才能が無いとみなされて国を追放されたが、実はレベル限界が無限だったので頑張って最強になってみた
勝華レイ
一章 島流し編
プロローグ 元王子、奴隷となって島流しされる
「今日かぎり、トラキ一族を王族から除名する」
「貴様ぁ!」
俺――パルタ・トラキは激怒の叫びをあげた。
目の前には、王である父そして家族の死体が散らばっていた。
「パルタ王子……いやパルタ。大声をあげて、みっともないですぞ」
「クラッス! 貴様、この惨状はどういうことだ!? それに、我々を追放とはいったいどういう立場で物を言っているつもりだ!」
「やれやれ。箱入り王子は、どうやらまだ状況が吞み込めてないようだ」
大公のクラッスは、あからさまに俺を見下して馬鹿にした。
クラッスを囲むように人がいる。それは今日まで、父に従っていた人間たちなのにまるでなにも起こってないかのように堂々としている。
俺は想像もしてなかった光景に唖然とするしかなかった。
「もう一度言いましょう。本日の議会で、決まったのですよトラキ一族の王族からの除名が。それに伴い、処刑の実行も」
「ふ、ふざけるな。なにを言っている」
「本来だったらあなたも殺すべきなのですが、唯一、未成年であるあなただけは地位の剥奪と島流しだけで許されました。しかしそれにしても――」
グイッ
玉座から立ち上がったクラッスは、転がっている父の頭を踏みつけた。
「こんな雑魚のような力で、よく今まで国を治められたものですぞ」
「クラッアァァス!」
叫ぶ前には、もう怒りで足が動いていた。
放てる最大の技を、全力でお見舞する。
ピッ
「……指二本で止められただと?」
「やはり【王子】は素晴らしい。こんななんの才能もない貧民以下のゴミにここまでの力を与えるとは」
「わあああ」
そしてなんとそのまま宙に浮かされた。
クラッスは俺を見上げながら会話を続けてくる。
「トラキ一族。ゴミの先祖たちはこの王国を一から築いた偉大な一族と言われていました……しかしその真実は、こんなろくに力も持たないゴミ山だったなんて」
「?」
「あぁ、愚かにも分からないなら教えてさしあげましょう。力というのは
「そうだったのか。だが、それがどうした? 父たちを討っていい理由にはなってないぞ」
「……これでピンとすらこないとは。やはり余の判断は正解だった」
「質問しているのはこっちだ……ひぃっ!」
クラッスの鋭い眼光に見据えられ、俺は萎縮する。
「今すぐ教えてやるわこのゴミ以下が! 貴様らトラキ一族は揃いも揃って才能に欠けてたんだよ! だから職業もレベルもこの王国の中で最も優れているのに余たちに負けたんだ! こんなゴミの中のゴミに従ってられるか!」
クラッスが自ら開示したステータス。それは以前、父に見せてもらったものとは桁が二つも三つも違っていた。
地面に叩きつけられると、兵士たちが駆けつけて俺を拘束する。
「は、離せ! 俺は次の王だ! 貴様らの未来を決める者だ!」
「まだ現実が見えてないようですね。未熟な王子とはいえ反撃されても厄介ですし、今の内に黙らせてあげなさい」
「そ、それはグーマ水晶! なぜこんなところに!?」
「これからは、この余こそが王であるからです」
これから先は、力こそがこの世を統べるのです。
神官が水晶の前で呪文を唱えると、発された光が俺を包みこんだ。
●●●●●●
パルタ・トラキ
職業:【王子】→【奴隷】
レベル:57→1
●●●●●●
「……死ぬ」
島流しにされてから、一週間が経過した。
どこかも分からない孤島に連れてこられ、目隠しを開いた時には浜辺にポツンと独りだけだった。
「ここに来てから今日まで探索して分かったことは、この場所が無人島だということ」
助けを呼ぼうにも、他の島の影も見当たらず、おまけに船一隻すら通らない。
それでも望みは捨てず、なんとか助けとなるものが訪れるまでは、この島で生きていこうと思ったのだが、
(……こんなにも、【奴隷】が大変だとはな)
現在の俺のレベルは10。元の【王子】ならば、魔物狩りでしばらく過ごせてたほどだ。
しかし結局、俺はこの島で一回も食事にありつけていなかった。
奴隷のステータス補正は全職業の中でも最下位。レベル上昇は早い(実際、俺は一日でここまで上げられた)のだが、このレベルに達しても木の上のヤシすらとれない始末だ。
でも、まだそれだけだったら耐えきれた。知識が足らなければ勉強するように、力が足りないのならばそれに相応しい努力をすればいいのだ。
だが、現実は残酷だった。
パルタ・トラキ
LV:10/10
(10/10。この表記が意味するのはカンスト。即ち、俺の限界ということだ)
俺はこれからどれだけ頑張ろうが、もう一生、この島ではなにもできなかった。
諦めて、助けを待ち続けたが結果はちょっと前に振り返った通り、0だ。
……もう終わりだ。
火も点けることもできず、寒い夜を過ごし続けて睡眠すらまともにとれていない。
おそらく今晩、俺は死んで家族の元に逝く。
(そう考えると、逆にこれでよかったのかもしれないな)
この島には人も物もないが、綺麗な星空だけは公平に都と同じよう広がっている。
幼い頃、家族で星座を見て過ごしたのを思い出した。
(王である父はレオ座が好きだった。いかつくて逞しいからだと。母が好きなのはアルトネリ座、姉はヴァルゴ座。俺は――)
赤い輝きの一等星フリーギア。
ここで星座じゃなく、星を挙げるのは自分でもひねくれものだと思う。でも俺は星の中でも異色で大きく光るフリーギアが一番いいのだ。他の星なんていらなかった。
今日のフリーギアはまた一段と強くキラめいている。
こんな夜に死ねるのは、幸せだったのかもな。
(今日は死ぬには、いい日だ。まるで俺を待っているかのように光が大きくなっていく……光が大きくなっていく?)
フリーギアの輝きは増し続ける。
点粒だったのが小石ほどに、小石だったのが掌よりも大きく。月を越えても膨張は続く。そしてやがて、バリィン、と金属が壊れる音が聞こえると分散した。
「お、落ちてくる! ひぃいいいい!」
しかも落下先は、なんとここだった。
聞いたこともない事態に、情けない悲鳴をあげながら身を縮こまらせる。
砲弾が衝突したような巨大な音と揺れが島中に響く。
しばらくして落ち着くと、俺はまず、自分の無事を確認した。
「よ、よかった。助かった……ん? なんだあれは?」
顔を上げると、近くに今までなかった箱が出現していた。
おそらく落下物のひとつなのだろうが、それにしてもぶつからなかったことに安心でホッとする。
「……食べ物とか入ってないかな?」
この時の俺は、死の寸前な状態と異常状態のせいで冷静ではなかった。
ともかく飢えを満たすため、警戒心も持たずに一目散に箱に手を付けた。
ガチャリ
幸い、鍵のようなものはなく、簡単に開いた。中にあったものは――
「黄金……リンゴ」
ゴクリッ
一瞬、食べ物の色でないことに躊躇するが、すぐさま俺はその果物にかぶりついた。
ガブガブガブ
この時の俺の頭の中にあったのは、ただひたすら生きるために飢えを満たしたいという本能と一つの思い出話だった。
(父さんたちは無力だ……だけど、それでいいんだ。力なんてものはないほうがいい。おまえたちのためにも、できることならこの血に封印されたものが二度と目覚めないでおくれることを――)
空洞だった腹の中が満たされていく。
して、その味は――
「うーん。普通かな」
《才能が開花しました》
《レベル制限が解除されました》
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