全国統一編
第十八伝 VS 福島県 背景ドッペルゲンガースケバン
「やべ~、このままだと遅刻するかもしれねぇ…起こしてる時間あるか?」
通学路を全力で走る学ランの男、文月八雲の朝は早い───。
今日も今日とて瑠衣を起こす為に家へと向かっているが少し寝坊した為焦っていた。
やがて最後の曲がり角を曲がると、八雲は驚愕する。
「え───瑠衣!?」
瑠衣の家の前に立つその姿は、確かに瑠衣だった。
「あ、八雲おはよう、さっさと学校行こーぜ!」
ニカっと笑う瑠衣に八雲も返事をする。
「お、おう…おはよう」
「どうした? 早くしないと遅刻するぞ!」
途端に駆け出す瑠衣を慌てて追いかける。
「あ、おい待てって!」
「何?」
立ち止まって後ろを振り返る瑠衣、八雲は何かを言いかけるが、やめた。
「───いや何でもない、さっさと学校行くか」
再び歩き始め、他愛のない世間話をしながら学校へと向かう。
「忘れ物とかしてないよな?」
「してないしてない」
「本当かよ…」
◇◇◇
(東京のスケバンは厄介という噂ですしねぇ、まずは仲間のスケバンと仲違いさせるのが定石でしょう)
八雲と一緒に登校している彼女は姿形は瑠衣そのものだが中身はそうではなかった。
瑠衣に化けている彼女の名前は、
写真でも実物でも、一度見たことある人間に化ける事ができるスケバンである。
(ん~…やはり蓮水瑠衣ではなく、この男に姿を変えて他のスケバンを落とした方がいいかもしれませんねぇ…愛憎渦巻く三角関係、すぐに形成してみせましょう)
福島県 背景ドッペルゲンガースケバン 江ノ前玉藻
VS
パンピーヤンキー 文月八雲
いざ尋常に、バン外勝負!!
特に何かが起こるわけでもなく、時刻は12:30、昼休みの時間となった。
(どのタイミングで仕掛けるのがいいのか、掴みかねますねぇ…蓮水瑠衣がいつ学校に来るかも分かりませんし、というか…)
くるりと振り向き、玉藻は八雲に話し掛ける。
「やっと授業終わったな~、八雲は昼飯どうする?」
(この男、滅茶苦茶邪魔ですねぇ~、私が知らないだけで付き合ってたりするんでしょうか)
授業終わりの休憩時間に教室外へ出て影で画策するつもりだったのだが、何をするにも八雲が着いて来るため全てが失敗に終わっていた。
「そうだな、まあいつもの所でいいんじゃないか?」
どこだよ、と大声を出したくなるのをグッと我慢する玉藻。
「あ~やべ、私弁当家に置いてきちゃった、購買に行ってくるわ!」
白々しく八雲から離れようとするが、できる男は違う。
「はぁ…そんな所だと思ったよ、ほらここに瑠衣の分の弁当も用意してあるから早く行くぞ」
バッグから弁当箱を二つ取り出し片方を玉藻に手渡す。
(くっ…この男、中々やりますね…)
「おっ、八雲は気が利くな〜、ありがたく頂くぜ~」
「はいはい、早く行くぞ」
着いていくしかない玉藻、即座に別人に姿を変え八雲を撒くことも考えるが、如何せん
(これは…やはり付き合っていると見るのが妥当ですねぇ)
階段を二人で上り、屋上に続く段差に座り弁当を広げる。
(わざわざ作って貰ったご飯を無下にするのも何ですし、食べ終わってから考える事にしましょう)
「頂きまーす…え、普通に美味しい」
思わず素の反応を見せてしまった玉藻は慌てて口を抑えてチラっと八雲を見る。
(まずい、バレましたかね…?)
「普通って何だ普通って」
「は、はは…ごめんごめん」
冷や汗が垂れるが、なんとかバレてはいないようだった。
意外にも美味しかった弁当を二人ともすぐに食べ終えると静かな時間が流れる。
(な、何でしょうこの微妙な雰囲気は…何人もの男を落としてきた百戦錬磨の私ですらこの甘ったるい空気には耐えられそうにないですねぇ…)
「や、八雲…私ちょっとトイ───」
「よし瑠衣、俺の準備はできてる、いつでも来い」
半ば玉藻の発言に被せるように八雲がそう言った。
「…な、何の話…?」
「バカ言わせんな、昼飯食い終わった後いつも瑠衣の方からしてくるじゃねえか…キ…キスをよォ…」
耳まで赤くしそっぽを向きながら衝撃的発言をする八雲。
(な、なな何ですってーーーー!!! こ、こいつらやはりそんな仲だったんですか!!)
「あ、ああ~そうだ…ったな」
(で、でもキスって事はまだABCのAまでという事、そ…それくらいなら…)
ごくっと唾を飲み込み、八雲の顔に触れ自らの顔を近づける。
(こ、これはスケバンを倒す為、スケバンを倒す為ですからね!!)
「キス…するよ……八雲…」
やがて瞳を閉じ、そっと八雲と唇を重ね合わせる。
(うう…どうしてこんな事に…それに、何だか胸が苦しい…)
胸が締め付けられるような思いに駆られる玉藻、そして鼻に違和感を感じた。
「!」
瞳を開けると、目の前には手。
八雲の手が玉藻の鼻をつまんでいた。
(ち、違う…この苦しさは───窒息によるもの!?)
「んー!」
慌てて口を離そうとするが、八雲の空いた手でがっちりと首をホールドされ全く動かすことができない。
「この時を…待ってたぜ…」
◇◇◇
違和感は初めからあった。
目覚ましの音でも起きずいつも八雲が起こしている瑠衣が自分で起きていた事。
更には既に制服に着替え玄関の前に立っていた事も。
極めつけは登校時に瑠衣が駆け出した時、八雲の声に立ち止まった事だった。
(る…瑠衣なら絶対に止まらない…)
違和感はやがて確信へと変わった。
(間違いない…この瑠衣は、スケバンだ…!!)
◇◇◇
口と鼻を塞ぎ呼吸困難に陥らせる事で玉藻を気絶させるのが八雲の作戦だった。
女は傷付けない主義の八雲が取れる唯一の策、他にもやりようはあったかもしれないが咄嗟に思い付いたにしてはベストの選択だろう。
突然口を覆ってもスケバンには逃げられる可能性があった為、相手から近付いてもらうよう誘導したが、勿論瑠衣と八雲は付き合っていないし、キスもした事はなかった。
(ま、まずいですね…息が…!!)
八雲の脇腹目掛けて拳を何発か放つが、肘が上手く引けない上に、距離が近過ぎるため威力が出ない。
(こっ、こんな事で…!! せっかく栃木の殺生石が割れて能力が戻ったのに…!! この程度の男にィィィ!!!)
やがてその拳も動かなくなり、力を失ったようにパタリと落ちた。
「プハッ…ふぅ───勝ったな…」
バン外勝負これにて決着ッ!!
勝者、文月八雲 !!
決まり手、ディープキス
「うおっ、瑠衣の身体じゃなくなっていく…誰なんだこの人」
気絶した事により能力が切れ、玉藻の本来の姿が顕になる。
「とりあえず保健室に運ぶか…」
八雲がチラリと階段下を見た時だった。
いつからそこにいたのか、八雲と玉藻を見上げる者が居た。
「あ」
目が合い、思わず声が漏れる八雲。
今にも泣きそうな顔をして八雲のことを見つめていたその人物は、
蓮水瑠衣だった。
◇◇◇
スケバン図鑑⑪
なまえ:江ノ島玉藻
属性:背景ドッペルゲンガースケバン
能力:見た事ある人間の姿に化けることが出来る。
備考:まるで背景に溶け込むかのように相手の周りを動き回ることで、交友関係を破壊する。
ご当地:猪苗代町の殺生石
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