後編
「は? え、この、屋敷を…??」
「いやはや孫の事もありますのでね、こちらとしても子爵様とは今後ともよろしくお願いしたいところです。しかし驚きましたよ、婿入りしておきながら愛人を囲うとは。しかも、その費用をご自身では一切用意せず、うちの娘に費用を出させていたばかりか、たった五年でその合計金額がこの屋敷を土地ごと購入してもまだ足りぬほどの額になっているとは!」
「え…?」
子爵様の説明にプラスして、アドルフに追い打ちをかける父。愛人云々は同じ男として大目をみれても、私がしっかり残しておいた愛人費用の明細書を見て大激怒していたので当然だろう。私も五年の結婚生活で感覚がマヒしていたな、と改めて思い直したものだ。妻であった私をお金としか認識していない様子のアドルフには苛立っていたので、この際私も追撃しよう。
「今まで、貴方の愛人費用は私の個人的な資産から費用を出しておりました。離縁となった今、その分を返金して頂くのは当然でしょう?」
「はぁ?! そんなの聞いていないぞ!」
「では、どこから費用を出すおつもりでしたか? 何度かお尋ねしましたが、貴方はお前が出しておけ、とおっしゃるばかりで碌な返答がございませんでしたわ」
そもそもアドルフの個人資産はとっくに愛人へのプレゼントで消えており、働いていないので新たな資金が発生することもない。それで本当にどこから費用を出せと言うのか。
「それは…ほら、君の実家からの」
「先に言っておきますが、娘に送っていた金はこの屋敷の運営費用と生活費であり、元婿殿の愛人用のお金なんて一切、含まれていませんよ」
「生活費から、ある程度は『夫のお小遣い』として持たせましたが、すぐに足りないと催促されますので、結局、ほとんど私が出すしかなかったのですわ。貴方が父の元で働くなりしていれば、その給料から出すつもりでしたが、そのような事もあるませんでしたしね。まさか、婿入りするだけで私の実家のお金を好きに出来ると考えていた訳ではないでしょう?」
「~っ! 貴族でもない癖に! 平民の妻の実家のお金くらい、僕が自由にしたっていいだろう?!」
何言ってんだコイツ。
きっと部屋に居るアドルフ以外が同じ事を思っただろう。平民だろうが貴族だろうが、妻の資産は本人の同意と手続きがあれば、夫婦の共有財産として扱えるが、妻の実家の資産に関しては現家長または現当主のモノだ。更には父の後継ぎは、私が産んだ子供と決まっている。アドルフが家長となることはあり得ないのだ。そのことは、結婚前から取り決められていた。だからこそ、アドルフが遊び暮らすことを容認されていたのだから。
「…これ以上は、時間の無駄だな。…連れて行け」
「?! 待って、待ってください、父上! 僕は!」
今度こそ、アドルフは外へと連れて行かれ、しばらくその声が響いていたが、それも聞こえなくなった頃、改めて返金の手続きを行う。これで、この屋敷と土地は私と我が子のモノ。屋敷内にある家具も使用人も全部こちらで引き取るので、明日以降もこのまま暮らして行くことになるだろう。
出て行けと言われても、その必要は一切ないのだから。
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