青春の一齣

岸亜里沙

青春の一齣

新緑の木々から落ちる木漏れ日は温もりに溢れ、キラキラと地面を照らしている。

優香里ゆかり未来みきは校舎の片隅に設置されたベンチに座り、その光の乱反射をぼんやりと眺めていたが、未来が優香里に唐突に話しかけてきた。

「ねえ、優香里って颯真ふうまくんのこと、好きでしょ?」

優香里はドキッとした。

颯真くんは爽やかで明るいクラスの人気者。クラスの女子の大半は、颯真くんのことが気になってるはずだ。

優香里も正にその一人だった。

「うん。まあ、好きかも」

優香里は動揺を隠しながら、素っ気なく答える。

「やっぱり!颯真くんのこと見る目が輝いてるもん」

「未来は誰が好きなのさ?」

「颯真くん!」

「えっ?」

「私、颯真くんのこと大好きなの!」

「そうだったんだ。全然知らなかった」

優香里は驚きと動揺を隠せなかった。

まさか未来も颯真くんのことを好きだったなんて。

「でも噂で聞いたんだけど、颯真くんには好きな人がいるらしいよ」

未来がそう言うと、優香里は目をぱちくりさせた。

「そうなの?」

「そう。でもそれが誰か分からないの。菜緒なおが颯真くんに告白したらしいんだけど、断られちゃったみたい」

菜緒は、颯真くんと家が近所で、小学校時代からの知り合いらしい。たまに二人で帰っている姿も見ていたので、優香里は颯真くんの好きな人は菜緒なのではと一瞬考えたが、違ったみたいだ。

「あと颯真くんの親友の啓輔けいすけくんにも、こっそり聞いてみたんだけど、颯真くんの好きな人は分からないらしいの」

「もしかしたら別の学校の人かな?あれだけ仲が良い菜緒ではないなら」

「そうね。だけど言い換えれば、私たちにも可能性チャンスがあるって事よ。颯真くんの好きな人は優香里かもしれないし、私かもしれないし」

「私じゃないわよ。だって颯真くんとはほとんど会話してないもん」

「分からないよ。もしかしたら颯真くんも優香里を意識してるから、あまり話せなかったりしてるんじゃない?」

「絶対違うって。でも未来の方は、颯真くんとよく飼ってる犬の話とかしてるでしょ?」

「あはは!それぐらいの話みんなしてるわよ」

「でも未来と話してる時の颯真くん、いつも楽しそうだよ」

「そう?私は優香里が本命だと思ってるわ。でも万が一、私と颯真くんが付き合うってなったら嫌?」

「そんなことないよ。だって未来は親友だもん。未来が幸せなら私も嬉しいよ」

「本当?ありがとう。私も優香里が颯真くんと付き合うってなったら全力で応援する」

「うん。この先何があっても未来とはずっと友達でいれたらいいな」

「私たちの関係は不変だよ!でも颯真くんの好きな人って、本当誰だろうね?」




ちょうどその頃、颯真は、自宅で啓輔とゲームに興じていた。

「なあ、この前未来に、お前の好きな人が誰か知ってるか聞かれてさ。まあ適当にはぐらかしたけど」

啓輔が画面に目を向けたまま話しかける。

「そうなのか?」

颯真も画面から目を離さず答えた。

「お前プレイボーイすぎるぞ!この前も菜緒に告られてただろ?」

「ああ、菜緒も友達としては好きだけどさ」

「でもいくら隠したって、きっとその内バレちまうんじゃないか?」

啓輔がそう言うと、颯真はゲームのコントローラーを床に置き、視線を啓輔の方に向けた。

「別にバレたって、俺の気持ちは変わらないよ」

そして颯真はそっと啓輔の手を握りしめた。

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青春の一齣 岸亜里沙 @kishiarisa

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