第68話 リスター帝国学校

「ど、どうして監視していたの?」


 クラリスが驚いた顔でミーシャに聞いた。するとミーシャが


「ご、ごめん……本当はマルスとクラリスを見つけた時にすぐに声をかけようと思ったんだけど……その……その子が気になって……」


 ミーシャがエリーの事を見ながら言った。


「何はともあれミーシャたちで良かった。ミーシャ久しぶり。サーシャさんもご無沙汰しております」


 俺がミーシャとサーシャに言うと、サーシャが


「ごめんね。マルス君。どうしてもミーシャが声をかけるのを嫌がって……この子これで人見知りなのよ」


 申し訳なさそうに言うと、エリーの第一声が


「……初めまして。エリー・レオ……マルスの妻……」


 ミーシャとサーシャがびっくりした顔でエリーと俺の顔を何度も往復した。


 エリーの顔は何故か勝ち誇っている。


「え? マルス結婚した……の? ……え?」


「マルス君まだ9歳よね? もう結婚?……クラリスちゃんとは?」


 まぁいきなりだと絶対にこうなるよな。


 なんか雰囲気が怪しくなってきたので俺が


「立ち話も何ですから、何か飲み物でも飲みながら話をしませんか?」


 この空気をなんとかしようとすると、クラリスも


「私も喉が渇いたからどっかお店に行きましょう」


 乗っかってくれた。なぜか急に俺も喉が渇いてしょうがない。


 近くの喫茶店みたいな所で俺たち5は話し合った。ダメーズ?誰それ。


「っていうと、マルス君はブライアント伯爵の次男で正室にクラリスちゃん、側室にエリーちゃんがいるっていう訳ね。まぁ伯爵様の次男であれば婚約者がもう決まっていても不思議じゃないわね」


 喫茶店に入って俺たちのことを説明するとサーシャが納得したように呟いた。


「……もうこれは決定事項……ブライアント伯爵……伯爵夫人も承認……」


 エリーは相変わらず勝ち誇った顔で言う。


「まぁセリアンス元公爵の娘ともなると……伯爵家としても絶対に見逃せないわよね……それに金獅子ともなると私たち妖精族エルフと同じかそれ以上に希少だからね」


「それでミーシャ達はどうしてここに居るんだい? もしかしてミーシャもリスター帝国学校を受験するのかい?」


 俺がそう聞くと、ミーシャが


「うん。私もここに入るんだ」


 少し元気が無さそうな声で答える。


 ん? ここに入る? 決定事項のように言うけど、ミーシャってそんなに能力高かったっけ?


 鑑定してみると


【名前】ミーシャ・フェブラント

【称号】-

【身分】妖精族エルフ・平民

【状態】良好

【年齢】9歳

【レベル】12

【HP】20/20

【MP】52/52

【筋力】18

【敏捷】20

【魔力】20

【器用】18

【耐久】12

【運】5

【特殊能力】槍術(Lv4/B)

【特殊能力】水魔法(Lv2/C)

【特殊能力】風魔法(Lv2/D)


【装備】疾風の槍

【装備】幻影のローブ



 大分強くなっている。


 恐らくこの街ですれ違った受験生らしき人間よりかはステータスやスキルも高い。


 まぁレベルが低いのは、ミーシャがパワーレベリングをしなかったのであろう。


 だがこのステータスで入るのが決定事項って思っているのは少し危険な気がする……そう思っていると


「私たち妖精族エルフはね。必ずこのリスター帝国学校の入学を認められるの。理由は妖精族エルフが貴重だからと言うのもあるけど、リーガン公爵が妖精族エルフだからという事もあるのよ。きっとエリーちゃんも絶対に受かると思うわよ」


 サーシャが説明してくれた。妖精族エルフってそんなに貴重なのか。


 そういえばこの街で妖精族エルフだけは見ていなかったな。


 あとリーガン公爵って妖精族エルフなのか。するとクラリスが


「サーシャさんもリスター帝国学校の出身ですか? もしよろしければテスト対策とか教えていただけませんか? 少し不安で……」


 クラリスがそう言うとサーシャが


「ええ。いいわよ。と言ってもあなた達2人であれば必ず合格できるわ。そして今年は過去に類を見ないほどレベルが高いようだから、3年ぶりにSクラスが創設されるのではないかしら?」


「レベルが高いとSクラス?」


「そうよ。ここのクラスの人数はクラスによって違うっていうのは知っているわよね?」


「いえ……全く知らなかったです」


 サーシャはあきれた顔で俺たちを見ながら


「あなた達……ある意味凄いわね。いいわ。ちゃんと教えてあげる。入学時の試験の結果によってクラス分けがされるの。優秀な人はA、次にB……最後にEクラスの計5クラスね。ただあまりにもずば抜けている生徒は特別にSクラスというクラスが作られて、そこに入るのよ。でも1人や2人しか優秀な人がいないとSクラスは作られなくてそのままAクラスとして扱われるの」


 俺とクラリスは黙ってうなずく。エリーはあまり興味がないらしい。


「それで今年はね、9歳にして北の勇者と言われているリーガン連合国で期待されているバロン君、デアドア神聖王国で剣聖と呼ばれているドミニク君、他にもイセリア大陸からも魔族の子供が来ているらしくて大豊作なのよ。それにミーシャも間違いなく注目人物の1人よ。ステータスが多少低くても確実にミーシャもSクラスだと思うわ」


 北の勇者に剣聖に魔族の子か……そういえば俺も剣聖って呼ばれていたよな……


「Aクラスは30人、Bクラスは50人、Cクラスは70人、Dクラスは100人、Eクラスは250人の計500人とは別にSクラスができるからSクラスに入れるのはとても栄誉なことだから頑張ってね」


「ありがとうございます。もう1つだけ。Sクラスに入って栄誉以外に何かいいことありますか?」


 俺がサーシャにそう言うと、サーシャが


「うーん。いきなりE級冒険者になれるのが一番かな。あとはやはりお偉いさんたちの覚えが良くなる事。まぁ学生寮の部屋もかなり広くなったりするかな。あとSクラスの生徒全員というわけではないけど特待生となって授業料免除という事もたまにあるらしいわ。まぁこれは例外中の例外らしいけど、今の3年のSクラスの1人のグレン……だったかな? 特待生って話だったわよ」


 俺にとってSクラスは、あまりうま味がない。最低限受かればいいな。ジークにもやり過ぎるなと言われているし……


 そんな俺の表情を見てサーシャが察したのか


「マルス君。諦めなさい」


 とだけ言った。何をだ?


「さて私たちの事はもうだいぶ話したから、今度はミーシャの事も聞きたいな。3年間どうだったの? 好きな人できた?」


 クラリスがミーシャとガールズトークをし始めた。エリーも会話にこそ参加はしないが、耳がダンボになっている。


 俺はガールズトークを眺めながら外に目線を向けるとこちらを窺う怪しい元男爵と目が合った。


「あのー……あの人ダメーズ・バーカー元男爵ですよね? どうしてここにいるんですか?」


「それがね。あなた達と別れた後になぜか私から離れなくて……私とミーシャの女2人だと何かと不便なこともあるから奴隷として買ったんだけど……気持ち悪いのよ……はぁ」


 そういえばサーシャはダメーズに気に入られていたような……サーシャ乙。


 その後俺たちは一緒にご飯を食べて、それぞれの宿に帰った。


 次の日も一緒に観光をして、ついに12月26日の試験当日となった。

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