先輩って、処女なんですか?

味噌わさび

第1話 先輩と質問

「……は?」


 先輩が信じられないという顔で俺のことを見る。


「……えっと、今なんて言ったの?」


「先輩って、処女なんですか、と質問しました」


 俺がそう言うと、それでも、先輩は目を丸くして、俺のことを見ている。


 しばらく沈黙が流れたあとで、先輩は小さくため息をつく。


「……えっと。後輩君。その……自分が質問していることの意味、わかっているのよね?」


「えぇ。わかっていますよ」


「……確認するけど、私に向かって処女か? って、聞いたのよね?」


「はい。その通りです」


 先輩は俺のことを見ている。俺も先輩の方を見返していた。


 先輩はしばらく困惑したようにしたあとで、読んでいた本を閉じる。


「その……後輩君。そういうことを女の子に聞くのって、いわゆる、その……セクハラに当たると思うのだけれど」


「……まぁ、そうかもしれませんね」


「え……ちょ、ちょっと待って。わかってやっているの? つまり……後輩君は私に対するセクハラだということを理解していて、その……今の質問をしたの?」


 先輩は益々信じられないという顔で俺に聞いてくる。無論、俺はわかってその質問をした。


「はい。しました」


 だからこそ、はっきりとそう言った。先輩はさらに困った顔で俺を見ている。


「……ごめんなさい。その……はっきり言うと困惑しているわ。アナタは……そういうことを言うタイプの人間じゃないと思っていたから」


「あぁ……えっと、それはつまり、幻滅した、ってことですか?」


「……そうね。少し、幻滅しているわ。でも、それ以上に驚いているって気持ちの方が強いかしら」


 先輩は動揺しているようだった。俺としても、そこまで先輩が動揺するとは思わなかった。


 はっきり言うと、怒られると思った。そんなことを聞けば怒られる……俺だってそれくらいわかっていた。


 だが、聞いてしまった。そして、その結果としては……先輩は怒るのではなく、酷く動揺しているのだった。


 と、いきなり、先輩は立ち上がった。


「その……悪いのだけれど、今日は帰るわ」


「え。帰っちゃうんですか?」


「えぇ……もしかすると、明日から、もうこの部屋には来ないかもしれないわね……」


 少し、俺に威嚇するようにそう言う先輩。しかし、なぜか俺はそんなことはないと確信していた。


「あー……そうですか。そうなったら、残念です」


「……ねぇ、後輩君。その……今のは冗談だったって言ってくれないかしら?」


 先輩は苦笑いしながらそう言う。


「いえ。冗談ではないです。俺は真面目に聞きました」


「真面目に……そう。分かったわ」


 先輩はやはり動揺したままで、部屋から出ていってしまった。


 部屋に一人残されても……不思議と罪悪感は沸かなかった。


 むしろ、なんというか……先輩の面白い反応が見れて俺としては少し嬉しかったのであった。

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