第3話

 深山工務店からはバンは快走していた。交通道路は思いの外空いている。バンの中はクーラーは新品だし快適だった。電話で聞いた住所を目指して川岸へと向かう。


「ふふーん。ふーん。おっと、確かここら辺で……。あー、案外近いんだな。あれ?……あれか?」


 目的地周辺でバンを脇に寄せると、静かな住宅街のほぼ中央にある一軒家。そこにだけゴミの山ができていた。


「うーん。住所当ってるからなあ。やっぱここだ」


 呼び鈴を鳴らすと、ポーンと軽い音が家の内外に力なくなった。


「すいませーん……深山工務店ですー」


 静かだった。まるで誰もいないかのような生活音の無さ。


「すいませんー。岩見さんいらっしゃいますーー? 水漏れの修理に来ましたーーー。……?」


 しばらくしても、誰もでない。

 まさかここで、ずっと立っているわけにもいかない。

 さあ、どうする?


「ほんとよねー。あそこの家の人。とても良い人だったのに」

「まあ、仕方ないのよね。だって……」

「あら、そうかしら?」


 ミ―ン。ミ―ン。ミ―ン……。


 いくら耳をすませても、蝉の鳴き声。電柱の影の近所のおばさんの話し声。

 それしか聞こえてこなかった。

 

 もう少し待つか?

 うーん。

 

 おや?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る