第33話 究極の能力

「はぁ、はぁ…。うぅ…」


 エルが過去のトラウマを思い出してしまったのか、その場に蹲ってしまう。

 エルの訴えかける表情を見て、放っては置けず話を聞いたら今の話をされた。

 相棒を殺される、それに近いとは言えないだろうが俺もアベリーを誘拐されている。

 相棒が殺された俺にも気持ちは少しは理解出来るだろうか。


「落ち着いて。水だ」


 魔法鞄マジックバックから水を取り出して、エルに与える。

 今の話が相当心身に来ているのか、もう一歩も動けそうにない。

 仕方ない、休憩をしよう。

 アベリー、あともう少しだけ待っていてくれ。


 ―――


 数時間後、落ち着いたのかエルはいつもの調子に戻っていた。

 だが、顔色は悪いので明るく振舞っているだけなのであろう。


「すまない。エルがトラウマを抱えていることは分かっているが、俺も時間が無い。だけど、エルの願いは聞きたい」

「…なにそれ、なんかおかしくない?」

「徹底的にやるのが俺のやり方だ。エルを徹底的に救う」

「…ありがとう。ゆうきに言わせたみたいであれだけど、お願いがあるの。あの時のオークを殺して欲しい」


 あの時の…。

 話の中に出てきた、二人の前に立ちはだかったオークのことか。

 だが、オークとは短命な種族であり、数年前のオークが存命しているとは考えづらい。


「生きているのか?」

「えぇ。私はアイシャに飛ばされたあと、王都ピーコックのギルドに依頼として、オークの討伐をお願いした。そして、B階級冒険者達数人が集まって討伐隊及びアイシャの死体を持ち帰ることを任務に出発した。けど、その冒険者達はいつまで経っても変えることはなかった。そこで、これを重く見たピーコックの王はA階級冒険者一名を派遣し、探索させた。そこで、見つけたのはとてつもなく巨大に膨れ上がった毒素を吐くオークであった。その近くには多くの骨の残骸があり、その中には人間の骨が何個かあったらしい。だから、恐らくアイシャを殺したオークは未だに生きて、死の沼地を成長させているのだと思う」

「なに?死の沼地はここ最近できたものなのか?」

「えぇ。かなり有名になってたけど、そういうのには疎いのね」


 地図を広げて裏を見てみると、改訂版になっており、最近の日付が記されていた。

 死の沼地はオークが原因で発生した魔物の障害だった訳か。


「…死の沼地の元凶である特殊な個体のオークを討伐する、か」


 現状、放置されているということは打つ手がないからとも言える。

 ゴブリンジェネラルの時にも感じたが、俺のスキルは万能ではあるが、どうしても対応出来ないことが幾つかある。

 例えば俺の魂の付与が間に合わないほどに体を損傷して即死してしまえば、それで終わりだし、悪魔のように心臓がいくつもある可能性もある。

 王都のギルドでさえ対応出来ないオークを倒すことが出来るのか?


「…違うな、倒さなければいけない」


 そのオークを倒すことはエルを救うことにも繋がるし、アベリーを取り戻すのにも繋がる。


 やるしかない。


「やるよ、討伐。だけど、その代わり解毒作用のあるポーションの製作を任せたい」

「そんなことなら任せて欲しい!ポーションなら幾らでも作れるよ。私はどうしても一人で戦うことが多かったから、どんな場面にも対応出来るように無駄に知識だけは増えて行ったの」

「ありがとう」


 さて、何をやるにもまずは毒耐性を上昇させる魔法かポーションを作らなければ話にならない。

 時刻はちょうど昼を回ったところなので、出来れば最前の準備を整えて明日には出発したいものだ。


 ―――


「…やはり分からない。なぜ記憶が半年分しか残っていないのか」


 分からない、どんな書物や文献、知識を探ったとてそんな不可思議な事象は今まで出会ったことがないし、聞いたことも無い。


「やはり、考えうる可能性は一つか」


 分からない、と言いつつも私は一つの結論に辿り着いていた。

 だが、それは私にとって認めたくないものである。


「アルティメットスキル…、やはりこの世に存在するのか」


 ユニークスキルとはこの世界において絶対の力を持つスキルだが、アルティメットスキルには敵わない。

 ユニークスキルはユニークスキルでしか対応出来ず、アルティメットスキルはアルティメットスキルでしか対応出来ない。

 つまり、私のユニークスキルで見破れない過去があるということは間接的にアルティメットスキルがこの世に存在していることを仄めかしている。


「まさに伝説上のスキルであり、かつて勇者や魔王が使えるとされていた究極の能力。あぁ、尚更この娘の過去を覗いてみたい。何があったのかを隅々まで知り尽くしたい」


 だが、そう思ったところでアルティメットスキルにはユニークスキルでは到底敵わない。


「柄にもなく、“パワーアップ”というものをしてみるか」


 私は書物を取り出し、スキルの進化に関する文をもう一度読み返していく。


「やはり、スキルとは命の危険が眼前に迫った時にごく稀に主の命を繋ごうと進化する、か。死ぬか生きるかの状況で、ごく稀という非常に不安的で不確実性な要素でアルティメットスキルに期待するのはナンセンスだ。やはり、これ以外の進化の方法を探る方が良さそうだ」


 強欲はただ、目の前の本を貪るように読み始める。

 その名の通りに、知識を己のものとするために彼は静かな空間で書物に耽けるのだった。

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