第50話 アルメリア迷宮

「さて、今日から頑張るか!」


 アイクがそう言って宿のドアを開けた。


 俺たちは昨日の親睦会で有用な情報を手に入れた。


 アルメリアの迷宮の話はジークとマリアから聞いたのだが、最近のアルメリアの迷宮は以前と比べて少し変わったらしい。



 らしいというのは現在この街にいるパーティで2層に潜っているパーティはおらず、皆1層の事しか知らない。


 その1層に最近罠が増えたというのだ。


 罠が増えたので皆不用意に2層までいけないらしい。



 それに1層に2層の魔物が出るようになったらしい。


 決まって2層へ部屋付近にいることが多く、そこの部屋には今いるこの街の冒険者は近づかないというのが暗黙の了解となっているらしい。


 あと迷宮内で火魔法を使っても大丈夫という事も教えてもらった。


 まぁどのくらいの規模の魔法かにもよるだろうが、少なくともアイクの火魔法が制限されるという事はないっぽい。


 イルグシア迷宮に潜っている時から迷宮で火魔法を使っていいのか疑問だっただけにこれは嬉しい。まぁ最初のころは魔石を取りだすのに倒した魔物を燃やしていたんだけどね。


 今度試しにファイアストームを使ってみようかなと思う。



 他にもこのバルクス王国の情勢とかも教えてもらったが、今必要なことではない。


 まぁ親睦会で一番良かったのは迷宮で背後の心配をあまりしなくてもいいという事かもしれない。


 迷宮で冒険者同士のいざこざはよくある事らしいからね。



 迷宮での役割分担も決まった。


 俺は斥候役と後衛というなんとも大変な役回りだ。


 天眼で罠を見つけるのと、索敵をし、敵がいたらアイクとクラリスに突っ込んでもらう。


 2層からは索敵をし、奇襲がかけられそうだったら、俺が魔法で先制攻撃をするという事になった。



 宿を出て冒険者ギルドに立ち寄り、迷宮でこなせそうなクエストを片っ端から受ける。


 昨日の件で他の冒険者から絡まれることもなく、無事に受注できた。


 本来であればE級冒険者の俺らが受注できないようなクエストも受注させてもらった。


 ギルドマスターのラルフが手をまわしてくれたらしい。


 そして1層のマップをギルドで買い迷宮に潜った。




 アルメリアの迷宮は通路も広く、部屋も広かった。


 最初の部屋に着くと冒険者パーティが戦っていた。


 俺たちは部屋の入り口で戦闘が終わるのを待っていた。


 6人パーティで敵はコンドルという鳥型の魔物、脅威度Dが3匹だった。


 すでにコンドルを何体か倒しているらしく、コンドルの死体が数体転がっていた。


「ちっ、今日も最初の部屋で撤退か……残り3匹だ!頑張るぞ!」


 リーダーらしき男が発破をかけてパーティを鼓舞する。


 数十分かけてコンドルを倒すとそのパーティがコンドルから魔石を取りだした。


 俺たちはずっとその様子を見ていた。


 パーティが魔石の回収をし、出口のある俺たちの方に向かってくると俺たちに気が付いて話しかけてきた。


「もしかしてお前たちが昨日アルメリアの冒険者たちをやっつけたという子供たちか?」


「やっつけたわけではありません。胸を借りただけです」


「まぁ噂通りだな。頑張ってくれよ。この通り魔物が多くなってなかなか1層の深部まで辿り着けない。2層の魔物も出るから気を付けてくれ。あとは頼んだぞ」


 そのパーティは俺たちの脇を通り抜けて出口の方へ向かっていった。


「イルグシアで言えばこの強さは3層レベルかもしれないな。俺たちも気を引き締めよう」


 アイクがそう言うと俺たちも頷いて歩き始める。もちろん先頭は俺だ。


 部屋を抜けると通路があるのだが、その通路にもコンドルがいた。


 アイクに告げるとアイクとクラリスが前に出て戦闘を始めた。



 コンドルは敏捷が高くアイクとクラリスとは言え無傷では倒せない。


 しかしクラリスに関してはディフェンダーと神秘の足輪の効果で多少の傷はすぐに回復する。


 アイクも火幻獣の鎧のおかげでHPが減っても1か2だ。


 たまにコンドルが二人を抜けて俺の所まで飛んでくることがあるが俺はウィンドで撃ち落として剣でとどめを刺す。


 通路のコンドルを全滅させて後に俺たちは致命的なミスに気が付く。


 魔石の回収どうしよう……


 俺たちは出会う敵を片っ端から倒す予定なのだ。


 魔石の回収なんてやっている暇はない。



 とりあえず今日は魔石を持ち歩いて持てなくなったら適当な部屋に置いて帰るときにまとめて持って帰るという事にした。


 次の部屋に行くとき通路に罠を発見した。


 罠は毒霧だった。俺やクラリスは神聖魔法のキュアが使えるのであまり効果は無いが他の冒険者にとっては命取りの罠だ。


 俺はアイクとクラリスに話してわざとその罠を踏んだ。


 罠を踏んだらその罠は無くなるのかどうかを試したかったのだ。


 またキュアで毒がしっかり治るのかも試したかった。



 結果はというと罠を踏むと消える。罠の毒霧はキュアで回復できるという事だった。


 俺たちは今後を考えてなるべく罠を踏んで進むことにした。


 ただ罠を踏み続けても罠がすべてなくなるという事ではない。そのうちどこかで発生する。


 冒険者ギルドで買ったマップを見ながら迷宮を探索していると、マップでは行き止まりでも実際にはその先がある場所が何か所かあった。


 俺はグランザムに転移してしまったことがあるので、そういう部屋はとても慎重になった。


 マップに記載されていない部屋は特別なことは無かった。


 普通に魔物がいて倒したからと言って宝箱が出たりという事はなかった。



 1層すべての場所を回るのに朝から夜までかかり、2層に向かう最後の部屋だけは時間がなくて行けなかった。


 1層の罠は毒霧と毒矢だった。転移とかなくてよかった。


 魔物は脅威度Dの魔物だけで2層にいるという脅威度Cの魔物はいなく、残念なことに今回は宝箱が出たりはしなかった。


 俺たちは魔石を持てるだけ持って帰ろうとしたのだが、持てる数に限りがある。


 しょうがないから半分以上おいて帰ろうとしたときに、大人数の冒険者が俺たちの前に来た。


「よかった。無事だったか!」


 冒険者の一人がそう言った。昨日俺たちに絡んできた冒険者だった。


「今日は1層しか潜らないと言っていたからもっと早く帰ってくると思っていたんだけどな、予想以上に帰ってくるのに時間が掛かっていたので、心配して見に来たんだ」


「心配して頂いてありがとうございます。ギルドで買ったマップと少し違ったので、マッピングしなおしていたらこんな時間になってしまいました。


あっ! ちょうどよかった。もしよろしければ、ここに置いてある魔石を持ち帰っていただけませんか? もちろんそのまま皆さんで換金してください。もう僕たちでは持ちきれないので」


 アイクがそう言うと冒険者たちは魔石の数を見て驚いた。


「……こんな魔石の数初めて見た……魔石をこれだけ取り出すにも何時間もかかってしまう。それにこんなに貰ってもいいのか?」


「ええ、どうせ僕たちは持ちきれないから置いていくつもりでしたし」


 冒険者たちは申し訳なさそうに、ほくほく顔で魔石を持つ。


 まぁ帰りの魔物は俺らが倒していくから両手が塞がっても問題はないしね。


「そういえばここまで来るのに魔物が多くて大変じゃなかったですか?」


 俺がそう言うと、冒険者の一人が


「全く魔物に遭遇しない道があったからその道を辿ってきたら君たちがいたんだ」


 途中から俺らが通った道を知らずに後からついてきたという事か。


 結局俺たちが街に戻ったのは20時過ぎだった。



 冒険者ギルドに行きクエスト完了報告と魔石を換金した後に宿に戻った。


 俺たちが泊っている宿は高級で部屋にシャワーがある。


 シャワーを使う順番は最初にクラリスで次に俺、最後にアイクという順番だ。


 最初にクラリスが使うのは当然として、その次に俺というのはアイクの気づかいだ。



 俺たちはシャワーで身を清めた後、今日の問題点を話しあう。


 魔石をどうするかだ。ジークからはお金を稼ぐようにと言われているので、今日のように魔石を捨てるのは勿体ない。


 結局俺たちだけで話し合っても結論が出なかったので、翌日イルグシアに戻り、ジークに相談することになった。

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