第十七伝 VS 徳島県 鳴門の大渦潮スケバン




「君達の名前は?」


爽やかイケメン系美少女が二人に聞く。


「…饂飩川小麦です」「神火祭鈴だ」


「小麦に祭鈴か、うん、いい名前だ」


笑顔を見せる之保に二人は警戒する。


「三県揃って来てくれて助かったよ、お陰で倒しに行く手間が減ったからさ」


「運良く宿毛を倒せたからって調子に乗るんじゃないよ」


祭鈴が人魂を放出し之保の目の前で爆発させる。


が、当然之保も警戒していたのか、瞬時に水を操り人魂を包み込むと、ジュッと音を立て鎮火させる。


「ヒュー、炎系の能力者かな? それなら僕は天敵だね」


顎に手を当てポーズを取る之保、しかしその間に二人には距離を取られていた。


即座に之保に背を向け走り出す小麦と祭鈴。


「おっと、僕の能力から逃げるのは難しいよ」


指鉄砲で二人を撃ち抜く動作をすると、球状になった水が二つ、高速で二人に迫りその顔を包み込んだ。


「ゴボッ───!?」


「これで勝負が決まってしまうんだから僕の能力はやっぱり強過ぎるな」


髪をかき上げて遠くを眺める之保、恐らくカッコつけてるつもりなのだろう。


之保の言う通りこのままでは息が出来ずに敗北するのは必至、窒息する前に距離を詰め能力者本人を叩くのがベストだが、逃げ出していたせいで距離が離れてしまっている。


脳に酸素が充分に行き渡らなければ思考能力もどんどん低下する、小麦の判断は速かった。


目を瞑り、祭鈴と自分の顔にまとわりつく液体に触れる。


同時に両手から粉を噴出させ、水に溶かす。


「上手い、それでこそ高知と愛媛を倒したスケバンだね」


之保の能力は、触れた液体を操るようにする事ができる『潮汐』、貯めた液体に触れる事で渦を作り出し高速で発射することができる『渦潮』の二つである。


『渦潮』は攻撃力こそ高いものの、液体を放出してしまう点で連射はできない。


更に相手との距離が離れている場合は『潮汐』で一定量の液体を操っていなければそもそも攻撃が届かない。


そして『潮汐』で操る液体は性質が変わってしまうと操れなくなってしまう。


つまる所、顔にまとわりついた液体はゲボでも吐いて成分を大きく変えれば制御不能になる。


小麦と祭鈴の顔を囲んでいた水は粉によって粘度の高い液体に変わってしまい、割れるようにボタボタと零れ落ちた。


咄嗟の判断だったが、息の出来ない状況で冷静に思考できるのは流石と言ったところだろう。


これが香川県のスケバン、饂飩川小麦。


愛媛、高知を下した実力は本物である。


「どうやら宇頭の能力は液体を操る能力らしいな、そして不純物が混じると能力は切れると…」


「宿毛置いてきちゃったけど大丈夫かな…? おんぶした方が良かったかも」


「仕方ない、今は宇頭を倒す事だけを考えた方がいい、この場所は相手に有利過ぎる」


水に埋め尽くされたプールという場所は之保にとって武器のバイキングに等しい。


「そうだね、とりあえずさっきみたいに顔の周りを水で覆われるかもしれないから───」


その時、小麦の横を巨大な質量を持った物体が横切る。


「『渦潮』、これで二人の距離は離れた」


その正体は水、高速で衝突する水の勢いに祭鈴の身体は吹き飛ばされ、一定間隔で設置されている南国風の木に叩き付けられる。


「ゴハッ…!!」


バシャアッと飛び散る水を再び集め祭鈴の顔を囲う。


「祭鈴!!」


走り出そうとする小麦の上空に迫る影。


「『渦潮』」


之保が握った拳を下に振り下ろすと、小麦の上から大量の水が回旋しながら打ち下ろされた。


手元から放った『渦潮』を急旋回させ上からぶつけたのだ。


耐えきれず顔から地面にぶち当たると、そのまま圧力で押し潰されてしまう。


「がっ…あ…!!」


「君に助けられると困ってしまうからね、足止めさせてもらうよ」


祭鈴の肺は既に水との衝突により空気が根こそぎ奪われていた。


気絶するまで秒読み、肝心の小麦が足止めされている以上自分で対処するしかない。


「───ッッ!!」


祭鈴は咄嗟に木の後ろに設置されている休憩スペースのパラソルの根元を爆発させる。


無惨にも折れたパラソルを掴み之保へと向けた。


目的は、身を隠すため。


之保が操る液体は、あくまでマニュアルで動かしている。


オートで追尾する物ではない以上、視界を塞がれてしまっては相手の正確な位置が掴めない上、精密性に欠けてしまう。


「───プハッ!! ハーッ…ハーッ!! あ、危なかった…」


上体を逸らして頭の位置を下げ、呼吸する。


顔の前では目標を見失った水が動き回っているが、高さが違うため祭鈴を捉えるのは難しいだろう。


「祭鈴!! 今の内に屋台まで走るよ!!」


横から飛び出してきた小麦が水に粉をぶちまけ制御不能にする。


パラソルを放り投げ二人は走り始める。


「小麦、宇頭が居なかったけどどこに行ったか分かる?」


「プールに潜って行ったよ、多分水の補給に行ったんだと思う」


小麦の言っていることは正しい。


『渦潮』の連発で操れる水を使い果たしていた之保は武器を回収する為にプールへと潜っていた。


「二人共、いい判断力をしてるな、次の渦潮で一網打尽にしよう」


操れる上限まで水を貯め終わった之保は、二人にいち早く追いつく為、水面を走りショートカットを行う。


水面に足を着けるのと同時に、水を操り足を押し上げる。


押し上げる勢いが弱ければ徐々に沈んでいくが、これにより誰もが夢見る水面走りを可能にしていた。


「見つけた、これだけ水の量があれば『渦潮』の威力も相当上がるね、これは一撃で決まるな」


例え一撃で気絶させられなくても、その量で全身を囲んでしまえば幾ら粉を生み出そうが、全体からみれば微々たる量にしかならない。


勝利の方程式を組み立てた所で屋台の並ぶエリアを走る二人を見つけ、大量の水を空中に持ち上げ近付きながら狙いを定める。


手で触れ渦を作り出す。


「『渦潮』最大出力!!」


やがて渦の回転が目にも止まらなくなると、弾かれたように水が高速で螺旋状に打ち出された。


二人に、防ぐ術はない。


「勝った」


と、之保が思った時だった。


ボガンッと爆発が起こり、その勢いで渦潮が押し返される。


粉塵爆発を起こし時間を稼ぐ作戦だろうか、しかし之保が水に触れ続ける限り回転は止まらない。




しかしこの時、二人の狙いはそうでは無かった。


爆発と同時にを投げ込む。


既にエンジンが稼働しているそれは───屋台や屋外での使用に重宝する物。


発電機ジェネレーターだった。


爆発に隠れそれが見えていなかった之保はお構い無しに水を突っ込ませる。


この場所が海水プールだった事も災いした、海水は非常に電気をよく通す。



刹那、水に手を付けていた之保に電流が走る。


「カッ……ハッ……」


一瞬で意識を刈り取られ之保が気絶すると、制御を失った水が空中からバシャアっと地面に落ちた。


小麦と祭鈴は咄嗟に屋台で使っていた机の上に飛び乗り、感電は免れた。


「何か一手でも間違えていたら負けていたな」


「危なかったね、また祭鈴のおかげで勝てちゃった、ありがと」


そう笑う小麦に祭鈴も笑い返すと、呟くように言った。


「いや、小麦の実力だよ」




スケバン勝負これにて決着ッ!!


勝者、饂飩川小麦 神火祭鈴 !!




四国最強のスケバン、決定!


香川県 喉越し悩殺スケバン 饂飩川小麦!!




◇◇◇




四国編はこれにて幕を閉じる。


舞台は再び、蓮水瑠衣含む東京へ。






福島県某所にて、


「へぇ、噂の東京のスケバンには意中の相手がいる…当然、利用しないテは無いですわねぇ、そちらから攻めるのも…うふふふ」






福井県某洞穴にて、


「こんな所まで呼び出して、何なの? あーしこんなジメジメした所嫌いなんだけど」


「東京のスケバンを倒す、協力しなさい」


「え~、あーし新しいガッコで舎弟かれし増やすのに忙しいからパス」


「東京のスケバンには恋仲の男が居るという情報があります、写真はこちらに」


「ふ~ん、なんかあーし好みのイケメンじゃん、いいよ、付き合ったげる」




文月八雲の貞操や如何に。


全国編に続く。




◇◇◇




スケバン図鑑⑩


なまえ:宇頭之保


属性:鳴門の大渦潮スケバン


能力:触れた液体を操る能力、見えない場所でも操る事はできるが精密性が著しく下がる。ただし操れる液体は一度に一種類のみ。


備考:イケメンなのでよく同性からも告白される。勉強はできるが賢くない。


ご当地:鳴門の渦潮


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