第27話『魔法発動』前半アウレリオ、後半ユリアーゼ視点
「くそっ、いったいなんだってんだ!」
俺、アウレリオは討伐組の指揮を取りながら例年通り希釈した魔寄せの薬を使用して近寄ってきた弱い魔物を中心にして狩っていた。
今年は同じ討伐組に婚約者のグラシアがいるため少しでもカッコイイと思ってもらえるように気合を入れていたのも事実だった。
しかし今年の魔物が何かおかしい、突然狂ったように森を一直線に走りはじめた魔物を必死に追いかけていた。
魔寄せの薬に見向きもせずに駆けていく姿は異様で何か良くないことが起きているに違いない。
「アウレリオ、なにがあった!?」
違う班の討伐組の男子生徒が馬で駆け寄ってくる。
「魔物がおかしい! それに魔物達が向かった先は本部拠点がある方角だ!」
「直ぐに戻ろう!」
そう話していた直後、俺の後ろを馬で追走していた生徒が地面を突き破るようにして現れた巨大なミミズに馬ごと地面の中へと引きずり込まれた。
助けようにも土竜は地面の下を他の魔物を追う様に進んでいく。
「くそっ、なんでこんなところに土竜がいやがる!?」
すぐさま腰に下げていた発煙弾を空へ向かって、打ち出した。
赤い煙が立ち上がるとそれを確認した他の討伐組が発煙弾を打ち上げ始める。
緊急事態発生を報せる発煙弾を確認した場合討伐を直ちに中止し本部へ帰還する事になっていた。
「他にも強い魔物が出現している可能性が高い、周囲への警戒を怠るな!」
どれほど走っただろうか、鬱蒼とした森が地面に光が入る程に管理された区画に入ると、採集組が突然森から現れた大量の魔物に混乱に陥っていた。
魔物が足元を走っていくせいで上手く逃げられなかったのか女子生徒が二人取り残されてしまっている。
襲ってくる魔物から逃れようと採集用の小さなナイフを振り回す女子生徒と、対象的に魔物が避けていく木の陰に隠れている女子生徒だ。
「早く逃げろ!」
俺の声に反応しこちらを振り返ったことでナイフを振り回していたのがフローラル・メティア侯爵令嬢だとわかる。
いつも隙なく整えられている髪は無惨に絡まりほつれボサボサになってしまっている。
「私を助けなさい!」
こちらへと助けを求めるように広げられた手をとる前に先行していた土竜がその凶悪な牙を広げて突き上げるように地面ごとフローラル・メティア侯爵令嬢を呑み込んでしまった。
ボリバリと血肉や骨を噛み砕く咀嚼音とムワッとあたりに血の匂いが充満する。
土竜は他の生徒には目もくれず拠点とは違う方向へと進み始めた。
「大丈夫ですか!?」
木の陰に隠れるようにして泣いていた女子生徒へ手を伸ばすと、アンジェリーナ・クロウ公爵令嬢がこちらへと懇願してくる。
「お願いします、ユリアーゼ様を助けて!!魔寄せの薬の原液を被ったユリアーゼ様が私達を守るためにあちらへ走っていかれました!」
魔寄せの原液と聞いた瞬間このありえない現状がなぜ引き起こされたのか理解できた気がした。
「事態を把握したレオナルド殿下が先行しています!」
「なんだと!?」
レオナルド殿下は強い、レオンハルト殿下と違い学園で行われる戦闘訓練や魔術、武術の大会に一切出てこないため忘れられがちだが、それはレオナルド殿下の相手をできる生徒が居ないだけだ。
しかし、いくら強くてもいち女子生徒を救うために王位継承第一位が動くなどありえないのだ。
「討伐組の新入生は本部へ戻り生徒を守りながら王都へ向かえ、すぐに煙弾を確認した騎士団が応援にきてくれるはずだ。上級生はレオナルド殿下の援護に向かう!」
「はい!!」
無事にいてくれ……
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一体どれだけ走ってきただろう……アンジェリーナ様とレオナルド殿下は無事だろうか?
咄嗟のこととはいえ、フローラル様の持っていたガラス瓶は回収できたからあの場に原液を被ったのは私だけだと思う。
もしフローラル様が被っていたとしても少量のはずだし、これだけの濃い匂いがする私が居るのだからもし本部近くへ来てもこちらへと誘引出来ていることを願うしかない。
ろくに乗馬なんてしたことがない私が既に力の入らない身体でこうして逃げ続けられているのも両腕に巻き付けた手綱のおかげだし、前後左右から襲ってくる魔物から逃れられているのはこの馬のおかげだ。
ただそれも……長くは持たないだろうな……
既に私の体力は限界ギリギリだ。
そして終わりは突然やってきた、逃げ疲れて速度が落ちた馬の足元から円形状に鋭い牙が生えた巨大なミミズが地面を喰い破るようにして馬の前足に食いついた。
「きぁぁぁあ!」
馬体から前のめりで投げ出され足元でガチガチと馬を食べていく巨大なミミズに恐怖する。
逃げたくても手綱が腕に巻き付いていて逃げられない。
あぁ、これで私は死ぬのかな?
神様に無理を言ってこの世界に転生させてもらった結果がこれか……
走馬灯のように勝っちゃんとレオナルド殿下の姿が閉じた瞳の奥で次々と思い出される。
「そのまま動くな!」
あぁ、とうとう幻聴まで聞こえるようになったのかと思った瞬間、身体が空中に投げ出された。
「えっ、キャァァア!」
すぐにドサリと衝撃を感じてなにかに抱きとめられたことに気が付いて恐る恐る目を開けると剣を持ったレオナルド殿下の精悍な顔が目に映る。
油断なく巨大なミミズを睨みすえる視線の鋭さに胸が高鳴るのが止められない。
「今のうちに逃げるぞ」
馬を貪ることに夢中な巨大ネズミから距離を取りレオナルド殿下が私を肩に担ぎ上げるようにして走り出す。
「あのっ、助けていただきありがとうございました」
「無事で良かった、しかし無茶をしすぎだ」
走りながら指笛を鳴らせば、どこからともなく黒毛の馬が走ってきた。
レオナルド殿下はそのまま私を馬の上に押し上げると慣れた動作でひらりと私の背中側の馬上へ上がる。
「しっかり捕まっていろ! ハッ!」
「えっ!? キャッ!?」
すぐに走り出してしまった為バランスを崩しかけて私を間に挟むように手綱を握る腕に縋った。
「想像以上に魔寄せの薬の効果が強いな、たしかこの近くに湖があったはずだからそこで薬を落とそう」
馬上の激しい揺れに声を出せば舌を噛みそうなので必死に頷く。
先程馬を食い漁っていた巨大ネズミが動き出したのだろう、背後の森がざわめき出した。
襲ってくる小さな魔物を斬り伏せながら獣道を駆け抜ける。
「あっ、ありました湖です!」
木々を抜けた先にあった湖にホッと安堵の息を吐く。
「残念ながらそう簡単にはいかないかな」
そう湖のほとりに先回りしたのだろう巨大ミミズが待ち構えていた……
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