第26話 4人のお約束

 夏の合宿はまだ1か月先だ。今は静音さんの誕生日を第一に考えよう。

 俺のカツラをとったところが見たいって言ってたけど、流石に今は無理だから他のものをあげるしかない。


「……ん?」


 待って。合宿ってことは、風呂に入るんだよね。

 

 カツラ取るじゃん!!!


「はぁぁ。やだぁ」


 七瀬さんと有沙さんならまだしも、大智さんと静音さんは知らないからどうにか対策をとらないと。


「ちょっと」

「はいい! って、七瀬さんか」


 びっくりした。


「なに」

「なんでもないです」

「合宿来るって本当?」

「ほ、本当だけど」

「はああああ」


 深いため息をつかれた。俺がついていくのがそんなに嫌なのか。少しは距離が縮まったと思ってたのに寂しい。


「あの二人にちょっかい出したらどうなるかわかってる?」

「そもそもそんな、ちょっかいとかかけないから……」

「信じられない。私の視界に入るとこにいなさいよ?」

「う、うん」


 警戒されてる。

 合宿先って海があるんだっけ。水着に着替えて入ったりまではしないだろうけど、楽しみだなぁ。

 あ、そういえば、秋君とはどうなったんだろう。あれ以来、七瀬さんから何も話を聞いてない。俺のことを秋君にどう伝えたのか気になる。

 あああ! あの時帽子を借りたまま持ち帰ったんだった。


「七瀬さん。借りた帽子返したいんだけど」

「……ああ、昨日の」

「今日忘れてきたから、次の勤務で返すよ」

「いつでもいい。帽子の予備はまだある」


 少し安心した後、聞きなれた声に視線を向けた。


「リツさーん! あれ? ななちゃんとお話し中?」


 緑茶のペットボトルを手に持った有沙さんがやってきた。


「してない。もういい」


 七瀬さんは俺たちから離れるようにレッスン室に戻って行こうとする。


「リツさん。合宿用の水着買いに行くから週末のお買い物についてきて?」

「へ?」


 水着というワードに反応した七瀬さんは怒りの形相でこっちにやってきて有沙さんの胸蔵をつかんだ。


「有沙」

「なになにー、なんでそんなに怒ってるの? 服伸びちゃうよー」

「馬鹿? 大ちゃんならとにかく、どうしてこの人と行くの。周りにばれたらどうするわけ」

「大丈夫だよ。いつもの付け髭とカツラだってあるし」

「それは男装でしょ? 試着の時に完璧に男装した人が水着着てたら視線が集まるに決まってる」


 それは不審者並みに怖いかもしれないし、視線は集まるよなぁ。


「私と静音の3人で行けばいい」

「でも荷物重いよ。有沙、水着以外に買いたいものあるもん」


 かれこれ数分はもめていたけど、やっと結論が出たみたいだ。


「リツさんは私達の荷物持ちね」

「ん?」

「有沙と二人きりは危険。だから私達もついてく。貴方はついでだから、荷物持ち担当」


 酷い扱いだけど、雑用には慣れてる。



「今週末、駅前集合ね」



 女の子とお出かけは、2年前ぶりだ。

 俺も変装に気合いれないと!

 

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