第74話 決起集会

 2030年2月10日


「よーし。もうだいぶ良くなってきた。今年は総合1位どころか武術、魔法両方とも1位取れるかもな」


 ローレンツが満足そうに言うと俺たちは訓練をやめた。


 2月14日の新入生闘技大会に向けてひたすら訓練してきたが、明日からは疲れをとることにしたのだ。


 みんなそれぞれ強くなったが、エリーとミーシャの成長速度が凄かったので紹介しておこう。



【名前】エリー・レオ

【称号】-

【身分】獣人族(獅子族)・レオ準女爵家当主

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】20

【HP】64/64

【MP】31/31

【筋力】44

【敏捷】54

【魔力】11

【器用】11

【耐久】36

【運】10

【固有能力】音魔法(Lv1/C)

【特殊能力】体術(Lv6/B)

【特殊能力】短剣術(Lv5/C)

【特殊能力】風魔法(Lv1/G)


【装備】ミスリル銀の短剣

【装備】風の短剣シルフダガー

【装備】風のマント

【装備】風のブーツ



 エリーは敏捷値が俺と同じになった。

 獣人特有の動きもあり、捉えることがかなり難しい。



【名前】ミーシャ・フェブラント

【称号】-

【身分】妖精族エルフ・平民

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】12

【HP】23/23

【MP】74/74

【筋力】20

【敏捷】22

【魔力】22

【器用】20

【耐久】13

【運】5

【特殊能力】槍術(Lv5/B)

【特殊能力】水魔法(Lv3/C)

【特殊能力】風魔法(Lv3/D)


【装備】疾風の槍

【装備】幻影のローブ



 ミーシャは万遍なく全てが強化された。


 特に槍術、水魔法、風魔法のレベルが1ずつ上がったのが大きい。



 またAクラスから2人急遽Sクラスにクラス替えされた者がいた。ミネルバとヨハンだ。


 イセリア大陸から来るはずだった魔族の2人が正式に入学しないことが決まったのだ。


 ミネルバはリーガン連合国の有力貴族の娘らしく、カレンとバロンと既知の仲だった。


 ヨハンはヨーゼフとかなり親しいらしくいつも一緒に行動している。


 2人とも魔法使いで後衛だった。



 出場メンバーの編成はこうだ。

 武術(前衛)の部

 序列1位 マルス

 序列3位 エリー

 序列4位 バロン

 序列6位 ドミニク

 序列7位 ミーシャ


 魔法(後衛)の部

 序列2位 クラリス

 序列5位 カレン

 序列8位 ヨーゼフ

 序列9位 ミネルバ

 序列10位 ヨハン



 圧倒的に武術(前衛)の方に戦力が偏ってしまった。カレン、ヨーゼフ、ミネルバ、ヨハンが後衛しかできないので、仕方ないのだが……


 ちなみにバロンは絶対に後衛がいいと言っていたのだが、無理やりにでも前衛に連れてきた。


 どうしてもクラリスと同じチームが良かったようだ。



 2030年2月13日



 今日は明日から行われる新入生闘技大会の決起集会という事で、Sクラスの全員とローレンツでお店にご飯を食べに来ている。


 この時期に外に出られるのはSクラスだけの特権だ。


 クラスメイトの最初の出会い方は最悪だったが、たった一か月でかなり仲良くなれた気がする。


「ねぇマルス。早くパーティを作って欲しいんだけど……ダメかな?」


 クラリスが俺にそう言うとエリーも同じように「……うん。早くして……」と同意する。


「どうした? 闘技大会が終わってからゆっくりと思ってたんだけど……」


「なんかね。勧誘が凄いのよ……2月から上級生たちも学校に来るようになったじゃない? 毎日のようにパーティに勧誘されて……もうパーティに入っていれば勧誘も減るだろうし、断りやすいかなと思って……お願い」


「あーあれはパーティ勧誘だったのか……何しているんだろうとは思っていたけど……そうだな。じゃあパーティ作ろうか。とりあえず俺とクラリスとエリーでいいよな?」


 俺がそう言うとミーシャが


「なんで私は? 私も当然入っているよね? 見捨てないよね?」


 と目を潤ませながら上目遣いで近寄ってくる。


 正直ミーシャのパーティ入りを真剣に考えてはいたんだが、俺のパーティに入るという事は、俺とクラリスが神聖魔法を使えるという事がばれてしまう。


 パーティを組むとなると危険な迷宮にも挑むから神聖魔法を使わないという選択肢があまりないのだ。


 俺が困ったような顔をしてクラリスの方を見るとクラリスは


「私はミーシャがパーティメンバーになるのは賛成だよ。でもパーティルールをしっかり守る事が条件」


「……マルスの意見に従う……枠が空いていると変なのがパーティに入りたがる……そいつらを断るのが面倒……ミーシャを入れた方がいい……」


 珍しくエリーが長文を喋った。


「そうだな。じゃあミーシャも歓迎しよう。1人の枠は開けておくとして、もう1人はまた今度決めるか」


 俺がそう言うと、ミーシャが俺に抱きついてきた。


「ありがとう。マルス。大好き」


 クラリスとエリーの視線が俺に刺さるすると今度はカレンが


「何言っているのマルス! 当然私も入るわよ! しっかり私をエスコートしなさい」


「え? だってバロンは? 流石に5人までしか入れないよ? 6人目は神聖魔法使いと決めているからな」


 俺がバロンを見ながら言うとバロンが


「マルス言わなくても分かっているだろう。取り敢えず俺とカレンの婚約は一旦お預けとなった。もうお互いで決めた事で、両家にも伝えてある。それに婚約解消したからと言って結婚しないという事にはならない。またお互いを求めあえるようになれば、その時また考えるさ。だから俺諦めない」


 バロンはそう言うとクラリスの方を見つめた。


 この世界の常識が俺にはわからない。俺がおかしいのか、バロンたちがおかしいのか……


「バロン、お前はどういうパーティ編成にするつもりだ?」


 俺がバロンに聞くと


「まず、ドミニクを誘ってOKの返事がもらえた。あとはミネルバにもOKをもらったから俺たちはあと2人だな。ヨーゼフとヨハンにも声をかけたのだが、考えさせてほしいと言われてな。まぁ最低でも前衛は3人欲しいから正直ヨーゼフとヨハン2人一緒だとパーティ編成が苦しくなってしまうがな」


「そうだな……バランス大事だよな。カレンが俺のパーティに入るとなると前衛が俺、エリー、ミーシャ、後衛がクラリス、カレン……うん! 凄いバランスがいいな!」


 俺がそう言うとミネルバが


「マルス君のパーティほどバランスが悪いパーティもないと思うよ?」


「どうして前衛が3人で後衛が2人だからよくないか?」


 俺が問い返すと


「男1人、女4人って……ハーレムパーティを何組か見たり、聞いたりした事はあるけど女4人っていうパーティは初めてだよ。しかもクラリス、エリー、ミーシャにカレン様。1年生の可愛いランキングベスト5のうち4人もパーティメンバーにするなんて。この学校の生徒じゃなきゃ何のパーティメンバーだよって思うに決まっているよ。間違いなく冒険者ギルドで他の男冒険者に絡まれるね」


 俺はクラリス、エリー、ミーシャ、カレンを見る。


 うん。クラリスとエリーは間違いないが、ミーシャも妖精族エルフで可愛いかもしれない。


 カレンも顔立ちがはっきりして、背が小さく美人かもしれない。


 俺はずっとクラリスばかり見ていたから気づかなかったが、ミーシャとカレンも相当可愛いのだ。


「あぁ……じゃあやっぱり、ミーシャとカレンは遠慮してもらうか……」


 2人が必死になって俺とクラリスを説得し正式にパーティメンバーになったのはこの決起集会が終わりを迎える頃だった。


「ローレンツ先生、新入生闘技大会の展望はどんな感じなのですか?」


「リスター帝国学校の総合優勝は間違いないと思う。後衛の方は間違いなく、1位を取れるだろう。そもそも魔法使いって貴重だからな。この学校ではほとんどの生徒が当たり前のように使えるけど、他の学校で使えるのはほんの一握りだからな」


「後衛というと前衛は1位取れないかもしれないとの事ですか?」


「あぁ。4年前から1位を取ったことが無い……エリーは知っているかもしれないが、武術の部のここ4年間優勝しているのはセレアンス王立学校という、 現セレアンス公爵が新しく作った学校だ」


「王立学校? なんでリスター連合国……しかも新しく作った学校で? あとセレアンス公爵ってエリーのお父さんのバーンズ様の?」


「そうだ。クーデターを起こした人が今のセレアンス公爵だ。長くなるが詳しく聞きたいか?」


 ローレンツが俺だけではなく、みんなを見回す。するとカレンが


「私や、バロン、それにミネルバは知っているけど、知らない人の為に教えた方がいいと思うわ」


 どうやらリスター連合国ではかなり知られている事らしい。


 ローレンツが頷くと話し始めた。


「現セレアンス公爵の名前はヴィクトリー・レオ様と言って獅子族の黒獅子だ。そしてバーンズ様の弟でもある。金獅子は獅子族の中でも最高の力を誇る。ただ金獅子は50年に1度くらいしか生まれない希少種なのはしっているよな?」


 俺は全く知らなかったが、相槌を打つ。


「金獅子が生まれると必ずセレアンス公爵となるのが獣人たちのルールだった。今まで2代続けて金獅子が生まれるなんてことが無かったからヴィクトリー様はバーンズ様がお亡くなりになったら少ない期間でも必ず自分がセレアンス公爵になれると思っていたんだ」


「そこに金獅子のエリーが生まれてしまったという事か……」


 俺がそう言うと、ローレンツが頷いて


「野心家のヴィクトリー様は色々謀ってな。もともと黒獅子は金獅子の影のような存在。権謀術数けんぼうじゅっすうに長けており根回しも万全。バーンズ様が屋敷を後にしたときにクーデターを起こして成功した」


「それがセレアンス王立学校と何か関係が?」


 今度はクラリスがローレンツに質問した。


「バーンズ様は我々人間と少しは協力するべきだと主張しており、ヴィクトリー様は獣人だけで全てをやる。つまり獣人の国を作ると主張していた。ヴィクトリー様が公爵になった時にセレアンス王立学校を作ってな。


今までリスター帝国学校に来ていた獣人たちがほとんどセレアンス王立学校に行ってしまった。特にひどかったのが今の5年生が新入生だった時だ。当時の新入生闘技大会のリスター帝国学校の武術の代表5名のうち3名が獣人でな。その3人とも2月初旬にセレアンス王立学校に転校してしまって、リスター帝国学校側の武術の部は酷いものだった」


「4年前からずっとセレアンス王立学校が1位という事はアイク兄も負けたのですか?」


「いやアイクだけは勝ったよ。それもかなり圧倒的な力の差でな。ただ今年はヴィクトリー様の嫡男が新入生という事だからセレアンス王立学校も気合が入っていると思う。どんな事をしても勝ちに来ると思うぞ。なんせ獣人は人族より強いという事が前提でヴィクトリー様はセレアンス公爵になったからな」


「……獣人族は力こそ全て……それもあって私はマルスが1番……だけど私がマルスを1番と思うのは力だけじゃない……」


 エリーが重い口を開いた。


 確かに獣人たちはプライドが高く、自分よりも弱いものを認めない。


 それは黒い三狼星たちを見れば分かる。


「権謀術数も力という事なのか……」


 セレアンス王立学校にだけは負けてはいけない気がする。本気で戦おう。


 俺たちは決意を新たに4日後の新入生闘技大会に臨むのであった。

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