第4話 悪意の断罪
――――
「んっん~......!」
カーテンから差し込む光を顔に浴びて、体は私を覚醒へと促していく。
それで目が覚めると寝ぼけ眼そのままに上体を起こし、より覚醒を促すように大きく伸びをした。
初めまして、私の名前は【聖 朱音】です。
この世界では「勇者」として活動しています。
役職と肩書ともに。
最初は自分がこんな世界に来るとは予想だにしていなくて戸惑う部分も多く、ましてや自分がこの世界でたった一人の人類の希望の象徴である「勇者」になるなんて思ってもいなかったので、一か月経った今でも実はずっと夢の中じゃないかなとか思っていたり。
特に魔法なんて使った日は自分が小さい頃に夢見た魔法少女になれたなんて少し喜んだりもした。
でも、今ではこれもしっかり現実ということを理解して生活している。
なぜならこの世界でしっかりと痛みを感じ、血を流したから。
でも、周りはそれを経験してもなおどこかゲーム感覚でいるみたいで。
まぁ、それもステータスという自分の今の能力値が描かれた冒険者カードが原因なんだけど。
ともかく、今の私は勇者として皆を引っ張っていく立場で、さらにはこの国ひいては世界を掌握しようとしている魔王という存在に勝つために修行中の身......ん? なんだか廊下が騒がしい。どうしたんだろ?
私はそそくさといつもの装備に着替えて部屋を出る。
すると、ちょうど私に声をかけてきた人がいた。
「朱音か!? 丁度いい、実は大変なことが起こったんだ!」
「わぁっ!?」
高身長で熱血思考なこの男の子の名前は【
通称けんちゃん。
私とりっちゃんとの幼馴染で、私が好意を寄せている人。
でも、今はなんだか切羽詰まったような顔をしてる。
私の肩を掴んでぐらぐらと揺らしてくる。
急に肩掴まれるのはドキッとするからやめて欲しい。
私はけんちゃんに落ち着くように促すと彼は「そうだな」と頷いてくれてそのまま一回深呼吸した。
そして、私にその大変なことを告げる。
「俺達の仲間から脱走者が出た」
「え?」
それはあまりにも寝耳に水の言葉であった。
私達の仲間というとこの世界に一緒にやってきたクラスの誰かってことだよね?
でも、なんで急に......。
「それで朝っぱらだが今全員に召集がかかってる。
場所は初めてこの国に来た時にパーティーをやった広間だ」
「わかった。ちなみに、それって誰が逃げたのかわかるの?」
「いや、そこまでは。
だが、その広間に集まれば必然的に誰がいないかわかる。
俺は律の部屋に向かってみる。
あいつ、一度熟睡すると震度3ぐらいの地震があっても起きないからな」
けんちゃんはそれだけ告げるとそのまま廊下を走り去っていく。
そして、私は妙な胸騒ぎがしながら指定された広間に向かうことにした。
広間に向かうとまばらだけどクラスの皆が集まっていた。
皆、その話題について持ちきりで反応的にはあまり良くない気持ちを抱えてる人が多い。
しばらくして、この広間に私達を召喚した教皇様、それから騎士の皆さんも集まってくる。
これがどれだけ重い話題なのかを察して皆の口数が少しずつ減っていった。
私は思わず周囲を見渡した。
なぜなら、未だにりっちゃんを呼びに行ったけんちゃんが戻って来てないから。
そして、最後に三人組の不良グループとともに深刻そうな顔をしたけんちゃんが戻ってきた。
そこにりっちゃんの姿はない......そんなまさか!
けんちゃんが私の姿を見つけて速足で寄ってくる。
そして、最後の希望を抱くように質問してくる。
「朱音! 律は!?」
「......」
言えなかった。けんちゃんがりっちゃんとまるで兄弟のように仲良しだってことを知ってるから。
でも、たとえ言わなくても、私の反応は言ってるも同然だった。
「クソッ......なんでなんだよっ!」
そんな私を見てけんちゃんがわからないはずがない。
だって、私達は幼馴染だから。
そして、けんちゃんは悔しそうな顔で拳を握りながら静かに怒った。
その時、円形状に集まった私達の話し合いは一人の男の声によって議題は始まる。
「でぇ? 一体これはなんの集まりだぁ? こんな朝っぱらからよぉ」
全体的にツンツンとさせた染めた金髪に耳のふちに付けたピアス、人殺しの経験がありそうな眼つきをした男は不良グループのリーダー的存在である【
「全く、こっちは眠いんだよ」
「はぁ~、嫌になるね~。しかもこんな重たい空気ってただ事じゃないじゃん」
槍弥君に続いてかったるそうにあくびをしたのはボウズで四角い顔の【北谷 重太】。
そして、どこか浮ついた雰囲気を出す茶髪の【
すると、その言葉に対しての説明をするように優し気な顔をした教皇様が話していく。
「実は昨日、私の部下が城の裏門が不自然に開いていたことに気付いたのです。
そして、そこには複数の足跡が大森林バロンへと続いていくのわかりました」
大森林バロンって確かこの城の裏から少し離れたところにある森......え、待って。
「複数の足跡があったんですか?」
「はい。そして、その脱走した人物というのがこの場にいないナカイ=リツさん、ケンモチ=コウタさん、シセイ=レンさん、ハナマチ=カオルさんの四名になります」
やっぱりりっちゃんが脱走者の一人に......!?
でも、どうしてそんな......。
「なんで一言も相談してくれなかったんだよ......」
私の気持ちを代弁するように悔しそうな顔で告げた。
きっとけんちゃんは私以上に苦しんでるはず。
小学校から高校までもはや互いの知らないことなんてないみたいな存在だったからこそ。
場の空気は重くなる。
役職的に弱い部類に入る人は落胆したような表情を浮かべ、逆に強い部類の人はまるで責任逃れするような行動に苛立ちを見せていた。
そんな中、三人だけが鼻で笑うように告げた。
「ハッ、随分と深刻そうな話をするかと思えばそんな小さいことかよ」
「ぶっちゃけ~、アイツらなんていてもいなくても変わらないし?」
「俺、二度寝するわ」
「んだとお前ら!」
発言した不良グループ三人の言葉にけんちゃんが触発されて怒鳴った。
しかし、槍弥君はバカにするような顔で答える。
「そんなにキレんなよ。
だって、この脱走者のメンバーって糸で裁縫ぐらいしか出来ないクールぶってるかっこつけカスに植物ばっか愛でてやがるチビ、役職が肉壁のくせしてビビッて前に出れねぇデブ、仕舞にはこの世界の一般人と変わらねぇザコとだぜ?
気にするだけ時間の無駄」
「もういっぺん言ってみろ! ぶん殴ってやるからさ!」
けんちゃんが怒鳴り込んで槍弥君に迫っていく。
しかし、その行動は途中で取り巻きの北谷君と化叉君によって止められた。
だけど、けんちゃんの怒りは冷めやらないのかさらに怒鳴った。
「邪魔すんな! 俺とこの野郎とのケンカだ!」
「お前はそう思っても俺達にはそうはいかない」
「そうそう。それに俺ってば聞いちゃったんだよね~。その四人の黒い噂をさ」
「黒い......噂?」
その言葉にけんちゃんは動きを止めた。
それは私を含めた皆も同じで僅かにざわめきが大きくなっていく。
そんな反応を楽しむように化叉君はペラペラとしゃべり始めた。
「皆かどうかは知らないけどさ~、最近聞いたことあるんじゃない?
この国に魔族のものと思わしき
どうやらそれが関係してるみたいでね」
その言葉に所々で「知ってる」とか「聞いたことある」という会話が飛び交った。
そして、その周囲の反応にけんちゃんは驚きながら化叉君に聞く。
「まさかその件が四人に関係してるってことか?」
「さあね~。でも、火のない所に煙は立たないとも言うでしょ?
その答えは恐らく教皇様が持ってるでしょうね」
そう言って化叉君は横側に立つ教皇様に話を振った。
それによって、全員の視線が教皇様に集まっていく。
けんちゃんの目はまるで祈るようであった。そして、それは私も同じ。
りっちゃんをずっと昔から見てきたんだ。
そんなことをする人じゃないって知っている。
しかし、現実は非常であった。
「残念ながら、脱走者四人の部屋から魔族の角の破片を回収しました。
魔族は相手のことをよっぽど信用してなければ角を渡すなんてことはしません。
ましてや人間相手になんて。
よって、私達は彼ら四人を魔族側のスパイと断定し、彼らに指名手配をかけました」
そ、そんな......!
「私達の敵となった今、彼らを捕まえるのに生死の問いはありません。
仮に生かしたまま捕まえても
「嘘だ......律が......そんなこと......」
けんちゃんが膝から崩れ落ちる。
そして、放心した様子で涙を流していた。
また、その放心したのは周りの皆も同じで、事の大きさに頭の理解が追い付いていないという感じであった。
教皇様は皆の様子を察したのか、これ以上の話はせずこの場で解散した。
最初に帰っていった不良グループを皮切りに皆が少しずつ広間を去っていく。
最後に残ったのは私とけんちゃんだけ。
けんちゃんの辛そうな様子に近寄ろうとすると彼は立ち上がって告げた。
「今は......一人にしてくれ」
そして、重たい足取りで広間を出ていく。
その後ろ姿に何もできなかった悔しさとりっちゃんの裏切りで涙が溢れ、しばらくの間その場で泣きじゃくった。
*****
少しして、私が重たい足取りで自室に向かおうとすると廊下からバカみたいにうるさい不良グループの声が聞こえた。
大方誰もいないのをいいことにバカみたいな話をしてるんだろう。
そう思いながら遠回りして部屋に戻ろうとすると槍弥君が気になることを言った。
「にしても、あいつら全員騙されてバカみたいだったな」
「あぁ、あれは傑作だったな。どうやって笑いこらえようか苦労した」
「俺も。だから、基本眠いことにして言葉数減らしてた」
え? 今の話どういうこと? 「全員騙されて」って?
その真相を確かめるように壁に張り付くと聞き耳だけを立てた。
「にしても、あの聖女って女もバカだな。
自分が遠出で居ないからって『四人が逃げ出したという事実を隠蔽するように皆に伝えて欲しい』と頼んだ相手が兵士に変装した
「つーか、俺達も魔族のブツのやり取りがあそこまで噂に広がってて危なかったからマジラッキーだったわ~」
そんな......!
これまでの話は全部彼らのでっち上げってことだったの?
それじゃあ、りっちゃん達は――――
「なぁ、アイツらどうなると思う?」
「さあな、どうでもいいだろ。
ま、少なからず、魔人・亜族ぶっ殺すマンの騎士が向かったから繋がりあったアイツらは死ぬだろ。ザコだしな」
私はすぐさま走り出した。
この事実を早くけんちゃんに伝えないと!
どうか神様、りっちゃんを救ってください!
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