第22話 再会
この世界に来てもう6年以上経つ。
短い命だったけど精一杯やった。諦めるつもりはないけどちゃんと現状は見えている。
私だけ逃げるわけにはいかない。この状況で騎士団が助けにきてもここまで辿り着くには1時間はかかるだろう。それに騎士団が来てもこの大群相手では……
なんでこんな事に……
最近魔物が多いとは聞いていた。
そのため、ビートル伯爵が騎士団をこの迷宮都市グランザムにずっと派遣してくれている。ビートル騎士団は120人以上いるので20人ずつに分けて毎日ローテーションで迷宮に潜ってくれる。
騎士団が迷宮に潜って魔物を間引きしてくれているのだが、冒険者ほど迷宮攻略に長けているわけではない。
その冒険者たちはというと西のバルクス王国との戦争で名を上げようとDランク以上の冒険者はみんな西へ向かってしまった。
ここの迷宮は私が生まれる少し前に出来たばかりでゴブリンしか出てこなかった。
そのためEランク冒険者がたくさんこの街に集ってきてこの街はとても賑やかになった。
この迷宮は迷宮としてはとても簡単らしいのだが、3層だけは凶悪になるらしい。
ゴブリンジェネラルがずっと湧き続ける湧き部屋というのがあるそうだ。
Cランクパーティがやっと倒せるくらいの強さらしく、この街でその湧き部屋を攻略できるパーティはいなかった。過去に1度、他の都市から有名なBランクパーティがこのグランザム迷宮にやってきたのだが、Cランク冒険者6人で結成されたこのパーティが湧き部屋を攻略できたらしいが、その先のボス部屋らしき部屋からは帰ってこなかった。
その後ビートル騎士団もこの迷宮にアタックしたのだが湧き部屋の処理で精一杯でボス部屋まではたどり着かなかった。
この街に残っているEランク冒険者達も迷宮に潜っているのだが、彼らは2層の安全地帯までしか行かない。その先はたまにゴブリンジェネラルが複数体出てきて命の危険があるからだ。
その先は騎士団が3層にある湧き部屋の手前まで間引きをしているという形だ。
そんな状況が先月まで続いていた。しかし異変が起こった。
それは迷宮都市グランザムの周辺に魔物が頻繁に現れるようになったのだ。
魔物と言ってもコボルトだ。Eランク冒険者が数多くいるこのグランザムにとって脅威ではない。しかし数が多かった。
毎日100匹くらい倒さないとグランザムまで迫ってきてしまうので、騎士団は迷宮よりもコボルト退治に追われた。
毎日グランザムに騎士団から20人派遣というのはかなりの負担になるらしい。
グランザム以外の都市もあるし、魔物が増えているのはグランザム周辺だけではない。治安維持もある。
それでもビートル伯爵は騎士団を送り続けてくれた。
そして3時間くらい前にそれが起きた。
グランザムにいる冒険者全員
もちろん私たちもない。だから最初ゴブリンが少し出てきたくらいだから大したことは無いと思っていた。
それが間違いだった。あの時すぐに逃げる準備をしておけば……
冒険者50人くらいはいたと思うが、重傷者はいなかった。
私はというと冒険者をヒールで治していた。
そう私は貴重な神聖魔法を使える。MPもかなり多いほうだと思う。
冒険者を一通り治したら第2波がやってきた。
1回で終わりだと思ってヒールを使ったのだが、それが失敗だった。
第2波は倍の200体くらいが迷宮から出てきている。
それに今度はゴブリンメイジとホブゴブリンもいる。
冒険者達は防戦一方となる。ヒールを使って援護していたのだがもういつMPが無くなってもおかしくはない。
第2波を見た住人達が避難を始める。
避難した人達が街の外にいるはずの騎士団に助けを求めてくれれば何とかなるかもしれないと思った。
街の住人は西の検問所から外に逃げていく。
それをゴブリン達が追って西側の検問所はゴブリンで溢れかえった。
逃げ遅れた住人たちは南西の方角に向かっている。
私たちがいるほうだ。
この街で戦闘しているのはこの南西だけみたいだ。
冒険者のほとんどがここにいるのだから当然と言えば当然だ。
100体くらいは倒しただろうか、残り100体ようやく先が見えてきた。
ただホブゴブリンとゴブリンメイジが何体かいるからまだ気は抜けない。
そんなことを思っていた時だ。
第3波がやってきた。
それもホブゴブリンとゴブリンメイジだけで300体だ。
ここに避難しに来た住人だけではなく、冒険者も絶望していた。
私は父と母だけは逃げていてくれと願った。
この世界に来てから優しくしてくれた父と母。
私にとって二人目の父と母。
そして私の耳に聞こえてはいけない声が聞こえた。
「クラリス、無事だったか。ここは父さんが必ず守るから。大丈夫だから安心しなさい」
「よかった。クラリス無事だったのね。私たちが引き受けるから安心してね」
父と母は逃げ遅れたのだ。いやもしかしたら私をおいて逃げることが出来なかったのかもしれない。
父と母は私の前に出る。
最前線は冒険者達が引き受けてくれているが、今にも突破されそうである。
もう何人かは重傷を負って後退してきている。
冒険者達がどんどん後退するにつれゴブリンに包囲されていく。
そして完全に包囲されるまで30分はかからなかった。
もう戦える冒険者は20人くらい。
街の南西の角にいる私たちは、私たちから見て北側を冒険者、東側を住人が守っている。
住人の前線には父と母もいる。私の後ろには100人を超えるけが人。
そして住人が守る東側で重傷者が出た。父だ!
父の右腕は折れていた。そしてお腹から血が出ている。
「お父さん!大丈夫?待って今すぐ治すから」
「やめなさい。今お前が回復しなきゃいけない人は冒険者だ。冒険者を優先的に治してくれ。そうすれば、お前は助かる。住民も助かる」
すると母もお腹から血を流して後退してきた。
どうやらゴブリン達はもう勝利を確認しているらしく、じわじわとなぶり殺しにするつもりらしい。
その証拠に「ギャギャギャ」と笑いながら攻撃している。
私は迷わず父と母にヒールをかけた。
父と母のお腹の傷は治った。
父の右腕は治らなかったが、一命はとりとめたのでヒールは1回でやめておいた。
それを見た冒険者がいう。
「まだヒールが使えるなら、俺たち冒険者にも頼む」
すると住民が
「私のほうが重傷なんだから私から治せ!」
「私が先だ!いや私だ!……」
こうなることはわかっていた。
だけど私は父と母を見捨てることなんてできない。
そうこうしているうちに人間同士で内輪もめを起こす。
中には私に暴力を振るってでもヒールをかけさせようとする人がいた。
貴族だ。男が自分は男爵だから俺を治すのが最優先と言ってきたのだ。
貴族が擦り傷しか負っていないのを確認し、大丈夫だと判断すると私は残り少ないであろうMPを冒険者の為に使った。
すると貴族の男が私の頬をはったのだ。
「ふざけるな!不敬罪で処刑する!」
すると貴族の男が剣を持って私に斬りかかってきた。
まさかこの状況でそんなことするはずもない、ましてや頬を叩かれたことにすら驚いていた私はただただその場で固まっていた。
目を瞑って覚悟をしてもまだ斬られていない。
あれ?と思って目を開けると、父が私の身代わりになり斬られていた。
そして母も私の前にいる。
二人で肉壁になるつもりだったのだ。
私は即座に父にヒールをかける。
少し止血はできたであろうが、まだ血は止まっていない。
そしてもう一度ヒールをかけたが、発動しなかった。
MPが1〜9しかなくなってしまったのだ。
斬られた父が貴族に言う。
「どうか娘をお許しください。寛大なご処置を……」
「貴様も私の邪魔をするのか!親子ともども不敬罪で死刑だ!死んで詫びよ!」
剣が振り下ろされた時だった。
貴族の男が吹っ飛んだ。
驚いた私は貴族を吹っ飛ばしたいつの間にかそこに居た私の知らない
私と同じ年くらいの男の子。
私より背の高い男の子。
そしてどこか懐かしい感じのする男の子だった。
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