第2話 ふみだした一歩め
「えー、今日は第1回目なのでガイダンスからですね」
大学に入学して1週間後、講義が始まった。履修の組み方に一番苦労したけど、友達の立花がいてくれたからなんとか乗り越えられた。
「1コマ1時間半って聞いてたけど、今日みたいに毎回30分で終わってくれるといいよな」
講義中、立花はずっとあくびをかいていた。
大学は高校と違って自由な生活だ。校則がないから縛られることがない。担任の先生も、決まった教室もないから退屈な日々になる。そのせいで勉強を疎かにしてしまいそうだけど、もう勉強をする必要性もないから単位がとれればいいや。
「あ、CDショップ寄っていい?」
「うん。ついてく」
俺は高校を卒業してすぐに、遠くに引っ越すことになった。ていうか、父さんから出ていけと言われていたから強制だ。
【アイドルに枕営業を強要! アイドルグループ・加藤遥夏と大手芸能事務所・中村社長の息子が密会!】
あの報道のせいで、両親に捨てられた。
あれ以来、芸能界内に俺の顔が出回ってしまい、学校中に俺の噂が広まった。SNSで顔をさらされることはなかったからまだよかった。でも俺は立花以外に信じられる人がいなくなった。
父さんは、大学を卒業して就職するまでは大学に通わせてくれるけど、就職してしまえば俺の面倒を見てくれることはないみたいだ。
もう二度とあの家には戻れない。
「ねぇ、見て! 加藤遥夏が武道館でワンマンライブだって!」
「あー、この日は部活あるんだよね」
「行きたかったなぁ!」
女子高生の声につられて視線を向けると、壁に加藤遥夏のライブ情報が載っていた。順調に仕事をもらえているのはわかるけど、彼女はこの2年で変わってしまった。
”笑わないアイドル”
そんな異名がついてしまった。
「律貴! お待たせ~。ん?」
立花は俺の隣に並んでこのポスターを見た。
「笑わないアイドルになったのは自分のせいだと思ってる?」
「……わからない。でも俺のせいかもしれない」
「違うっしょ。お前、何もしてないじゃん。彼女と幸せな1年記念日を過ごしてただけじゃんか」
立花は、あの報道を信じていない。
俺のことを一番に信じてくれた。
俺の話を最後まで聞いてくれた。
俺は、良い親友をもった。
「ありがとう」
「そういえば、父さんが今日からバイト来てってさ」
「え!? 本当?」
「うん。これで一歩近づいたな!」
俺は大学に入ってから、遥夏に会いに行くためにアイドル事務所のアルバイトに応募しようとした。その時に立花から誘われた。立花の父さんはアイドル事務所の社長で、とてもユニークな人だから安心して応募することができた。面接を受けてから1週間が経っていたから落ちたと思ったけど、よかったぁ。
「俺が紹介してやったんだ。絶対に会いに行ってこいよ」
「ああ。絶対、会いに行くよ」
遥夏のいる事務所とは全然違う事務所でアルバイトをすることになるけど、それでもいい。とりあえず同じ業種で働いていたら会う可能性がある。
その日、俺は立花の父さんが経営するアイドル事務所に向かった。
事務所は大学の近くにある。俺の家もここらへんだからとても立地がいい。一人暮らしを始めてよかった。
「社長室はここ」
立花の案内で社長室に入ると、立花パパ・立花圭が椅子に座って仕事をしていた。俺たちに気づくと急いで立って俺に抱きついてきた。
「ぶっ!」
勢いがよすぎて鼻が潰れるかと思った。
「久しぶりだね! 中村君! 元気にしてた?」
「お、お久しぶりです。とても元気です。圭さんは元気そう、ですね」
「元気だよ~!」
「あの、俺が働いて迷惑ではありませんか?」
「全然? 僕はあの報道、信じてないからさ」
親は信じてくれなかったのに、この人は信じてくれるんだ。
「でも中村君は周りの目線気にしちゃうよね」
「す、少し」
「あ、俺に言い考えある」
立花は鞄の中から何かが入ったビニール袋を取り出した。
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