」
俺がミーシャの肩を押さえて懸命にミーシャを止めるとミーシャの目から涙が溢れてきた……
この修羅場は放課後から19時までの4時間弱も続いた。
全ては明日の放課後に眼鏡っ子先輩と会ってからという事になった。
そして翌日の放課後、つまり2030年7月1日の放課後に俺は生徒会室に行った。
俺はクラリスとエリーの肩を借りて生徒会室の扉を叩いた。
座学の時間はともかく、魔法の時間と武術の時間までも正座なんて……
「失礼しまぁーす……」
俺が生徒会室に入るとアイクが俺の方を見て普通ではない雰囲気にすぐに気づいた。
「ま、マルス……どうした?クラリスはともかくエリーやカレン、ミーシャがいるなんて珍しいじゃないか?……」
すると俺に回答権はなく、クラリスが笑顔を顔に貼り付かせて
「少しエーデ先輩に用事がありまして。すぐに終わる? と思いますので。少しの間お邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか? お義兄様?」
アイクも少し気おくれをしているようで
「あ、ああ……なんかよく分からないけど……あまり過激なことはしてはダメだぞ? ただマルスの婚約者たちがエーデに用があるって……マルス! お前まさかエーデまで?……」
流石自慢の兄だ……こういう嫌なところまで察しがいい……
「え、冤罪なんです……僕はやってません……」
すると4人の裁判官が俺を睨みつける。
いやもう裁判官ではない。刑の執行人のようだ……そこに今回の件の発端者の眼鏡っ子先輩が来た。
「あら? みんなお揃いなの? でもダメよ? 約束通りマルス君だけだからね? ではマルス君行きましょう?」
するとクラリスが何か眼鏡っ子先輩に言おうとしていたがアイクがクラリスを制して
「エーデ。お前はマルスとどこで何をするつもりなんだ?」
アイクが眼鏡っ子先輩に聞く。すると眼鏡っ子先輩は
「あら、アイクにはこの前相談したじゃない? 今から体育館で……ね。」
ねっと言って俺の手を眼鏡っ子先輩が引っ張る。
するとクラリスが俺の反対側の手を引っ張る。
「ちょっと。まだ話は終わっていません!」
クラリスが大きな声を出して俺を止めると眼鏡っ子先輩が驚いていた。するとアイクがクラリスに
「クラリス。ここは俺が責任を取るからエーデの好きなようにさせてくれ。絶対にお前たち4人に被害が及ぶことはない……と思う。少なくともお前たちが思っているようなことは起きない」
アイクが俺とクラリスの手を引き離す。
アイクは俺に申し訳なさそうにして顔の前で手を合わせた。
ゴメンのサインか? それともご愁傷様のサインか?
俺は眼鏡っ子先輩に連れられて体育館に連れていかれた。
あ、足が痺れて……ちなみに昨日こっそり神聖魔法で痺れを回復したらクラリスに反省の色が見えないと言われて使えない……
そのホールはこの前ライナーと戦った時のような感じではなく2階から下を見渡せるようなかなり大きめの体育館だった。
そして2階にはたくさんの女生徒がいた。
みんな上級生らしく2階からなぜか俺に黄色い声援が送られる。
「マルス君頑張って」
「マルス君大好きよー」
「マルス君勝ったら私を好きにしていいわよー」
すると眼鏡っ子先輩が
「やっぱりマルス君の応援が多いわね……9割以上がマルス君目当てって言う事ね。久しぶりのアウェー感で燃えてくるじゃない!」
「まぁ儂らが完勝するからすぐに悲鳴にかわるじゃろ。みんなやり過ぎるなよ。アイクに怒られるからな」
ホールには【紅蓮】のメンバーが既におり、アイク以外のメンバーで話し合っていた。
俺にはもうこれから何が行われるかが分かった。
だけど処刑人の4人には意味が分からないらしい……
俺が4人に説明をしようとするとアイクが手を出して俺を制した。
きっとアイクから4人に説明がされるのであろう。
俺としてはアイクから説明してもらった方がありがたい。
ん? アイクは俺と眼鏡っ子先輩の会話を知っていたのか? なぜアイクは知っているのか? そして知っているのであれば何故生徒会室で誤解を解いてくれなかった?
俺がホールの真ん中に近づくとどうやら司会進行役と思われる女の声が体育館に響く。
あれ? この声ってもしかして新入生闘技大会の時のウグイス嬢?
「さぁ皆さん! 本日のメインイベントです! まず赤コーナー! 言わずとも知れたリスター帝国学校の最強にして最高のパーティ! 誰もがそのパーティに憧れ、そして誰もがそのパーティを羨んだぁぁぁああああー。Bランクパーティー【紅蓮】!!!!!!」
会場の少しの男たちからの歓声が上がった。
「そして青コーナーからはぁぁああ! このリスター帝国学校の最高傑作とも名高いアイク・ブライアントの弟! 金髪で容姿の整ったその顔は、我々女子よりも綺麗で繊細、何より! 1年生にしてハーレムパーティの主! この戦いに勝って我らがエーデをハーレムの一員に迎え入れようとしている男の名は……
マルスゥゥゥウウウ・ブライアントォォォオオオオ!」
間違いない……この煽りは新入生闘技大会のウグイス嬢だ……
俺のアナウンスが流れると2階にいる先輩の女生徒たちが大騒ぎした。
上を向いたら何百人もの桜景色が見えた。
しかしすぐにクラリスが俺の所までやってきて
「あとで私たちのを好きなだけ見せてあげるから上は向かないでね」
相変わらず笑顔を張り付けた表情で俺に言ってくる。
俺としてラッキーだと思うのだが喜んではダメな気がする……
「歓声が凄かったから気になっただけだよ。それよりも少し誤解は解けたかい?」
するとクラリスが申し訳なさそうに
「先ほどお義兄様から事情は聴きました……本当にごめんね! 私はずっとマルスを信じていたよ……」
どんどん語尾が弱くなっていく……
「でも! 初めてって何をもらったの!? その返答次第ではやっぱり許さないんだから!」
その言葉を聞いた眼鏡っ子先輩が
「私の初めてってこと? そんなの当然じゃない。手紙で書けるわけもなく、人前でも言えるわけないわ」
それを聞いたクラリスが
「ほら、マルス浮気しているじゃない!」
「え? 浮気? ……あなたたちはあれで浮気になるの? ただ私が初めて授業をサボった時間をマルス君にあげただけなのに?」
眼鏡っ子先輩がそう言うとクラリスが
「え? 初めてって……授業をサボった事? 授業をサボって2人で何かいかがわしい事をしたのではなくて?」
「いかがわしいと言えばいかがわしいかもしれないけど……ただアイクが、【紅蓮】がまとめてマルス君にかかっても勝てないって言うから、私が授業をサボってマルス君に交渉に行っただけだけど……いかがわしいかしら?」
クラリスは大混乱をしている、
「え? いかがわしいって……どういう事……マルスはなんで何も言わなかったの?……」
いや俺は絶対にやってないって言ったぞ。
少し俺も腹が立っていたのでクラリスに
「この裁判で、本当に裁くことができる人間は、僕しかいない。少なくとも僕は、裁判官を裁くことができる。あなたは間違いを犯した」
クラリスは分かってくれたらしく
「そ、それでも私は……ね」
と言って後ずさりをした。
俺はすかさずクラリスに
「あとで4人纏めてお仕置きだからな。覚悟しといてね」
さて婚約者をいじめるのはこれくらいにして眼鏡っ子先輩に
「もともとは眼鏡っ子先輩が変な手紙をよこすから悪いんですよ。毎日生徒会室で会うんだからそこで言ってくれれば良かったのに」
そう言うと眼鏡っ子先輩は
「だって果たし状的なものは必要でしょ? だけど流石にハーレム部屋に果たし状を送るっておかしいと思わない? だから、他の子と同じようにラブレター形式にしたのだけれども……ダメだった?」
ウィンクしながら言ってきた。
この手紙は計算だったのか? 天然だったのか?
「で、私たち【紅蓮】は何を賭けようかしら? 流石に婚約者にはなれないけど……」
「ではうちのメンバーの誤解を解いてください。特にカレンとミーシャは危なっかしいですから」
そう言って俺は後ろの4人を見ると、アイクの説得が効いたようで、小さくなっていた。
もう完全に誤解は解けたっぽいから眼鏡っ子先輩に言ってもらわなくても大丈夫かもしれない。ただ念には念をだ。
そして俺と紅蓮の因縁?の戦いが始まったのである。
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