第21話『連行』レオナルド視点


「レオナルド兄上! こちらにユリアーゼ嬢は来ていますか!?」

 

 夕暮れに染まる生徒会室で学園で行われる予定の園外学習の打ち合わせ会議を行い、それに伴う事務処理を行っていた所にレオンハルトが飛び込んできた。


「いや、来ていないがユリアーゼ嬢がどうかしたのか?」


 本来ならば既に授業も終わり、それぞれ学生寮へ戻っている筈の時間だ。


 いつもなら俺も帰宅し夕食を食べていてもおかしくない時間だ。


「それが女子寮へ戻ってきていないようなんだ、ユリアーゼ嬢の同室の生徒からアンジェに連絡が入ったらしくで私に連絡が来た」


「この通り仕事で遅くなったから俺の部屋にまだいるんじゃないか?」


「いや、それは確認してきた。 守衛所で確認したが午後からユリアーゼ嬢が入寮した記録はなかったし、部屋は施錠されたままだ」


 ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、生徒会室から廊下へ出る。


 ユリアーゼ嬢を侍女見習いにしたのは他国の密偵の可能性を考慮して監視するためだった。


 しかし初日に寝起きの俺の寝室で、寝起きに暗殺者と勘違いして誤って殺しかけてからは寝室へ入ることもなかったし、影と呼ばれる暗部、王族を守る役割を持つ者たちに留守中の俺の部屋や女子寮以外でのユリアーゼ嬢を見張らせていたがとくに怪しい行動はみられていない。


 怪しいところがないからと、ユリアーゼ嬢へ着けていた監視を外した途端これだ。


「最後にユリアーゼを確認したのはどこだ?」


「影たちの中で誰か見ていないのか?」


「申し訳御座いません、大至急捜索いたします」


 黒装束に身を包んだ一人が窓から飛び出していく。


「無事でいてくれよ……」


 取り敢えず男子寮までの道のりを探してみよう、なにか手がかりがあるかもしれない。


「レオンハルト、もう一度アンジェリーナ嬢に協力いただき女子寮周辺の捜索をたのむ、だがもう夜が深まるから無理だけはするな!」


「わかりました!」


 パタパタと走り去っていくレオンハルトを見送って校舎を離れる。 


 クソッ、こうなる可能性くらい予測できだだろうが!


 ユリアーゼ嬢が他の貴族籍の令嬢から嫌がらせを受けていたのは影たちの報告で知っていた。


 表向き婚約者を亡くしたという名目で新たに婚約者を迎えていないにも関わらず、たとえ婚約者になりえない下級貴族の令嬢が側に侍ることをよく思わない者も居るだろう。 


 令嬢方の嫉妬を一身に受けるユリアーゼ嬢を見かねたレオンハルトに頼まれてアンジェリーナ嬢が仲裁に入ったことで表向き沈静化したように見えた。


 同性の侍従見習いをつけるのが普通なのに、色々な理由をこじつけて例外的に、半ば強引に彼女を俺の侍女見習いに召し上げた。


 声も、姿も、体格さえも似て目につかないのに、不意に見せる寂しそうな笑顔に優里亜の姿が重なるようで苛立ちが募る。


 小さな水音が聞こえたような気がして学舎と寮を繋ぐ道を外れて庭園へと続く生け垣をヒラリと乗り越える。


 暫く進んだ先でみた景色に息を呑んだ。


 月明かりの中泉の中に下半身を浸らせて、何かを探しているのか、直ぐに水中へと消えていくユリアーゼ嬢の……ユリアーゼの姿は泉の精霊か、または人魚姫かと見紛うばかりだった。


 これが黒髪だったら……軽くホラーだったろうな。


「お前たちは待機していろ!」


「お待ち下さい殿下!」


 泉の縁へ進みブレザーを脱ぎ捨てると俺は護衛の制止も聞かずに泉へと飛び込んでいた。

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