第51話 奴隷を買おう

 イルグシアに戻りジークにアルメリアの魔石の事を相談した。


 やはり魔石は絶対に換金するらしい。



 ブライアント家は明らかに子爵家の中ではお金を持っている方だろう。


 それでもこれからアイク、俺、クラリス、リーナの学費がかさむ。


 特に上3人は他国まで行って寮生活をするのだ。ジークの気持ちも分かる。


「以前から思っていたのだが、奴隷を買おうと思う」


 ジークがそう言うと、俺とクラリスが顔を見合わせた。


 こっちの人にとっては当然なのだろうけど、日本育ちの俺らからすると多少の抵抗はある。


「奴隷はどこに売っているのですか?」


 アイクが聞くとだいたいの迷宮都市や他国との国境の街にあるらしい。


 俺たちが知らないだけでアルメリアにも大きい奴隷屋があるとの事だ。



 早速、ジークと俺たち3人でアルメリアに戻り奴隷屋に向かう。


 奴隷屋は街の北東の俺が一度も行ったことのないエリアにあった。


 店に入ると店主がジークに向かって営業をしてきた。


「旦那。どういうのをお探しですか? 最近入ってきたイキのいい奴が揃ってますよ」


 店主がそう言うと、ジークがアイクに目線を合わせて発言するように促した。


「僕たちは冒険者でポーター荷物持ちを探しております。なので筋力と敏捷が高い人を探しています」


 アイクがそう言うと、店主が難しい顔をして


「残念ですが、ご希望の条件のはいません」


「だったら人間以外はいるという事か?」


 ジークがそう言うと、店主はやはり難しい顔をして


「はい、獣人であればその条件に合うものは沢山おります。ただご存じかもしれませんが獣人は自分よりも弱いものを主人となかなか認めませんので……ここにいる奴隷は犯罪奴隷ではないので、奴隷側にも選ぶ権利がございますので……」


「分かった。そういう事であれば問題ない。適当に見せてもらってもいいか?」


 ジークがそう言うと渋々店主が頷いて俺らは店の奥に向かった。



 店の奥はガラス張りの部屋が何部屋かあって外から買い手が見られるようになっている。


 部屋の中はとても清潔にされており、ガラス張りでなければ普通のアパートとして通用するレベルだ。



 どうやら奴隷側からもこちらを見られるようになっているらしい。


 奴隷たちの目は決して死んでいるわけではなく、こちらを値踏みするような目で見ていた。


 奴隷側にもは主人を選ぶ権利があるらしい。



 奴隷の部屋は4人で1部屋となっており、男女それぞれ分かれていた。


 合計28人いた。つまり7部屋使われており、1部屋しか空室が無かった。


 全員鑑定したが、冒険者向きの人間はだれ一人いない。


「マルス、良さそうなのはいたか?」


 ジークがそう聞いてきたので、俺はここにいる全員の鑑定結果を考えてジークに伝えた。


「いいえ、条件にあうものはおりません」


 その言葉を聞くとジークは店主に


「人間以外も見せてくれ。ここには冒険者について来られるような人間はいないらしいからな」


「……分かりました。ですが先に申しておきます。まず人間の冒険者の奴隷がいない理由はこの街の冒険者にもう買われてしまっているからです。そして獣人の奴隷が売れ残っている理由はこの街の冒険者よりも彼らの方が強く、弱い主人には絶対に仕えないというプライドがあるためです」


 うーん……なんか納得いかないから俺は店主に質問してみた。


「なぜそのような獣人の奴隷を店主は仕入れたのですか?この街の冒険者のレベルは店主も分かっていますよね?この店が奴隷を養い続けるのも安くはないでしょうし」


「それは魔物達の行進スタンピード迷宮飽和ラビリンスに備えるためです。魔物達の行進スタンピード迷宮飽和ラビリンスが起きた場合のみ私は彼らをに戦わせることができます。これは彼らとそういう契約を結んでいるので反故にはされません。カーメル辺境伯にはこの街を守るためにも優秀な獣人を必ず用意しておくように言われておりまして……」


 要は緊急時の為だけにここに置いているという事か。すると店主が続けて


「昔はここにもB級冒険者がおりましたから、彼らも主人として認めるものがいたので売れたのですが……現在は有望な新人はイルグシアに、B級冒険者やBランクパーティは他の街や戦場に行ってしまって……」


 半分はジークのせいな気がした。


 イルグシアは将来的にはアルメリアを吸収するのではないだろうか……


「事情を教えて頂き、ありがとうございます。見せてください。交渉は僕たちがしますので」


 俺が言うと店主は店の一番奥へと俺らを連れて行ってくれた。


 先ほどの人間の奴隷の部屋と同じ間取りだが、1部屋に2人となっており、人間たちよりも部屋を広く使っていた。


 獣人たちの年齢は下が6歳くらいで上は30前後という所だ。



 男の獣人たちは俺たちのことを見ると牙や鋭い目を見せて威嚇してくる。


 女の獣人たちは汚物を見るような目で蔑んでくる。この目はダメーズに見せたらダメなやつだ。


 絶対にお前を認めないと言わんばかりだ。



 そして一番奥の部屋は2つ分の部屋を2人で使う獣人がいた。


 その部屋だけ特注で、部屋の大きさもそうだが、内装も他の部屋とは見違えるくらい豪華だった。


「なんでこの部屋だけ特別なんだ?」


 ジークが店主に聞くと、店主が


「この部屋の大人の方は元リスター連合国の12公爵の1つのセレアンス公爵なのです。知っての通りリスター連合国は12公爵の円卓議会で成り立っておりますが、獣人代表のセレアンス公爵はクーデターを起こされて追放されてしまったのです。それをカーメル辺境伯が法外な値段で引き取りまして……」


「なんでカーメル辺境伯が法外な値段で買い取った奴隷がここにいるのだ? そこまでの値段で買い取ったのであればカーメル辺境伯の近くに置いておくのが普通であろう?」


 ジークの疑問はもっともだ。別に奴隷としてではなく叙爵して配下に……えっ? もしかして?


「それが、セレアンス公爵は自分よりも弱いカーメル辺境伯の配下にはならないと仰りまして……」


 店主がそう言うと俺はガラス張りの特注部屋の中を見た。


 そこには金獅子の男とライオンがいた。


 俺が男とライオンを鑑定しようとした時だった。



 金獅子の男の部屋のガラスが割れ、男が出てきた。


 そして物凄い殺気とスピードで俺に殴りかかってきた。



 俺は風纏衣シルフィードを全力で展開し、未来視で攻撃予測をしながら、ウィンドで男の殺気で硬直してしまっているジーク、アイク、クラリス、店主を後ろに吹っ飛ばし、ウィンドインパルスで男を前方に吹っ飛ばそうとした。


 男はウィンドインパルスを全く苦にすることなく、俺の目の前まで来て攻撃態勢をとった。


 はっきり言って実力差がありすぎて未来視では相手の攻撃が見えない。


 俺がどんな防御をしようがそれを上回るスピードで攻撃してくるからだ。


 俺は体中の魔力を全身に張り巡らせて攻撃に対する衝撃を緩和させようとした。



 男の右手が俺の顔の目の前に来た時に男の右手が弾き飛ばされた。


 俺のウィンドで吹っ飛ばされながらクラリスだけは殺気から解放されたらしく、金獅子の前に立つ俺に結界魔法を張ってくれたのだ。



 金獅子は驚いた顔をして右手と俺を見たが、すぐに左手で俺の頭を狙ってくる。


 俺は全力でその左手をガードしようとした。


「うぉぉぉおおお!!!」


 俺が叫びながら両手で男の左手をガードしようとするが、未来視では俺の頭が金獅子の左手に貫かれている。


 やはりスピードに圧倒的な差がありすぎる。でもここで諦めるわけにはいかない。



 全力で男の左手から頭をガードしようとすると俺の体から魔力が抜ける感覚がした。


 ギリギリのところで俺と金獅子の左手の前に自分の両手を潜りこませることが出来た。



 金獅子はびっくりしたような顔をして左手を止めようとした。


 俺の両手と寸前の所で男の左手は止まったのだが、俺の魔力が反撃をしていた。


『バチィィィィィンンンン!!!!』




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 今日は珍しく店の中が騒がしい。


 客でもいるのだろうか?


 まぁここに連れてこなきゃどうでもいいんだが。



 しばらくすると店主のヘリクが誰かを連れてきやがった。


 周りの獣人たちが興奮してやがる。ちっただの雑魚か!



 まだヘリクと誰かがしゃべっている。


 声からすると喋っている相手は親子連れか?


 俺がそう思ってガラスの外を見ようとした時だった。


 金髪のガキが俺を見定めようとしていた。



 ふざけるな!!! ガキが俺を見下しやがって!!!


 俺は脅かしてやろうとガラスを割り、全力の殺気を発した。


 人間で俺の殺気に耐えられる奴はいない。ここにいたB級冒険者共も動けなくなっていたしな。



 最初は軽くあしらってやるつもりだったが、一人だけ俺の殺気をレジストした奴がいる。


 俺を見定めようとした忌々しいガキだ!


 ガキは驚くことに家族を後方に吹っ飛ばし、俺を遠ざけるために風魔法を使ってきた。


 それも殺傷能力を極力減らした感じの魔法だ。



 俺はガキに対してギリギリまで殺気を放ち、右手でガキの頭を軽く撫でてやるつもりだった。


 ガキもそれなりに動けるようだが、大したことはない。なんなく右手を頭の上に置こうとすると見えない何かに弾かれた。


 体が持っていかれそうなくらいの衝撃だった。



 少し驚いたがここで引くわけにはいかない俺は即座に左手で頭をなでようとした。


 ガキはガードしようと必死だが、俺のスピードに追い付くわけがない。


 もう少しで頭に手が触れるという時に異変が起きた。



 ガキの両手が俺の左手の目の前に来ていた。


 このままだとガキの左手を貫いてしまうと思い必死になって左手を止めた。


 結果は止まった。


 止まったと同時に大きな音と共に焦げ臭い匂いが充満し、俺の左手は感覚がなくなった。

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