第63話 名前付き
俺が地上に上がってきたクイーンアントを鑑定すると、迷宮で遭遇したクイーンアントよりも年齢が高くステータスも高かった。
「バーンズ様、あいつがクイーンアントです。クイーンアントの酸は物を溶かしますので気を付けてください!」
「ふん。蟻ごときに負ける俺ではないわ!」
バーンズはそう言いながら周囲のガードアントを倒し、ついにクイーンアントがバーンズの目の前に来た。
クイーンアントの鎌のような手の攻撃を躱し、バーンズが反撃に出る。
しかしクイーンアントの取り巻きのガードアントがバーンズに酸攻撃を仕掛けており、徐々にバーンズにダメージが蓄積されていく。
俺はバーンズの周りの蟻たちを倒したいがそこまでの余裕はない。
先にバーンズがクイーンアントを倒すか蟻たちがバーンズを倒すかの勝負となっている。
もうバーンズのHPが100を切りかなり危険な状態となっている。
ただクイーンアントもHPが30を切っており、バーンズの方が優勢だ。
ここでバーンズに死なれると俺たちは全滅する。
「お父様! よろしいでしょうか!?」
他の人が聞いたら、何がよろしいのか分からないだろう。
だがジークなら分かってくれるはずだ。
ジークはクイーンアントが出現してから俺の後方に移動してきた為、俺の声が届いていた。
「……よし、俺も腹を括ろう! 許可する!」
「ありがとうございます!」
俺はそう言うとバーンズに向かって周囲には聞こえないように小さな声で「ハイヒール」と言いバーンズに触れた。
ハイヒールは最近覚えたばかりだが、MP20消費でHPを50回復させることができる。
ヒールに比べて少しだけ燃費がいい。
バーンズが凄い顔でこちらを見る。
その表情から、歓喜、怒気、驚愕、安堵のような様々な感情が伺える。
「このことは出来れば、黙っていてください。エリーの件はなるべく譲歩致しますので」
俺はそう言うとすぐに自分の持ち場に戻り俺の周りの蟻たちを倒す。
バーンズもついにクイーンアントに止めを刺して周囲のガードアントたちを倒す。
クイーンアントを倒すと後方に下がっていた冒険者たちや魔法使いたちが一斉に雄叫びを上げる!
「よっしゃー! このままいけば勝てるぞ!」
バーンズの活躍により冒険者たちの士気も上がる。
ラルフの方も騎士団たちと騎士団の近くに配属された奴隷の獣人たちによって戦線が戻った。
そして迷宮から出てくる蟻がキラーアントばかりになってきたので、多少余裕ができた。
俺は蟻たちを倒しながらバーンズの方へ向かうとハイヒールを4回唱えた。
4回のハイヒールでバーンズのHPは満タンになった。
「小僧……いやマルスよ。礼を言おう。ありがとう。そしてお前に頼みがある。エリーを治してくれ」
「はい。この戦いが無事に終わりましたら、できる限りのことはさせて頂きます」
俺たちは蟻を蹂躙しながら会話をしている。
「ただ、お前本当に神聖魔法を使えるのか? いや実際俺を回復させたのだから……しかもハイヒール。だが神聖魔法を使う者は他の魔法を使えないと聞いていたのだが……風魔法に火魔法……それに神聖魔法。しかもその剣術となると……もしかして土魔法と水魔法も使えるのか?」
「はい。少しですが……今一番得意なのは風魔法です。次に神聖魔法で他は少し使える程度です。ここまで正直に答えました。どうか僕が神聖魔法を使えるということは誰にも言わないで頂けますか?」
「もちろんだ。誰かに話してしまったら、エリーを治す前に国やAランクパーティに奪われてしまうからな」
他の冒険者たちも大きな傷を負っている者はたくさんいるが致命傷ではない。
今この戦いで抜けられて困る人間などそう多くはない。
バーンズ、アイク、クラリス、ジーク、ラルフに蒼の牙、赤き翼、黒い三狼星だ。
俺はキラーアントだけが出現しているうちに、必要な人間を回復させるため、バーンズに少しの間だけ俺の持ち場となっているところを請け負ってもらってヒールをかけに回った。
ラルフには気づかれないように
これでみんなHPは満タン。まぁアイクとクラリスはHPが減っていないのかクラリスがこっそりヒールをかけているのかは分からないが、俺がヒールをかけるまでもなく満タンだった。
戦闘準備万全な時に蟻たちの最後の攻撃が始まろうとしていた。
明らかに今までとは違う。なぜなら迷宮から出てくる蟻がマザーアントとガードアントだけとなっていたからだ。
俺は迷わず迷宮の前にトルネードを発現させた。
迷宮から出てくるためには必ずトルネードの中を通る必要があるので、蟻たちに少なからずダメージを与えられる。
俺やアイク、バーンズにとって、少しダメージを与えているだけではあまり変わらないが、ラルフや蒼の牙、赤き翼、黒い三狼星たちにとっては全然違う。
蟻を倒すのに2、3太刀少なく済むのであれば、もしかしたら戦線が維持できるかもしれない。
そして何より、ジークもこれで最後だと思ったのか、冒険者の魔法使いたちにも魔法を使わせて参戦させていた。
「よし、これはいけるぞ!多分あともう少しだ!耐えろよ!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」
ジークの檄にみんなが答える。
そして最後のクイーンアントが大量のマザーアントとガードアントと共に現れた。
鑑定してもクイーンアントとなっているが、他のクイーンアントと違うところがたくさんある。
まず、ステータスがずば抜けている。そして体色が少し金色。また魔法も使える。
このクイーンアントの鑑定結果はというと
【名前】アーリン
【称号】-
【種族】クイーンアント
【脅威】A-
【状態】良好
【年齢】3歳
【レベル】20
【HP】378/380
【MP】40/40
【筋力】118
【敏捷】72
【魔力】20
【器用】88
【耐久】142
【運】1
【特殊能力】HP回復促進(Lv3/E)
【特殊能力】土魔法(Lv6/C)
初めての
威力が減衰しているとは言え、俺のトルネードの中にいてHPが2しか減っていない。
しかもHP回復促進によってそのうちHPは回復されてしまう。
「皆さん! 脅威度A-です! バーンズ様以外では歯が立たないと思いますので、なるべくマザーアントやガードアントをお願いします!」
みんな必死でガードアントやマザーアントを食い止めようとしているが、右側のラルフたちの戦線が完全に崩れた。
俺が持ち場を離れるとバーンズが完全に孤立をしてしまう。
アイクとクラリスがその場を離れても壁伝いに蟻たちが街へ行ってしまう。
どうすればいいのか迷っているとバーンズが
「おい! マルスお前がラルフのところへ行ってこい!」
「ですが大丈夫ですか?」
「行く前に俺にハイヒールをかけて行け! この街や冒険者はどうでもいいが、あそこが突破されたら後方にはエリーがいる! 安全を確保してから戻ってこい!」
そう言ってバーンズは
さすがにバーンズでも俺が戻ってこなければやられてしまうだろう。
俺はバーンズにハイヒールをかけてから右側のラルフの方へ向かった。
HPが2桁以上の物は誰1人いない。ひどい惨状だった。死人も多数いた。
ただ蒼の牙、赤き翼、黒い三狼星は戦闘不能とはなっているが、死んではいなかった。
しかし俺は誰かにヒールをかけるわけではなくひたすら蟻たちを倒す。
もう俺のMPも残り1000くらいしかないのだ。
ラルフの周辺の蟻たちを倒し終わりバーンズの方へ戻ろうとした時、後方に目が向いてしまった。
ガードアントにエリーの鎖を持ったカーメル辺境伯が追われているのだ。
カーメル辺境伯はすでに怪我を負っている。エリーはカーメル辺境伯を鎖で引っ張る様に逃げている。
俺は急いでカーメル辺境伯の方へ向かってガードアントを倒した。
すぐにバーンズの方に向かおうと思ったが、エリーは顔に酸を受けたのか火傷をしていた。
「助かった。マルス君!」
カーメル辺境伯が俺にそう言ってきた。
俺はその言葉に頷くとエリーの顔をしっかりと見た。
恐らくカーメル辺境伯を守るために体を張ったのだろう。
よく見ると体中火傷や切傷がたくさんあった。
このまま去るべきか……ただ蟻たちを倒した後のことを考えると絶対に回復させたほうが良い。
バーンズのこともあるからだ。
俺はエリーの方に向かうと顔を包むように抱きしめながらハイヒールを唱えた。
ハイヒールの光をなるべく周囲に見せないためにだ。まぁ周囲はほとんど気絶や地面とキスしている奴ばかりでこっちを見ている人間はカーメル辺境伯くらいだ。
ハイヒールを唱えた後エリーやカーメル辺境伯の顔を見ることなくバーンズの所へ向かった。
急いでバーンズがいる
居たのは毛むくじゃらのバカでかい人間とフラフラになっているアイク、そして倒れたクラリスだった。
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