第54話 黒い三狼星

 翌日俺とアイクとクラリスと黒い三狼星で冒険者ギルドに向かった。


 黒い三狼星の冒険者登録とパーティ登録をするためだ。


 ジークとマリア、リーナは早朝にイルグシアに帰った。



 黒い三狼星もE級冒険者として登録してくれた。


 本来であればG級冒険者からなのだが、ギルドマスターのラルフが今回も特例でE級冒険者、Eランクパーティ『黒い三狼星』として登録してくれたのだ。



 本人たちも黒い三狼星の名前が気に入ったようで、嬉しそうだ。


 俺たちもパーティ登録しようか迷ったが、あと数か月でアイクがリスター連合国へ行ってしまうので、やめておいた。


「アイク様、我々はアルメリア迷宮でどのようなことをすればよろしいのでしょうか?」


 長男のガイがアイクに尋ねるとアイクが


「当初の目的ではポーターとして雇ったのだが、今後のこともある。お前たち黒い三狼星にもある程度戦闘をしてもらって経験を積んでもらおうかと思っている。欲を言えばアルメリア迷宮の1層を3人で潜っても問題ないくらいにだ」


「今の能力でも全く問題はないと思いますが?」


「いや、俺たちの言う問題ないというのは、遭遇した魔物をすべて倒せるという意味でだ。一層の魔物は脅威度Dの魔物ばかりだから苦戦するだろう。今日試しに3人だけで戦ってもらう。もちろん危なくなったら俺たちも参加する。そうすれば色々見えてくることもあるだろう」


 少し不服そうにガイが頷いた。


「あと、今日の戦いを見てからお前たちの装備も買う。どういうのが欲しいとかあればあらかじめ考えておいてくれ。俺たちもお前たちの戦いを見て考えさせてもらう」


 今の所ガイは剣、マックは槍、オルは斧と盾をそれぞれ装備しているが、安物だ。


 そして防具は全く装備をしていない。いくら奴隷と言えちゃんとした装備は必要だ。



 俺たち6人はアルメリア迷宮に潜り、まずは黒い三狼星に戦ってもらう事にした。


 最初の部屋に着くとロックリザードという硬い鱗の魚人の魔物が6体おり、ロックリザードたちは右手に石槍を装備している。


 早速黒い三狼星に戦ってもらう。


「マック! オル! 我らの強さを見せつけるぞ!」


 ガイが檄を飛ばしロックリザードに奇襲をかけた。


 ガイの奇襲は成功し一番左に居たロックリザードの右手に斬りかかると槍を放し痛がった。


 ガイはそのまま乱戦に持ち込む。槍は陣形を保って戦う分にはめっぽう強いのだが、乱戦になると長さが災いして性能が発揮できない。


 ロックリザードのヘイトがガイに向かっている時にマックとオルがロックリザードたちの意識の外から襲い掛かる。



 ロックリザードに囲まれながら、ガイは防御行動や回避行動に徹し、隙あらば、反撃をする。包囲の外からマックとオルがロックリザードに襲い掛かる。


 確実にロックリザードを葬ってはいるが、ガイも何回か槍で突かれており、致命傷ではないが、かなりのダメージを受けている。


 結局ガイがロックリザードの包囲網を抜けた時にはすでにガイの傷は深く、またロックリザードが2体残っていた。


 1対1ではマックとオルも負けはしないのだが、2人もそれなりにダメージを受けていた。


 黒い三狼星は脅威度Dのロックリザードの群れ6体を20分かけて倒した。


 そして長男のガイがアイクに自慢げに言った。


「アイク様、私たちの強さを認めて頂けますか?」


「いつもそのように戦っているのか?」


「はい! 我ら獣人は複数の敵にも恐れることなく戦って、必ず勝利をつかみます!」


「それで次に戦えるようになるまでどのくらい時間がかかる?」


「完全回復しなくても戦えますので、あと3時間くらいで戦えるようになります」


「そうか……では次に俺たちの……いや俺の戦い方を見てもらってもいいか? ガイは動けるか?」


「はい、かろうじて動くことは可能です。ですがアイク様お一人で戦うおつもりですか?」


「ああ。もし危なくなったらマルスとクラリスに援護してもらう」


 アイクがそう言って部屋を後にするとすぐに通路でロックリザード6体と遭遇した。


 ロックリザードもこちらに向かっているのでもうこちらに気づいている。


 アイクが黒い三狼星に向かって、「見ていろ」というと炎の槍フレイムランスを構えてゆっくりロックリザードの方に歩いて行く。



 ロックリザード6体が横一線に奇声を発してこちらに突撃してくるとアイクが足を止めて応戦する。


 ガイが「危ない!」と叫んだのも束の間、アイクがファイアを唱えてバックステップをするとファイアが左端のロックリザードに着弾した。


 ファイアに驚いていたものの、着弾したロックリザードに致命傷は与えられていない。


 しかし火を相当嫌がっている。アイクは右手で炎の槍フレイムランスを構え、左手でひたすらファイアを放つ。ファイアは狙って撃つというよりも左方向に適当に連射している。


 アイクから見て左側のロックリザードたち3体はファイアを嫌がり、前に出てこない。


 右側のロックリザードたちはファイアの熱から逃げるため、右側の方に一列になっている。


 ロックリザードは150cmくらいの身長でまだ9歳のアイクより身長が高い。



 右端の先頭にいたロックリザードがアイクを刺突する。


 アイクはそれを躱し、鱗の隙間に炎の槍フレイムランスを刺し、体力を削っていく。


 左側のロックリザード3体はもちろん、先頭のロックリザードの後方にいる2体にも注意を向けて1対1の状況を作っている。


 右側先頭のロックリザードに何度も刺突をし、動きを封じるとアイクは急に左側のロックリザードたちに襲い掛かる。


 左側のロックリザードたちはずっとファイアを嫌がっており、アイクよりもファイアに意識が向かっていた。


 そこをアイクは見逃さず、急襲するとロックリザードたちの反応が遅れた。


 アイクは炎の槍フレイムランスで左側の横一列に並んでいるロックリザードたちを薙ぎ払った。


 3体とも壁に吹き飛ばし、壁に打ち付けられたロックリザードに1体ずつ止めを刺す。



 右側の最前列にいるほぼ戦闘不能な1体のロックリザードにファイアを撃ち万が一にも戦闘に参加させないようにし、後列にいた残りの2体と対峙した。


 1対2だともうアイクは余裕で、2体のロックリザードの刺突を躱してはカウンターで返すを繰り返してついに合計6体のロックリザードを10分弱で倒した。


「ガイ、これが俺と君たちの差だ。本当であればこの武器にエンチャントすればもう少し楽に倒せるのだが、ただでさえ装備に差があるのにこれ以上差を付けたら平等ではないからな。まぁその分俺は1人で戦ったが」


 黒い三狼星の3人は驚いていて声が出ていない。


「あとな、これからお前たちが見ることはブライアント家の『秘密』だ。絶対に口外はしないように。マルス、ガイたちを治してやってくれ」


 アイクがそう言ってきたので、俺は黒い三狼星の3人にヒールをかけた。


「ま、まさか神聖魔法か? 風魔法使いだと思ったが……いや神聖魔法の訳がない……か? 神聖魔法使いは、他の魔法が使えないはずだから……」


 黒い三狼星の3人が各々ぶつぶつ呟いている。


「少なくともお前ら3人で戦って連戦できるようにならないと俺たちのポーターは務まらないから頑張ってくれ。俺たちも最大限援護する」


 俺たちは6人で2層へ降りる部屋以外を全て回り、片っ端から敵を倒していった。


 全ての部屋を回ったのは黒い三狼星のレベルを上げるためだ。


 また罠も踏んでいった。ただ前回も全て踏んでいたせいか1個しか罠は無かった。


 俺は戦闘にあまり参加しないで回復に徹した。


 1層最後の部屋に乗り込んで2層の様子を見てから引き返すことにした。


 2層へ通じる最後の部屋には熊のような魔物が3体いた。


 鑑定してみると


【名前】-

【称号】-

【種族】グリズリーベア

【脅威】C

【状態】良好

【年齢】4歳

【レベル】5

【HP】58/58

【MP】4/4

【筋力】32

【敏捷】22

【魔力】1

【器用】1

【耐久】40


 これはジークに教えられていた2層で出てくる魔物だ。


 これで脅威度Cという事はゴブリンロードと同じという事か……


 まぁゴブリンロードは特殊能力の魔物召喚が強力だから脅威度Cなのだろう。


「アイク兄、ここは俺も参戦します。ゴブリンキングよりもステータスは高いです」


「それほどか。マルスよろしく頼む。黒い三狼星の3人もあまり無理するなよ」


「はっ。我々はヒットアンドアウェイで参加致します」


 本来であれば雷魔法の練習を含めて、この前バーンズにダメージを与えた【纏雷】を使いたいのだが、自重した。まだ雷魔法の魔力操作がうまくできなく味方にまで被害を及ぼすかもしれないからだ。


 まずクラリスが魔法の弓マジックアローでグリズリーベアたちにダメージを与えていく。俺もクラリスと一緒にウィンドカッターで遠距離からグリズリーべアを切り刻む。


 正直これだけを逃げながらやり続ければ勝てると思うのだが、アイクと黒い三狼星の4人は突っ込んで止めを刺しに行く。


 何度か黒い三狼星が殴られそうになったがその都度俺がウィンドインパルスでグリズリーベアを吹っ飛ばしていたので大したダメージは無かった。


 結局ものの1分で戦闘が終わってしまった。


「1層はこれで終わりか。あとは先に進めば2層だな」


 アイクが言うと


「そうですね。ただ気になるというか残念なのがアルメリア迷宮で宝箱が1回も出てないってのが……イルグシアやグランザムでは毎日のように出ていたのに……」


 と俺が言うと黒い三狼星のガイが


「迷宮で宝箱が出るのは10回潜って1回出れば御の字というレベルではないのですか?」


 と言ってきた。やっぱり俺はかなり贅沢になってきたんだな。


 とりあえずこの部屋に1層で回収した魔石を全て置いて2層の様子を見に行くことにした。


 脅威度Dの魔物を300体以上倒してきたので皆のレベルも上がっていた。


【名前】マルス・ブライアント

【称号】雷神/風王/ゴブリン虐殺者

【身分】人族・ブライアント子爵家次男

【状態】良好

【年齢】6歳

【レベル】15

【HP】45/45

【MP】4512/6167

【筋力】37

【敏捷】42

【魔力】53

【器用】40

【耐久】38

【運】30

【固有能力】天賦(LvMAX)

【固有能力】天眼(Lv8)

【固有能力】雷魔法(Lv1/S)

【特殊能力】剣術(Lv7/B)

【特殊能力】火魔法(Lv2/F)

【特殊能力】水魔法(Lv1/G)

【特殊能力】土魔法(Lv2/F)

【特殊能力】風魔法(Lv8/A)

【特殊能力】神聖魔法(Lv5/B)


【装備】ミスリル銀の剣

【装備】風の短剣シルフダガー

【装備】偽装の腕輪


 ようやくレベルが15だ。神聖魔法もレベル5になった。


 ステータスがまた魔術師よりになってきてしまっているが仕方ない。



【名前】アイク・ブライアント

【称号】-

【身分】人族・ブライアント子爵家嫡男

【状態】良好

【年齢】9歳

【レベル】18

【HP】54/54

【MP】702/922

【筋力】38

【敏捷】36

【魔力】21

【器用】23

【耐久】33

【運】10

【特殊能力】剣術(Lv4/C)

【特殊能力】槍術(Lv7/B)

【特殊能力】火魔法(Lv4/C)


【装備】炎の槍フレイムランス

【装備】火精霊の剣サラマンダーソード

【装備】火幻獣の鎧イフリートメイル

【装備】火の腕輪フレイムブレスレット

【装備】偽装の腕輪


 スキルのレベルは変わっていないがステータスがかなり高くなっている。


 筋力もまたアイクの方が高くなった。


【名前】クラリス・ランパード

【称号】-

【身分】人族・ランパード男爵家長女

【状態】良好

【年齢】6歳

【レベル】18

【HP】36/36

【MP】201/310

【筋力】25

【敏捷】25

【魔力】27

【器用】25

【耐久】23

【運】20

【固有能力】結界魔法(Lv2/A)

【特殊能力】剣術(Lv5/C)

【特殊能力】弓術(Lv5/B)

【特殊能力】神聖魔法(Lv4/A)


【装備】ディフェンダー

【装備】ミスリル銀の短剣

【装備】魔法の弓マジックアロー

【装備】聖女の法衣セイントローブ

【装備】神秘の足輪ミステリアスアンクレット

【装備】偽装の腕輪


 クラリスはいつの間にかアイクとレベルが同じになった。


 ステータスは平均的に伸びていきスキルも神聖魔法以外上がっている。


「よし、2層へ行くか!油断はしないように!」


 アイクが発破をかける。


 俺たちはゆっくり慎重に2層への階段を下りて行った。


 2層はジークやマリア、長年アルメリア迷宮に携わっていたアルメリアのギルド職員たちから聞いていた様相とは全く異なるものになっていた。

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