第64話 獣王&雷神VS名前付き

 毛むくじゃらの男は血だらけで立っているのもやっとという感じだった。


 しかし今はクラリスの事が優先だ。クラリスを見るとHPが10でMPが0となっている。


 アイクはHPが6でMPも4だ。クラリスはMP欠乏症で倒れていた。


 俺は即座に2人を回復させて、アイクから事情を聞いた。


「あのクイーンアントはやばい……ダメージを与えられる気がしない。フレアも多少のダメージは与えられるようだが、少し時間が経つとすぐに回復している気がする」


「クラリスはどうしたのですか?」


「クラリスはマルスがラルフさんの方に行った時にマルスの方から街に抜けようとした蟻たちを倒すために魔法の弓マジックアローを使い過ぎてMPを使い過ぎてしまったんだ。そして俺の回復をしてMPが切れて倒れてしまった」


「あの毛むくじゃらの人はバーンズ様ですか?」


「あぁ。クイーンアントと戦っていて最初は優勢だったんだがな。ダメージを与えたはずなのに回復されてしまうから、攻撃力を上げたのだと思う」


「他の蟻たちの姿が見えませんが……もう全て倒したのですか?」


「あぁ。もう持ちこたえられないと思ってフレアを連発して他の蟻たちを倒したら俺もMPが無くなってしまってな。雑魚蟻を倒してから俺もクイーンアントに攻撃したのだが、全く歯が立たなかった」


 俺はアイクにクラリスと一緒に避難してくれと促し、アーリンクイーンアントと交戦しているバーンズの所へ向かった。


「バーンズ様、その姿は一体……」


 俺がそう言うと、


「これは獣王化だ! 筋力と敏捷が上がる代わりに耐久が下がる! 俺を回復しろ」


 俺はHPが100を切っているバーンズにハイヒールをかけた。


「マルス、このクイーンアントのHPはどのくらいあるんだ? ダメージを与えているとは思うのだが、全く倒せる気配がない!」


 俺はアーリンクイーンアントを鑑定するとHPがまだ220もあった。


「220/380です。こいつはHP回復促進がありますので、短期決戦で倒さないとどんどんHPが回復してしまいます」


「俺とマルスが2人でやればなんとかという事か……」


 バーンズは俺を完全に認めてくれて、自然と共闘が前提となっている。


「はい! しかし僕のMPが残り500を切っております。ハイヒール20回くらいしか唱えられません」


「MP500という魔法使いを初めて見たな。普通の魔法使いであれば500もあれば自信満々に言うと思うのだがな」


 周囲を見渡すとこの場に立っているのは俺とバーンズとアーリンクイーンアントだけだと思ったら、ライオンがこちらの方に向かってきた。


「エリー! 来るな!」


 バーンズがエリーに向かって叫ぶとライオンはその場に立ち止まった。


 バーンズの気が少し逸れたのをアーリンクイーンアントは見逃さなかった。


 アーリンクイーンアントの鎌のような手がバーンズの肩を切り裂くとバーンズはアーリンクイーンアントの方を向きなおした。


 俺はハイヒールでバーンズの肩を治す。ただ1回のハイヒールでは肩の傷が塞がらず2回ハイヒールをかけた。


「マルス。すまないな。1つ聞かせてくれ。エリーの左目が治っているのは気のせいか?」


 俺はエリーを見ると確かに最初に見た時に潰れていたような左目の傷が治っていた。


「先ほどエリーさんとカーメル辺境伯が蟻たちに襲われていてエリーさんが傷を負っていたので、ハイヒールで治したことは治したのですが……ハイヒールかけた後すぐにここに駆けつけてしまったので真偽は分かりませんが、その時に左目の傷も癒えたのかもしれません」


「そうか。まぁそれしかないだろうな。もうフローラを待たなくても良くなったな」


「まずはこのアーリンクイーンアントを倒すことを考えましょう!」


 俺はそう言うとクイーンアントに斬りかかる。


 風纏衣シルフィードを纏って全力で攻撃してもせいぜい与えられるダメージは10くらいだ。


 MPの効率が非常に悪い。これだったら俺はバーンズの回復だけに専念したほうが良いかもしれない。


 しかしバーンズだけでも削り切れない。


 バーンズの攻撃がクリーンヒットしそうになると、アーリンクイーンアントは土魔法で壁を作りダメージを軽減してくる。


 完全に詰んだ気がする。


「こ、これは……僕はバーンズ様の回復だけに専念したほうが良さそうですね……」


「いや……そんなこともない。俺の獣王化がもう少しで解けてしまう。あと5分も持たないだろう。獣王化が解けてしまったら、俺の攻撃力が下がってしまう。5分で倒しきれなければ俺たちの負けだ」


「で、では……このままだと……」


 俺が狼狽えるとバーンズが


「おい、最初に会った時に俺を痺れさせた魔法を使え。反撃が無ければHPを削りきることが出来る!」


「……あの魔法はうまく制御が出来ません。また消費MPが異常なので1発撃つと多分魔力欠乏症で動けなくなります! それでもよろしいでしょうか?」


「このままだとどうせ全滅だろ? マルスが神聖魔法を使えなければ俺はエリーと一緒に逃げていたところだ。構わないからやれ!」


 バーンズがそう言ったので俺はアーリンクイーンアントをバーンズと挟むように移動した。


「僕が仕掛けたらバーンズ様は離れてください!巻き添えになる可能性がございます!」


 バーンズが俺の言葉に頷きながら、アーリンクイーンアントに攻撃を仕掛ける。


 バーンズの攻撃は今までと違い完全に防御を無視した攻撃だ。


 クイーンアントのHPも削れるがそれ以上にバーンズのHPが削れる。


 バーンズのHPが50を切りバーンズが体勢を崩したところにアーリンクイーンアントが止めを刺しに来る。


 俺はその瞬間を逃さなかった。


 アーリンクイーンアントは完全にバーンズに集中しており、俺のことを忘れている。


 まぁ俺はアーリンクイーンアントの後ろに回ってから、一切攻撃をしてないから俺に気を向けても仕方がないと思ったであろう。


 また俺の攻撃でも全然ダメージを食らわないという自負もあったのであろう。



 俺は一気にアーリンクイーンアントの背中に乗ってライトニングを背中に放った。


 俺から金色の雷がアーリンクイーンアントに注がれる。


 轟音と共にアーリンクイーンアントの「キシャャャァァァアアアーーー!!!」という声が響く。


 アーリンを鑑定すると残りHPが124となっており、状態は感電【大】となっている。


 アーリンクイーンアントは口をピクピク動かすのがやっとで麻痺していた。


 すぐにバーンズがアーリンクイーンアントに向かって攻撃を始める。


 後ろに下がっていたアイクもここぞとばかりに攻撃を始めた。



 もしかしたら俺が近づくと感電しているアーリンクイーンアントから金色の雷を吸収して感電が解除されてしまうかもしれないと思って、あえて攻撃に参加しなかった。


 俺が攻撃に参加しなくてもアーリンクイーンアントのHPがどんどん削れていく。

 アーリンクイーンアントの残りHPが50、40、30とどんどん削れていくのを俺はただずっと見ていた。


 そしてアーリンクイーンアントのHPが残り10を切った時にそれは起こった。

 アーリンクイーンアントの状態が感電【小】となったのだ。


「気を付けて! 一部マヒが解除されました!」


 俺がそう言うのと同時にバーンズの左半身がアーリンクイーンアントによって喰われた。


 バーンズを鑑定するとHPがすでに0になっていた。


 アーリンクイーンアントのHPは2だ。



 俺は叫びながらアーリンクイーンアントの方に向かうが止めはアイクが刺してくれた。


 アーリンクイーンアントのHPが0になりクイーンアントがした。


 迷宮の湧き部屋でもないのにすぐに消滅した。



 俺は急いでバーンズの所に駆け寄りヒールを使ったがもう残りMPがなくて使えなかった。


 俺の隣にすぐにライオンのエリーが駆けつけてきてバーンズを抱きしめるように覆い被さった。


 バーンズは俺を見ながら


「ま・・る……す。エリーを……た・・の・・む」


 それが獣王の最後の言葉だった。


 俺はバーンズに「任せて下さい」と叫ぶと、バーンズはその言葉に満足したのかエリーの顔に右手を添え、エリーの顔を見ながら息を引き取った。

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