第十二話 三十六計逃げるに如かず
大河原沙織の擬体は、妖しい光を放ちながら、パージした装甲をコンクリートのフロアに落としていった。
「むき身」となった擬体は、威容を醸していた。かなり距離はあるのに、息苦しいほどに圧力を感じる。
「うむむ」
戦いながらも、なつはこのチーム戦について考え続けていた。
現在、赤チームと緑チームが双方一人ずつ消滅。二人の消滅で敗北となるわけだから、いわばリーチがかかった状態と言える。そして残る相棒は、負傷している。
もし仮にここで大河原をなつが倒せたとして。秋葉原のアキハルを擁する紫チーム――最大の問題は上野の切り裂き王子――が3人揃って残っているとしたら、さすがに…勝てないだろう。
それに、この目の前の大河原を、無傷で倒せるのか。…否。この相手とは最低限でも死闘、高確率で相討ち、下手すれば敗北がありうる。
かなり分が悪いぞ…。
なつに、この大会を敗退するつもりは毛頭ない。勝ち残りたい。
そして…敗れた兄の名誉を保ちたい。それがなつの、最大の願いとなっていた。
(この際、最強女子の称号なんてどうでもいいや。元・ウルトラマンには、別のヤツと戦ってもらおう)
なつは突如、大河原の背後を指さして叫んだ。
「あっ!別の敵ッ!!」
大河原は後ろを振り返った。
(失礼しま〜す!)
なつは音もなく飛び退ると、ひざをついていた田中の深緑の擬体をラグビーボールのように脇に抱えた。1秒も経たない内に、なつは田中と共に、フロアの端から空中へと飛び出していた。
地上に着地したなつは、田中を抱えたまま、がれきを飛び越えて走った。
「ひとりで走れるよ」田中は慌てて言った。
「だぁいじょうぶ~」なつは取り合わない。
建物の角を曲がり、ブッシュに隠れる。そこで田中の擬体を下ろす。
「ノハラくん、擬体のダメージはどんな感じ?」なつは訊く。
「田中だよ。さっきの背中への蹴りが装甲ごといった感じだね。背中はもう攻撃食らえない」
「え~。トサカやろうめ、手加減しろっての」
「しないでしょ。ていうかキミ、首をねじり切った相手に何言ってんの」
「えへへ。でも、戦えないわけじゃなさそうだね、良かった」
「うん。なぜかおれ、近づいても気づかれないんだよね。一人二人投げっぱなしで倒せるかも」
なつと田中はコンプレックスを見上げる。
はるか頭上で、ちょうど金色の擬体が振り子のように外壁を渡るのを見た。
あそこに金ピカ。しかも速やかに戦闘開始か。なつは思った。
さて、赤チームと紫チーム、せいぜいつぶし合ってね。
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