第33話 異変

「あれ?いない?待っているって言っていたのに」


 俺らがボス部屋を出て、安全地帯に戻るとビートル伯爵や騎士団長のブレア、それに騎士団員全員がいなかった。


 ボス部屋からここまでは一本道だからすれ違うという事はありえない。


「私たちはどうすればいいのかしら?このまま帰っていいのかしら?」


「うーん、もしかしたら俺らが早く着きすぎたのかも、予定では戻ってくるのに5時間以上かかるかもしれないと言ってあったから、もしかしたらみんなで迷宮探索しているのかも……。クラリスの強さを見て騎士団員たちも奮起していたしね。もう少し待とう」


「そうね、まだ3時間くらいしか経ってないからね」


 そう言って俺らは二人の残り少ないであろう時間を過ごした。


 新しく手に入れた装備の性能を確かめたり、将来の夢を語り合ったり。


 しかし待てどもビートル伯爵たちは来ない。


 安全地帯で3時間待っていたのに、伯爵たちが来なかったので俺らは街に帰ることにした。


「結局来なかったね。どうしたんだろうか?何かあったのかな?」


「そうね、ただ迷宮を探索しているという可能性もまだ捨てきれないから迷宮を探索しながら帰りましょう」


「オッケー。じゃあ行こう」


 俺らは伯爵たちとすれ違わないように、しらみつぶしに調べながら迷宮を上っていく。


 それでも2層にはいなかった。


 しかし収穫もあった。


 2層を調べていると宝箱があった。


 価値3での宝箱で中身は



【名前】ミスリル銀の短剣

【攻撃】9

【価値】C

【詳細】装備者の魔力を通しやすい短剣。



 俺には風の短剣シルフダガーがあるので、クラリスに渡した。


 少し不思議なのが、ミスリル銀の剣、ミスリル銀の短剣とアイクの装備している炎の槍フレイムランスの価値が一緒という事だ。


 ミスリル銀は価値が高いのは知っているが、炎の槍フレイムランスのほうがはるかに性能は高い。


 価値は必ずしも性能に結びつかないという事だな。


 俺らは1層の探索をし始めたが、しらみつぶしに探索はしないで帰ることにした。


 1層であれば、あまり危険が無いため、街に戻ってから、残りの騎士団でも再探索が可能だと思ったからだ。


 そして迷宮突入してから10時間くらい経っただろうか。


 俺とクラリスは迷宮の出口付近まで来ていた。


 もうすぐクラリスとお別れなので、帰りの足取りが重い。


 クラリスも同じ思いなのか足取りが重く、口数も少なかった。


 出口の前まで来た俺はクラリスに目配せをして扉を引こうとしたときに気が付いた。


 扉の向こう側が妙に騒がしいことを。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「伯爵、ついに動き出しました!騎士団で抑え込めたのですが、被害が大きく……」


「分かった! 今から向かう。マルス君には悪いが我々はグランザムに戻るぞ!」


 グランザム迷宮に6人の騎士団員が必死になって駆け込み報告してきたので、私はすぐにグランザムに戻った。


 彼らはブレアの部下であり20人1組で構成されるライル隊のメンバーであった。


 帰りの道中はブレア達がゴブリン達と戦って道を開いている。


 こうしてみるとあの2人の子供は異常だったという事が改めて認識できる。


 ブレア含めた10人の騎士団は決して弱くはない。


 ブレアに関しては間違いなくD級冒険者クラスはある。


 他の騎士団員もD級までも行かなくてもE級上位はある。


 しかしゴブリン達からダメージを食らってしまう。


 ホブゴブリンとゴブリンメイジの組み合わせはかなり厄介らしくホブゴブリンに足止めをされている間にゴブリンメイジからストーンバレットを食らってしまっている。


 そしてポーションで回復しながら進むので進度が遅い。


 一部屋攻略しては小休止しを繰り返す。


「申し訳ございません。ビートル伯爵。我々がもっと強ければ……」


「皆まで言うな。彼らが異常なのだ。それに騎士団であるお前たちは強くなることだけが仕事ではない。とてもよくやってくれている。私はお前たちを誇りに思っているぞ」


 その言葉に心を打たれた10は頭を下げた。


 何時間かかったろうか、ようやく1層にたどり着いた。


「もう1層まで来た。出口まで慎重に、迅速に行くぞ!」


 騎士団員たちを鼓舞した。


 私が連れてきた10名の騎士団員たちはかなり疲弊しているように見えた。


「お前たちはもう戦えそうか?」


 私に報告に来たライル隊6人の騎士団員に聞いた。


「もう少し休ませてください。そうすれば戦えるようになります」


「そうか、無理はしなくていいから戦えるようになったら教えてくれ」


 何度か小休止を挟みようやく迷宮の入り口近くまで来た。


 これが最後の小休止だ。


 ブレアがライル隊の6人に聞いた。


「そういえばライル隊はどうした?お前たち6人で来たのか?」


「はい、我々6人だけで来ました。隊長やほかの隊のメンバーは賊への対応をしております」


「2層まで来るのに6人では大変ではなかったか?」


 ブレアはそう言って6人の騎士団の周りを歩き始めた。


「大変でした。だから怪我もしてしまい、持ち合わせのポーションもすべて使い切ってしまって……」


 伯爵と共にいた騎士団員も同じように6人を囲むように歩き始めた。


 するとその6人のうちの一人が


「き、急にどうしたのですか? 私たちが何かしましたか?」


「お互い茶番はやめようではないか? こちらもいつまでも無能を演じるのは疲れるのでな。我々が迷宮に入ってからずっとつけてきておったではないか」


 ブレアがそう言うと一斉に10人の騎士団員が6人を取り押さえた。


「ちっ!どうなってやがる!聞いていた話と違うぞ!」


「誰からどんな話を聞いていたんだ?」


 拘束された6人に対してビートル伯爵が問う。


 しかし6人の男たちは答えない。


「ふむ。口を割らないか。しょうがない。お前たちDランクパーティ【バーカーズ】の家族郎党すべて反逆罪で捕らえるとするか……」


「なっ、どうして俺たちを知っている?」


「それはバーカー家の事は領主としてしっかりとしている。それに監視しなくてもお前らバーカー家は有名だからな。色々報告が上がってくるのだよ。さてお話が出来るようだから改めて答えてもらおうか。何が目的だ?」


「分かった。この迷宮を出てから答えてやる」


 男たちにはまだ勝算があった。


 今頃間者200人が騎士団を制圧しているはずだ。


 騎士団はこの前の魔物達の行進スタンピードで装備が無いというからな。


 いくら騎士団とは言え丸腰であれば武装したFランク冒険者でも勝てるだろう。


 しかし迷宮を出た彼らの目に映ったものは信じられない光景だった。

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