この男の名は『性欲狂』~欲望あふれるこの街でのカレコレ~

常闇の霊夜

この世界は愛であふれている。


宮邦県、仙栃市、七ヶ山町。この町にはある噂が広まっていた。それはメチャクチャ強い奴がいると言う噂。だが帰ってきた奴は口をそろえてこう言うのである。


『そんな奴はいなかったはずだ』


と。


そして時代は3081年、ある男がその問題の町に向かった。男の名は『先兵センペイホマレ』。自らを最強だと思っている男であった。そして町に来ると、潮風と無駄に綺麗な空気が彼を出迎えた。


「サガホシクルイ……それが噂の人間の名前だったか」


鬱陶しいように潮風を払った誉は、こんな辺鄙な町までやってきて、サガホシクルイなる最強の男を倒し自分こそが最強であると示そうとしていたのである。誉はそのクルイを求めて町中を探索していた。あるけどあるけど、見えるのはなぜか山ではなく海。


「しかし、名前が分かっているのになぜ誰も戦おうとしないのだ?」


浜辺を歩きつつ、街の地図を見る誉。そんな彼にはある疑問があった。クルイと言う男は、名前も居場所も知られているのに、実際に行った者は誰も見ていないと言うのだ。流石に隠れていればそう言う事もあるのかもしれない。


しかし誉には、クルイと言う男がなぜ見つからないのかと言う理由に、ある一つの結論を出した。


「恐らく洗脳か情報改ざんの能力でも持っているのだろう」


誉が戦った相手にも、そう言う能力を持っている相手がいた。その全てをぶちのめした誉は、故にクルイに挑もうとしていた。その程度なら自分には効かんと言うように。


そう決定付け、誉は探しながら、適当な飯を食いつつ浜辺を歩いていた。


「だが問題はどこにいるかだ」


「おいクルイ!早く帰ろうぜー!」


「……何?おいそこのお前!」


すると、目の前から走ってくる学生が、不意にクルイと言う名前を言ったことを誉は聞き逃さなかった。走り抜けようとする学生を即座に捕まえると、クルイについて聞こうとする誉。


「ちょっ、ちょっと?!なんじゃい急に!」


「今お前はクルイと言う名前を呼んだな?」


「え?まぁそうだけど」


誉の目の前の男は、なぜか顔に水色のラインが通っていたが、特に気にする事でもないと揺さぶりながら質問を続ける。揺さぶりが激しくなる前に、その手を触手が止める。


「俺に用があるんだろ?」


目の間に現れた男を、誉は一目見て確信した。こいつこそがクルイと呼ばれる男であると。一見すればただの学生だろう。ピンク色の髪に、どす黒いブラッドピンク色である外見を除けば。


誉は揺さぶっていた学生を離すと、即座に殴りかかる。その顔は、まるで十年ぶりに出会う彼女に再開するような、凄まじい笑みであった。狂はその拳を難なく止め、砂浜へ投げつける。


「探したぞ、クルイ!」


「そうか。俺はお前の事なんか探してねぇけどな」


かなり不機嫌な狂だが、誉はメチャクチャ楽しそうである。そして誉は自分の能力を見せびらかす。背中から剣を持った人間の形をした、謎のビジョンが出現した。そしてそのビジョンは狂を攻撃しようとする。


「貴様を倒し、最強の名をもらい受けよう!」


そして狂に剣が届くと言う瞬間、誉の体は宙に浮く。狂は既に誉の下に移動しており、体をガッチリと掴みそのまま地面にたたきつける。


「成程、最強と言うだけあるな!」


しかしその攻撃は、先程のビジョンが受け止める事で防ぐ。そして誉はビジョンで狂の頭を掴み上げると、海に向かって投げる。何度か海の上でバウンドした後、狂は海の上に立つ。


「……ハァ、まさかこんな奴に能力を使うハメになるとは」


「何?能力を使わないでそれか!」


「あぁ、だが俺が能力を発動すると言う事は、もうお前に勝ち目はない」


狂が一瞬動いたと思った瞬間、誉の腹部に鞭で叩かれたような跡が残る。膝をつく誉だが、いまだ戦意は失っていないようだ。


「な、何をした!?」


「もうお前は何も考えるな」


だが、狂は無慈悲に二回目の攻撃を放つ。今度は顔に跡が付き、勢いよく後ろに吹っ飛ぶ。そして狂は誉の元に来ると、触手を耳から脳へと入れる。


「悪いが忘れてくれ」


「ウゲッオッゴッ!?」


そして何度か体が跳ねた後、何事もなかったように誉は立ち上がった。


「で、どうだ?」


「あ、あぁ……いや、クルイと言う奴を探しに来たんだが。何か知らないか?」


「俺は知らん。さっさと帰ったらどうだ」


そして狂がそう言うと、誉は首をかしげながら帰っていくのであった。そしてそんな狂に話しかける先程の学生。


「まーた変な奴が来たなぁ狂」


「そうだな。そろそろ減ってくれるといいのだがな、『アダ』」


「そうだけど……なんで今俺の名前言った?」


アダと呼ばれた男は、さっさと帰ろうと言い、狂もまた家に帰ろうとする。


そしてその浜には、何事もなかったように痕跡は消え、誉はクルイについて聞かれればこういうだろう。


『クルイって奴は見つけられなかった』


と。

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