STAR SPiNE〈５分読了版〉

第1話－② 入場する男

ほどなくして、競技場（きょうぎじょう）のグラウンドに一人（ひとり）の男が入場（にゅうじょう）する。

男は胡粉色（ごふんいろ）の軍服（ぐんぷく）を身（み）にまとい悠揚（ゆうよう）と歩（ある）いている。

空気（くうき）を読（よ）んだ観客（かんきゃく）がまばらに拍手（はくしゅ）を送（おく）る。

しかし、男は手を振（ふ）って応（おう）じることはなく

入場曲（にゅうじょうきょく）さえも鳴（な）らず－

異様（いよう）な空気（くうき）をはらむ男に観客（かんきゃく）は違和感（いわかん）を抱（いだ）き、

「あの男は誰（だれ）だ？」とだんだん競技場内（きょうぎじょうない）がざわつき始（はじ）めた。

ただ、やはり男の目的（もくてき）はその演台（えんだい）であった。

男は演台（えんだい）にのぼり、８本ものマイクロフォンの前に立つ。

８本のうち、

４本はここ真人領域（しんじんりょういき）

３本は有翼領域（ゆうよくりょういき）

残（のこ）り１本は巨人領域（きょじんりょういき）に繋（つな）がっている。

－ 定刻（ていこく）だ。

競技場内（きょうぎじょう）の観客（かんきゃく）も中継映像（ちゅうけいえいぞう）を見ているその他（ほか）すべての人が、

　　　　　軍服（ぐんぷく）の男に注目（ちゅうもく）する。

　　　　　　　　　　　☆

　「…われわれ三種族（さんしゅぞく）は勝利（しょうり）した…」

男は笑（わら）った。

　「宿敵（しゅくてき）、アストラに」

　（っえ？）

耳（みみ）を疑（うたが）った。

いや、きっと誰（だれ）もがそうだ。

今朝（けさ）一番（いちばん）の情報誌（じょうほうし）には

『式典前夜（しきてんぜんや）！有翼（ゆうよく）シェリーアリアに星（ほし）の子（こ）多数（たすう）出没（しゅつぼつ）！アストラ残党（ざんとう）か！？』といった見出（みだ）しが一面（いちめん）に掲（かか）げられていたはずだ。

そもそも「休戦式典（きゅうせんしきてん）」とは三領域（さんりょういき）連合会（れんごうかい）が主催（しゅさい）する式典である。

三領域連合会（さんりょういきれんごうかい）とは、

三領域（巨人（きょじん）・有翼（ゆうよく）・真人（しんじん））間（かん）を仕切（しき）る巨大（きょだい）機関（きかん）であるが、絶大（ぜつだい）な影響力（えいきょうりょく）を持（も）つに至（いた）った背景（はいけい）に、

犯罪集団（はんざいしゅうだん）「アストラ」の存在（そんざい）がある。

４回目の領域間（りょういきかん）大戦中（たいせんちゅう）に乱入（らんにゅう）してきたアストラの討伐（とうばつ）を担（にな）ったのが、当時（とうじ）、形骸化（けいがいか）していた三領域連合会（さんりょういきれんごうかい）だった。

三領域連合会はアストラに対抗（たいこう）し、

領域（りょういき）連合軍（れんごうぐん）を設立（せつりつ）。

結果（けっか）、その領域（りょういき）連合軍（れんごうぐん）の活躍（かつやく）により、三領域全域（ぜんいき）から多大（ただい）な支持（しじ）を得（え）て、最終的（さいしゅうてき）に休戦（きゅうせん）宣言（せんげん）を発令（はつれい）することにも成功（せいこう）。

しかし肝心（かんじん）なアストラ討伐（とうばつ）は達成（たっせい）できなかった。

休戦宣言（きゅうせんせんげん）から９年目の今でも昨夜（さくや）の事件（じけん）のような無差別（むさべつ）テロがたびたび発生（はっせい）している。

…

（こいつは何（なに）を言（い）っているんだ…？）

全世界（ぜんせかい）がそう思（おも）うは当然（とうぜん）である。