第88話 ライナーとブラム
-----まえがき-----
途中で3人称視点が入ります。
-----まえがき-----
2030年4月15日
「来て頂いてありがとうございます。ライナー先生」
俺はリーガン公爵に用意してもらった体育館にライナーを呼んだ。
今は午後の魔法の授業の時間。サーシャにお願いして今日の魔法の授業を武術の時間にしてもらったのだ。
ちなみに他の生徒たちは外の見張りをしている。
アイクとエリーはこの建物の屋上に、クラリス以外のSクラスの生徒は建物付近にいる。そしてリーガン公爵とサーシャにも付近にいてもらい、他の先生たちがここに入らないようにしてもらっている。
「どうしたんだいマルス君?サーシャ先生に呼ばれてきたけど……」
ライナーは本当に事情を知らないらしい。
なので俺はここぞとばかりに鑑定を使いながらこう言った。
「今日は真剣勝負をしてみたくて呼びました。いいですか?」
俺はそう言いながらライナーを鑑定する。
やはり正常と思われる今でも状態は呪いのままだ。
そしてすぐに魔剣ブラムの鑑定に入る。
【名前】ブラム・チェスト
【称号】-
【身分】人族・平民
【状態】呪い
【年齢】32歳
【レベル】51
【HP】52/52
【MP】212/213
ここまでしか鑑定できなかった。鑑定中にすぐに魔剣ブラムが俺の前に現れてその剣を持ったライナーが俺に襲い掛かってきた。
鑑定結果を気にしていると確実に殺されてしまうからだ。
リーガン公爵の言っていたように魔剣ブラムは人だった。
ライナーはもう正気ではないっぽい。
完全に俺を殺そうと必殺の一撃をずっと放ってくる。
俺は
そして魔法も使いたい放題、やばいと思ったらウィンドカッターで弾けばいい。
この体育館の中には
2、3分耐えるとライナーたちが仕掛けてきた。
氷の刃がどこからか出てきてライナーの利き手の右手に収まった。
左手には魔剣ブラム……これはやばい……右手はライナーの剣術で左手はブラムからのトリッキーな攻撃が来るという事か。
俺はライナーの右の剣を
魔剣ブラムは弾いたと思ったら座標を転移してくるから魔法での迎撃の方がやりやすいのである。
ただ戦況は芳しくなかった。
右手の勝負は互角、いや互角以上に戦えるのだが、魔剣ブラムに対しての防御がどうしても遅れてしまう。
何故かというと魔剣ブラムが短剣を空間魔法で持ってきたらしく、その短剣を躱しきることが出来ないのだ。
そして丁寧にその短剣には毒が塗ってある……
なので俺はずっとウィンドカッターで魔剣ブラムの攻撃を捌き、毒が塗ってある短剣の攻撃をできれば躱し、躱せなければ食らってすぐにキュア→ヒールの順で回復する。
よかった毎日のように魔法の訓練をして最大MPを上げておいて。
今の俺は最大MPが7600以上ある。
1分間にMPを100使ったとしても1時間以上は戦闘が継続できる。
まぁ俺の場合1分間に100なんてあっという間に使えてしまうから
俺が攻撃を捌き続けるうちにライナーの表情が変わっていく。
最初は激高したようだが、いつものライナーの顔に戻っている気がする。
ただ神聖魔法に対してやはり抵抗があるらしい。
俺がヒールやキュアを使った時はかなり俺を警戒していた。
ただ驚いていただけかもしれないが……・
相変わらず魔剣ブラムを持つライナーの左手の攻撃だけは気を抜くことは出来ないが、少し鑑定をする余裕だけは出来た。
俺が見るのは魔剣ブラムの残りMPだ。残り80を切った。
空間魔法をあと80回乗り切れば俺の勝ちという事だ。
この【天眼】による鑑定はマルスを有利な戦況に導いた。
なぜならマルスは相手の残りの戦闘力を計算して叩けるのに対してライナー、魔剣ブラムは相手の残りMPが分からない。常識的に考えると風魔法をこれだけ連発し、神聖魔法を使いまくっているマルスのMPは1分も持たずに枯渇するはずだ。しかしマルスは魔法を使うのを惜しまない。
顔はいつものライナーに戻っているようだが、余裕がなくなっているのか、どんどん攻撃が激しくなっていく。早く決めてしまいたいという雰囲気だ。
そしてブラムのMPもどんどん無くなっていく……ブラムの残りMPが一桁になった。
俺も常に魔法を使っているから残り500を切っている。
実はこっちはこっちでかなりギリギリの戦いをしていた。
ブラムの残りMPをずっと鑑定し続ける。
5、4、3、2……残り2で魔剣ブラムが空間の中に消えていった。
つまり残り2の時に空間魔法を使ったから今は1だ。
よし!作戦通り……
俺はずっとブラムのMPを見ていたのでライナーの右手の脅威を全く見ていなかった。
ライナーが俺の隙を見逃すわけが無かった。
俺はライナーの右手から繰り出される必殺の一撃を躱しきれず、右腕に浴びてしまい
ライナーが勝負どころと思ったようで、凄い勢いで斬ってくるが俺はなんとかウィンドカッターで迎撃する。
そしてその時だった。
右手のライナーの剣をウィンドカッターで弾いた時にライナーの左手には魔剣ブラムが現れた。
絶対に躱すことの出来ない必中の凶刃が俺を襲う。
俺は
身体が付いてくることが出来ず、骨や筋組織に多大なダメージが残り危険だ。
まぁヒールで治るんだけどね。
必中だと思った魔剣ブラムでの攻撃を外したライナーは必死の形相で俺に襲い掛かる。
すぐに俺は
「クラリス!」
するとクラリスは待ってましたと言わんばかりに、体育館の女子トイレから出てきて
あまりの衝撃にライナーは思わず魔剣ブラムを落としてしまい、クラリスが
俺は
クラリスは魔剣ブラムの所に走っていき、魔剣ブラムにハイヒールを何度も唱える。
もう魔剣ブラムはMPが0なので空間に逃げることもできない。
俺たちの作戦は最初から魔剣ブラムのMPを1にしてブラムが空間に戻った時にピンチを演出して最後のMPを消費させて逃げられないようにすることだった。
ライナーの呪いが解除されても魔剣ブラムがあったら、またライナーが呪われてしまうかもしれないと思ったからだ。
また最初からクラリスが居たら警戒されて、ブラムがMPを温存するだろうと思って、クラリスにはずっと待機してもらっていた。
今回は最良のパターンで済んだが、最悪俺の腹を貫かれてまで魔剣ブラムのMPを0にするという作戦まであった。
何度かクラリスがハイヒールをかけると魔剣ブラムから光が放たれ、アイクより少し背の低い男が裸で現れた。
恐らくブラムであろう。魔力欠乏症で気絶しているようだ。
俺はすぐにライナーの方に視線をやると俺に斬りかかってくるところだった。
俺に斬りかかってくる男の顔は涙で溢れていた。
嗚咽を漏らしながら、泣きながら俺に斬りかかってきた。
その太刀筋で、その威力で何が斬れるのか? というくらいの斬撃だった。
まだライナーは呪いとなっていた。
俺はライナーと鍔迫り合いをしながら、ライナーの剣を封じ込める。
もうライナーの目線の先に俺はいなかった。
ずっと横たわっているブラムを見ている。
クラリスが俺とライナーが鍔迫り合いをしている時にライナーに近づきハイヒールをかける。
ついにライナーの呪いも解け、ライナーはその場に崩れ落ちた。
少し時間が経ち落ち着いてから、俺とクラリスとライナーは裸で横たわっているブラムの隣に座った。
ちなみに外のみんなにはまだ戦闘が終わったことは伝えていない。
15:00になったらアイクが1回見に来る予定だが、まだ14:30だから問題ない。
ちなみに俺は上半身裸だ。ライナーとブラムに斬られまくったせいで色々なところに穴が開いていて、この服やローブを俺たち以外の人に見られるわけにはいかなかったのだ。これだけ血が付いているのに俺の身体のどこにも切り傷がないからだ。
どうやって回復したんだよ? って聞かれたらどうしようも無いしね。
俺は自分の上半身に着ていた制服とローブを燃やしていた。
だから俺にはブラムにかける服が無い。
クラリスはしっかり制服とローブを着ているが女の子のローブを男の股間を隠すために使うのは抵抗がある。
ライナーは別に気にしてない。
「っありがとう……本当に……ありがとう」
ライナーが俺に対して何度もお礼を言ってくる。
「いいえ。無事に解呪できて良かったです。あと僕とクラリスの魔法の事は絶対に他言無用でお願いします」
「そんなことは分かっている。何度もこの学園で悲劇を見たからな」
ライナーの顔は憑き物が落ちたような顔をしている。
そしてライナーはぽつぽつと話し始めた。
「今でもキュルスを殺したときのことを覚えている。今でも冒険者の仲間を後ろから切り殺したことを覚えている。今でもブラムからの悲痛な声を覚えている……」
やはりキュルスを殺したのはライナーか……
「ブラムさんも苦しんでいたのですか?」
「多分ブラムの方が苦しんでいたと思う。魔剣ブラムの呪いで親友の俺に何人も殺させてしまった。どうやったら元の姿に戻れるか分からないしどうやったら死ねるかも分からない……ずっとそう言っていたよ」
俺とクラリスは黙ってライナーの言葉に耳を傾ける。
絶対にこうやって聞いてあげることは必要だと思うんだ。
「俺も自由に言葉を話せることもあったんだけどどうしても魔剣ブラムを持ったり、感じてしまうと思考や行動が残虐なものになってしまう……分かってはいるんだけど、話せる人がブラムしかいなくてな。だからこの1か月は君たちと話せていたからブラムと話さなくて済んだ。呪いもあまり発動しなかった。だけどそうするとブラムはずっと1人だ。ブラムをこのようにしてしまった原因が俺にあるからどうしても放っておくことは出来なくてな……そしていつも呪いが発動しての繰り返しだ」
思ったよりもずっと壮絶で過酷だったんだな……この人たちに罪を問えるのだろうか? リーガン公爵の気持ちがなんとなく分かる……
「俺は罪を償うよ。ブラムと一緒に。ずっと2人で決めていたんだ、もしも戻れたら罪を償おうって。まぁそう言う話をするとまた呪いが発動したりするんだけどな」
ライナーの顔はもう決意した顔だった。
「分かりました。このリーガン公爵領のルールに則りましょう。リーガン公爵に来て頂くので待っていてくだ……」
俺は途中で言葉を止めた。
ここでライナーを1人残したらもしかしたら自害してしまうかもしれない……
「クラリス、悪いけどリーガン公爵とアイク兄を呼んできてくれないか? クラリスは外に行って一応俺たちは無事だと伝えて欲しい」
クラリスは意図を理解してくれたのか、すぐに体育館の外に出て行った。
ライナーはそれを見て苦笑している。
やはり自害するつもりだったのかな?
リーガン公爵とアイクはすぐにやってきて、リーガン公爵はライナーの顔を見て泣いて、ブラムの顔を見るや否やその場に泣き崩れた。
公爵……泣き崩れるのはいいですが、場所を弁えた方が……貴女の目の前にはブラムの股間が何も隠されていない状態で……
アイクは俺の所にやってきてグータッチをしてきた。
そして一言「さすが自慢の弟だ」俺はこの言葉が一番うれしい。
するとライナーがアイクに向かって謝罪した。
「アイク君。申し訳ないことをしてすまなかった」
するとアイクも
「あれで慢心していた僕の心が引き締まったのも事実です。謝らないでください。僕にはいい薬となりましたから」
その後しばらくしてから俺たちは場所を移して今後について話し始めた。
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