いらないもの

あいくま

第1話 

 教室のドアを開ける。家庭科の授業をするのはここだったかな。確認しつつ中に入る。中はガヤガヤとしていて、入ってきたことに気づいた生徒はごく数名。しょうがないか、とため息をつきながら教卓で準備を進める。教科委員に手伝ってもらいながらなんとか準備を終わらせ、予鈴を待つ。1分もしないうちに鳴り、授業を始める。最初はなんだかんだみんな起きてノートに書き込むなり配ったプリントにメモするなりしているのだが、そのうち眠そうにコックリコックリする人が現れる。またあの子か......そう思いながら近づき、起こしに行く。周りが苦笑し、あの子は照れながらも授業に意識が戻る。この授業が始まって早2か月。そんな風景が日常化しつつあった。その後も眠そうにしてる人を起こしながら授業を進め、この日は終了。片づけをし、職員室に戻った。

 机に戻ると、先輩である××先生が次の授業の準備をしていた。

「あ、お疲れ様です。××先生。次授業ですか?」

「そうだよ。そっちは授業終わりか。お疲れ様。」

「ありがとうごさいます。」

「今日は授業をどこまで進めた?」

「○○までです。」

「ちょっと遅すぎだな。これじゃ期末テストまでに範囲が終わんないぞ。」

「ごめんなさい。次は......」

「まあ、慣れてないところもあるし、次は頑張ろう。」

「はい。頑張ります。」

優しくいってはくれるがこれ以上迷惑はかけられないな。授業が遅れる原因はわかっている。生徒1人ひとりに気を配りすぎなのだ。1人寝てるくらい気にせず進めろという人もいる。確かにそのほうがいいのかもしれない。だが、全員が授業に向き合う姿がよいと考えているためにどうしても起こしたくなってしまう。悪いことではないはずだ。だが、その考えも改めさせられることになるとは思っていなかった。

 その日も普通に授業をし、寝ている子を起こしながら進めていた。そして、いつものあの子も起こしていると、

「邪魔だなぁ。寝かせろよこんな授業。」

何よりも先にショックが全身を貫いた。怯みそうになりながらもなんとか起きてもらおうと説明する。

「ちゃんとやればね、将来役に立つから......」

「何に使うんだよ。こんな知識。」

「えっと、例えば......」

何とか声を出そうとした。だが、声がでなかった。それを見て、笑いながら追撃してくる。

「やっぱいらないんじゃん!ばっかじゃねーの!」

周りからもあざ笑うかのような声が響く。もう耐えられるような精神状態ではなかった。授業をしていた記憶などなく、あの子の言葉が心に深く突き刺さっていた。

 それからというものの、あの教室に行くのが怖くなった。教科委員は手伝いに来なくなった。何を言っても、反応を求めても無言だった。ゴミ箱に捨てられていた自作のプリントを見つけた。心は壊れていった。次第に他クラスの授業でも自信をもって授業ができなくなった。どんどんやりたいことができなくなり、授業は進まない。当たり前のように生徒からの文句も増えた。一人で考えて行動するのには限界を迎えていた。どうしようもなくなり、××先生を頼ることにした。何かいい方法を知っていると思ったからだ。

「必ず、あなたの話に興味を持っている生徒がいるはずですよ。今度の授業で探してみてください。見つければ自信がつくはずです。ぜひやってみてください。」

「ありがとうございます!やってみます!」

「頑張ってくださいね。応援してますから。」

 話をしてから数日後、授業するために教室へ向かう。アドバイスのおかげか、いつもより足取りが軽い。予鈴が鳴り授業を始める。15分ほどたった後、××先生の言っていたことを実践してみる。必ず興味を持ってくれている人がいるはずだ。そう信じていた。

 だが実際はどうだろう。他教科の教科書を開いている人、寝ている人、中にはスマホをいじっている人もいた。知ってしまった。この授業を聞いている人なんて、誰1人としていなかった。

 私の存在意義とは、なんなのだろう......



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