第4話 ポンコツ神官美少女
「お、おまえ……やっぱり敵なのか?」
「違いますっ」
「じゃあ……ポンコツか?」
「ち、違わないけど……って、ポンコツじゃありませんっ!」
「どっちだよ!」
目の前の美少女がオロオロしている。
どうやら、わざと攻撃魔法を撃ったわけではなく、ただの
「おい……早くしてれくれないか……もう死にそうなんだが……」
「ひゃ、ひゃい」
(もう……意識が……遠くなって……)
「えっと、えっと、ありました! これです!」
美少女が
「聖天スピカの名のもとに全ての
ペカァァァァーッ!
「なっ! 何だこれは……」
美少女が放った魔法により、俺の怪我と状態異常が完全に回復し、HPも各種ステータスも復活した。
「や、やりました! 成功しましたよっ!」
「そんなバカな……ミストルティンの攻撃による状態異常【侵食】まで完全に回復している……しかも、
(この女……怪しい……怪し過ぎる……。何で、こんな高位魔法を使えるんだ? やはり警戒した方が良いかもしれないな)
「鑑定」
魔法が成功して喜んでいる美少女を、俺はこっそり鑑定してステータスを読み取ろうとする。
ビッ!
――――――――――――
鑑定妨害スキルにより表示不可
――――――――――――
(はあ!? 妨害されただと! いったい何者だ!)
「あのあのっ、
「ああ、それはもちろん。助けてもらって感謝している。ありがとう」
「えへへっ、私でもお役に立てたんですね」
笑った顔が、また可愛い。
こんな笑顔を向けられたら、例え敵だとしても心を許してしまいそうだ。
「まだ名前を聞いてなかったな……俺は」
「あっ、申し遅れましたっ。私、
「…………それ、もしかして本名か?」
「はわわわわっ、し、しまった。い、今の忘れてください」
「いや、いいけど……ゲーム内で本名使うと、SNSとかで特定されるかもしれないよ」
(こいつ……ステータスには妨害スキルをかけているのに、本名は名乗っちゃうとかアホな子なのか?)
「そ、そうですよね。この世界がゲームじゃないみたいなので、つい本名を言っちゃいました。あっ、ゲームでのプレイヤー名はミウです」
「そのまんまじゃねーか!」
「すみませんっ」
余りにも怪しくて警戒していたが、やっぱりポンコツみたいなので俺は警戒を解いた。
「俺はジェイドだ」
「はい、ジェイドさんですね。よろしくお願いします」
ミウはペコペコと頭を下げる。
動きがいちいち可愛い。
「それで、お願いとは?」
「は、はい。私とパーティーを組んで欲しいのです」
「パーティー……?」
(この美少女……神官みたいだし、あの正義マンと同じ神聖属性だよな。でも、助けてくれたし敵には見えないが……。治癒魔法も使えるし、パーティーを組んだら有利かもしれない。それに……超可愛いし……)
「分かった、パーティーを組もう」
「良かったぁ~友達に誘われてゲーム始めたんですが、一人になってしまって心細かったんです。ログアウトもできなくなっちゃうし」
「何だって! ログアウトできないだとっ!」
俺は早速ステータス画面を開き、ログアウトボタンを探す。何処を探してもログアウトの文字は無いようだ。
「無い……やっぱり、あの正義マンが言っていた『違う世界に』ってのは本当だったのか……? えっと……戻れ……ないのか。うわああああああーっ!! 大事件じゃねーかっ!」
「これって、ラノベやアニメでよくある異世界ですよねっ」
なぜかミウが目をキラキラさせている。
「いや、まだそうと決まったわけでは。それに、困るだろ。元の世界に戻れなかったら」
「でも、元の世界に戻ってもツラいことばかりだし……私なんて……」
ミウが、どよどよ~んと暗い表情になる。ハイライトが消えたような、まるでヤンデレならぬヤンデル目だ。
(おいおい……この子、実はヤバい女なのか? で、でも、悪い人間には見えないけど)
このTSOは、キャラエディットで職業を選ぶが、キャラの姿は現実世界の容姿を元に生成される。細かなキャラメイクで髪型や体形など各パーツを変えたり、課金アイテムで全く違う容姿や性別にできるはずだ。
しかし、俺がこの世界に飛ばされた時は、キャラメイクの項目が見当たらなかった。髪や瞳の色はアニメキャラのように変わったが、容姿は基本そのままなはず。
(つまり、この子はリアルでも美少女の確率が高いのでは?)
俺はゲームからログアウトできなくなったり別世界に行ってしまった心配も忘れて、目の前のミウのことで頭がいっぱいになってしまう。いや、なっちゃダメだけど。
「あ、あの……それで、二つ目と三つ目のお願いなのですが……」
彼女の可愛い顔や大きな胸に気を取られている俺に、ミウが次のお願いをしようとする。そういえば、お願いは三つあるのだった。
「ああ、そうだったな。で、何のお願いなんだ?」
「えっと、二つ目のお願いは、私を守って欲しいんです。この世界は、モンスターが襲い掛かってきたりして……怖くて。今までは何とかレベルを上げてこれたんですが、この先が不安で不安で……」
「それくらいならお安い御用だ。パーティを組むのなら協力し合わないとな」
「あ、ありがとうございます。えへへっ」
(ちくしょう! やっぱり可愛いな)
「それで……三つ目のお願いなんですが」
「ああ、何でも言ってくれ」
「え、え、エッチ禁止で……」
「は?」
えっ? 聞き違い?
この娘、エッチとか言い出したぞ。
「だ、だ、だって、男の人って、いつも淫欲に
「は?」
「わわ、私……け、経験無いので、そそ、そういうのは無理なんです……。ジェイドさんが、助ける見返りに体で払えとか言うと思うのですが、エッチなのは禁止にしてもらいたくて……」
この娘……ただのポンコツ系美少女ではなく、かなりの妄想が激しい女子みたいだ。
「えっと……それ、ドコ情報?」
「ネットで見ましたっ」
「ネットの
変なワードを呟きながらも、顔を赤くしてモジモジするミウがやっぱり可愛い。
「いや、俺はそんなことしないから。無理やりやったりしないから安心してよ」
「ホントですか? よかったぁ~っ、そうですよね、ジェイドさんって良い人そうですし。なんかこう真面目っぽいというか、陰……えと、大人しそうというか」
(おい! 今、言い直したよな? 陰キャって言おうとしただろ!?)
「まあ、これからよろしく頼む」
「はいっ、頑張ります」
こうしてオレはパーティを組む事になる。強力な治癒系魔法を使える美少女と。
だが、この時の俺は気付いていなかった。この美少女の瞳の奥に眠る、とんでもなくドロドロとした妖しい光に。
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