第1話 システム・アドミニストレータ

(よし、これで全ての準備は整ったぜ! 俺が彼女をつくるためのなっ!)


 買ったばかりの品が入った袋を覗き込みながら、心の中で準備完了を叫ぶ。


 俺は星崎ほしざき久遠くおん

 まあ、それはどうでもいいのだが。一応説明しておくと特に目立つタイプでもない、ゲームとアニメとラノベが好きな大学生の男だ。


 世の中はクソゲーである――――


 時は二十一世紀。金は金持ちのところに集まり、女はチャラいモテ男のところに集まる。

 ただ真面目にしているだけで、なぜか陰キャ扱いされたり非モテ扱いされる理不尽な世の中だ。


 少子高齢化や国力低下の煽りを受け経済は伸び悩み、口を開けば、やれ若者の車離れだの結婚離れだのお金離れだのと叫ばれる。

 テレビやネットを見れば嫌なニュースばかりだ。


 金もコネも人望も無い俺は一体どうしたらいい。虚無感ばかりが俺の胸に去来する。

 だが、いつか観たアニメの主人公のように成れたのなら。こんな道端に転がる石のような俺でも、天に輝く星のような存在になりたいと願う。


「俺だって彼女をつくったりデートをしたりしたい。まあ現実は非モテで陰キャなオタクなのだが……」


 つい愚痴を零してしまう。


 大学に入れば夢のキャンパスライフ(死語)が待っていると思っていた時期もあった。

 しかし現実は残酷だ。女子はウェイ系のチャラい男が独占し、俺はヤツラの後塵こうじんを拝するだけである。


「クソッ! やってられねえつーの!」


 だが、そんな愚痴ぐちを言うのも今日までだ。星々の黄昏TSOさえあれば、俺も仮想現実世界で無双しまくって、ゲーム内で知り合った女子とリアルでイチャイチャできるはず!


(た、たぶん…………ゲームは得意だからな。まあ、やってるのは殆ど美少女ゲームギャルゲーなのだが)



 近年の革新的なVR技術とフルダイブ型RPGの発展により、アニメの中に入ったかのような仮想現実世界での大規模オンラインゲームが次々と実現された。


 そして、遂に待望の大人気ソフト『星々の黄昏たそがれリンデンヘイム~Twilight of the stars online~』通称TSOのサービス開始日となる。これは、まるで異世界系アニメのように、ゲーム内の空間にフルダイブして遊べる夢のようなゲームなのだ。


 ブロロロロッ――


「おっと危ない!」


 俺は信号が赤に変わったのに気付き立ち止まる。


 トラック君には注意! フラグは圧し折ったぜ。


(こんな所で車にかれて異世界転生は避けたいからな。俺だって、特別な能力スキルを持って異世界に行き、無双したり美少女に好かれたりスローライフしたい。だが、車に轢かれるのは痛そうだから嫌だ)



 買ったばかりのフルダイブ型VR装置を抱えたまま部屋に戻る。中古だが最新機にも劣らない機能は完備されているようだ。裏通りの怪しげな中古ショップで買ったのが少し心配だが。


 だいぶ値段は下がってきたとはいえ、まだまだ機材は高価だからな。


「よし、インストール終了! あとは起動させるだけだ。これで、この退屈な日常とおさらばして、夢のような仮想空間で遊び倒してやるぜ」


 俺はパソコンにゲームをインストールし、フルダイブ型VRゴーグルを装着する。


「ゲームスタート!」


 キュイィィィィーン!

 起動音と共に俺の五感がリンクしてゲーム世界へと誘われる。


 バチッ! ジジジッ――――


(ん? 今、何か変な音がしたような? 壊れてるんじゃないだろうな)


 キュィィィィーン!


(気のせいか…………)


 俺は、そのままゲーム世界へと入って行く。



『ようこそ、リンデンヘイムの世界へ。おめでとうございます。あなたは因果律いんがりつの歪みにより、この世界への一定の干渉権や管理者権限システム・アドミニストレータを持つ特別な存在として転生が決定いたしました』


 落ち着いた女性のシステム音声が流れる。


「は? 何だこれ? こんなゲームだったか……?」


『あなたは、極光きょっこう七星神しちせいしんと呼ばれる、この世界で最強の存在として生まれ変わります。この中から好きなアバターを一つ選んでください』


「いや、だから勝手にゲームが進んでるんだけど……」


 よく分からないが、最強のウルトラレアUR・アバターを手に入れる事ができたのか?

 これって……もしかして、超ツイているのでは。


 俺は目の前のウィンドウに表示された七つのキャラの中から一つをタップする。


「えっと……どれどれ?」


 ――――――――――――

【神聖剣王ベテルギウス】

 神聖属性

 剣技レベル10取得可能。

 魔属性に対し優位。クリティカル値、率、共に上昇。

 固有スキル【剣王】により、六本の剣による同時攻撃可能。


 初期装備として、神器級アイテム、聖剣エクスカリバー、神剣グラム、炎剣レーヴァテイン、滅剣デュランダル、侵食しんしょく剣ミストルティン、天剣天羽々斬あめのはばきりを所持。

 ――――――――――――


「なんじゃこりゃ! 最強じゃないか。これはチート過ぎだろ……何で初期装備で最終装備みたいな神器持ってるんだよ! でも、このキャラなら無双してゲーム内でトップになれるかもな」


 タッ!

「あれ? 押せないぞ」

 ウィンドウの決定をタップするが反応が無い。


『ぶっぶー! 神聖剣王ベテルギウスは既に転生済みです。他のキャラを選んでください』


「何だよ! もう取られてるじゃん! しょうがない、こっちの超越者ちょうえつしゃってのもチートっぽいな。これはどうだ?」


 ウィンドウをスワイプし、隣のキャラのデータを表示させる。


 ――――――――――――

【超越者ベガ】

 中立属性

 剣術レベル10取得可能。

 武術レベル10取得可能

 属性優位無し。

 固有スキル【超越者】により、速度1.5倍、クリティカル率2倍、クリティカル値2倍。


 初期装備として、神器級アイテム、聖魔調伏刀雷切せいまちょうぶくとうらいきりを所持。

 ――――――――――――


「これも凄いな。固有スキルでクリ率とクリ値が二倍かよ。しかもスピードの鬼。ゲームにおいて重要なのはスピードとクリティカルと言うしな。てか、何で初期装備で神器級なんだよ!」


 タッ!


「あれ? また押せない……」


 よく見ると、決定の部分がさっきのベテルギウスと同じ色になっている。どうやら、このキャラも誰かが選択済みのようだ。


「おい、どうなってるんだ?」


『ぶっぶー! 超越者ベガは既に転生済みです。他のキャラを選んでください』


「うっせえ、分かってるって」


『早く選びやがれ。このドーテー!』


「どどど、ドーテーじゃねーし! いや、そうなんだけど……てか、今システム音声が暴言はきやがったぞ。最近のゲームって、こんなんなのか?」


 ゲームにツッコんでも返事は返ってこない。


「聞き違いだったのかな? まあいい、残ってるキャラから選ぶとするか」


 いくつか横に動かして行くと、暗黒皇帝という名称に目が留まる。


「これは……」


 ――――――――――――

【暗黒皇帝リゲル】

 魔属性

 魔術レベル10取得可能。

 中立属性に対し優位。

 固有スキル【暗黒神】により、自己修復機能あり。


 初期装備として、神器級アイテム、五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビルを所持。

 ――――――――――――


「おっ、これが良いな。暗黒皇帝という肩書がカッコイイし」


 タッ!

 決定を押してキャラが確定した。

 続いて名前を打ち込む。


「ジェイドっと……」


 俺がゲームやる時は、いつもこの名前だしな。翡翠ひすいという意味らしいが、何となく響きが好きで使っているだけだ。


「確定っと」


 ――――――――――――

 名 前:ジェイド

 職 業ジョブ:暗黒皇帝リゲル

 レベル:1

 魔術レベル:1


 ステータス

 体 力HP:300

 魔 力MP:300

 筋 力:100

 攻撃力:100

 魔攻力:200

 防御力: 50

 素早さ: 20

 知 性:200

 魅 力:150


 スキル

 【暗黒神】【火球】【雷撃】【鑑定】

 ――――――――――――


「初期ステータスも中々だな。これでOKっと」


『それではジェイド様。極光の七星神として、夢と欲望と戦いの世界をお楽しみください』


 相変わらず落ち着いたシステム音声を聞きながら、俺の視界が光へと包まれファンタジー世界へと飲み込まれて行った。






 ――――――――――――――――


 皆様、私の小説を読んで頂きありがとうございます。

 ちょっとでも面白いとか気になると思ってもらえたら、星やフォローを頂けるとモチベアップと励みになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る