第46話 一人じゃない

 俺の風邪が完全に治った時には、合宿の最終日だった。家に泊って看病を続けてくれた立花に何か奢ってあげたいと、朝から二人で人気のないラーメン屋に入った。

 豚骨醤油ラーメンの食券を2枚買って店主に渡す。その間、二人で他愛のない話をしていた。昼間なのにラーメン屋には誰もいないね。いつ海行こう。少し遠出するのもありだなぁ。

 そして立花は俺の耳に口を近づけると恋愛の話もしだした。


「ベストに依織君っているじゃん? 静音ちゃんのこと好きなんだって」

「あ、あれって本気の好きなんだ」


 体育祭の時に依織君が静音さんのことを凄い追いかけているのは見かけた。でも同じ事務所で仕事をしている友達だからだと思っていた。

 立花は圭さんに用があって事務所に寄った時に依織君が静音さんに告白しているところまで見てしまったそうだ。

 待って、デジャブ。七瀬さんも秋君に告白されてる。


「本気で好きだって言っててさぁ。アイドルがアイドルに告白ってなんか新鮮」

「ま、まぁ、普段なら見かけないよね」

「ぶっちゃけ秋君と七瀬ちゃんも怪しくない?」


 立花は恋愛に関しては鋭い。まあ、俺以外の誰かに口外するような人じゃないから安心はできるけど。


「仲いいのはいいことだよ」


 会話の途中で店主が頼んでいたラーメンを持ってきてくれた。食べている間は一言も話さず、ただ食べることに集中していた。どうしてかラーメン屋に行くと、まったく人と話さなくなる。夢中になってしまう。


「はぁ。美味しかった。ごちそうさま!」


 喜んでくれたみたいで良かった。

 この後は圭さんが家に忘れた弁当を届けに行くという立花についていき、事務所に寄った。圭さんはいつも通り元気そうで、俺の体調を心配してくれた。3人で話していると、俺のスマホに電話がかかってきたから、廊下にでて電話にでた。


「もしもし。有沙さん?」

『有沙だよー。元気?』

「うん。もう元気だよ」

『よかった~。次はいつバイトに来るの?』

「えっと、明後日だったと思う」

『りょうかーい。じゃあね!』

「あ、あのさ」

『はーい?』


 俺が風邪をひいていた2日間、有沙さんは1日に3回くらい電話をくれて俺の体調を心配してくれた。楽しそうな写真を送ってくれたから元気もでたし、本当に助かった。


「ありがとう」

『え?』

「写真送ってくれて凄い嬉しかった。電話も、かけてくれるのちょっと楽しみにしてたんだ。有沙さんと声聞くと自然と明るい気持ちになれた。だからありがとう」


 もちろん、感謝の気持ちは有沙さんだけに向けたものじゃない。七瀬さんや静音さんもメールを送ってくれた。だから二人にも気持ちを伝える予定だ。

 有沙さんに思っていたことをすべて言い終えると、少し恥ずかしがっていた。


『えへへ、ちょっと照れちゃった』


 有沙さんが照れているところはあまり見ないから新鮮だったし、なんだか嬉しくなった。


『あ。ミーティングあるからもう切るね~』

「うん。また明後日」

『……うん、またね』


 電話を切った後、しばらくスマホ画面を見つめていた。



「ふっ」



 また明日が楽しみになった。

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