第二十話 光れバイシクル

ダンク野郎との、さっきの戦いを思いだす。

直線的な動きでは避けられてしまいそうだ。だが、自分が左右にフェイントしながら攻撃するイメージが湧かない。


とっさに手近にあったパイプ椅子を手に取る。パイプ椅子で殴りつけるくらいでは擬体は破壊できないが、目くらましくらいにはなるだろう。

パイプ椅子を持ったまま構えているさまはいささか滑稽というか、いかにも弱そうだが仕方がない。念のためDOGにも攻め手を訊いてみたが、「お前が自分でトライしてみろ OJT!」と返ってきた。本当に役に立たない。


にらみ合うこと数秒。飛び込みとダンクは積極的に攻めて来ない。

ナルオは大丈夫だろうか?僕は敵から目を離さずにナルオを呼んだ。


「いてえ…くっそう…」ナルオは立ち上がる。「不意打ちをくらいがちだな、俺は…」


良かった!まだ大丈夫だった。

「ダメージは?」

「後頭部の装甲にひびが入ったくらいだ。人間だったらおおごとだけど」


飛び込みやろうがダンクに言う。

「おい金沢かなざわ、あまり手加減しないほうがいいぞ。擬体は思ったより頑丈だ」

「そうだな」

ダンクは右手に光球を作って構える。「黒いほうを叩いておくか」


ダンクはトリッキーな身のこなしで、左右に残像を残しながら迫ってくる。

僕はパイプ椅子を投げつけるがダンクは体を回転させながら避けてしまう。そこに合わせてPP↑Kのイメージで…パンチ、フェイントに膝蹴りを繰り出す。・・・が、当たらない。


ダンクは僕の後ろに回り込む。振り返ったが間に合わない、光球が来る。ぎりぎりガードが間に合ったがさっきよりも危なかった。なんとか踏ん張る。


ナルオはジャンプ擬体に光球を撃ち込んでいるが、ジャンプは長い板のようなもので撃ち落としている。撃ち疲れたところで、飛び込みが数メートルを一気に縮めるジャンプでナルオの頭部を狙ってくる。間一髪避ける。


「ナルオ、交替しよう」僕は提案する。「相性が悪い」


ナルオと僕はたがいに背を預ける形で向きを変える。相手の交替。


「来いよ、ジャンパー、飛んでこい KJT」僕は言う。いや、勝手に口がそう動く。


飛び込みは窓を背にしてぐっと腰を落とす。来るぞ、大ジャンプ。

僕は距離を詰める。タイミングは一瞬だ。集中する。前に1ダッシュ。上に軽いパンチ。これはフェイントだ。ごおっと言う音と共にジャンプが来た。腰を落とす。頭部を板が狙ってくる、その板の隙間に。


渾身の。前傾姿勢の相手の上半身を下から蹴り飛ばす。


僕(の擬体)は後ろに一回転して着地すると、そのまま吹っ飛んだ相手に向かってダッシュして、ジャンプ。今度は前に向かって一回転しながら倒れる相手にかかとを落とす。

胴体に大きな亀裂が入る。前、後ろ、そして上の戦いはイメージしやすいな…と僕は思った。


「金沢」と呼ばれたバスケの擬体は、ものすごいフットワークの持ち主だ。それは間違いない。だが、ナルオも負けてはいない。それが、相手を交替した理由だった。そしてナルオは接触ラフプレイにめっぽう慣れている。


金沢とナルオは同時にダッシュした。金沢は右手に、ナルオは右足に光球を出す。

すれ違いざま、互いの方向にピボットする。ものすごい爆発音と共に互いの光球が交錯し、霧散すると、金沢がナルオにショルダータックルをしかける。ナルオはそれをいなすように逆向きに半回転しながら、金沢の顔面にヒジを叩きこんだ。


ラフプレイ。球技では反則だが、これは戦いだ。至近距離での攻防。よろけながらも、金沢が左手に光球を作る。その光球をナルオは右足のボレーで蹴り飛ばす。光球はすさまじい速度で壁に激突し、レッスン用の鏡を木っ端みじんに破壊した。


それが隙になった。


金沢は右手でナルオの頭部をつかんだ。すさまじい握力で地面に落とされるその時。ナルオがむしろ加速した。下半身を空中に向かって大きく蹴り上げる。


バイシクルシュート。

ナルオの足先が金沢の後頭部をとらえた。直撃。炸裂音が響く。


床をゴロゴロと転がっていく金沢の擬体。

「生身だとさすがに怖くてできないんだけどな」ナルオが満足気に言う。

「これはさすがにダメージ大きいだろ」


2体の襲撃者は起き上がって来られない。

そこで僕は先ほどからの疑問を口にする。


「おかしいと思わないか」ナルオにささやく。「2人だけで襲撃なんて、リスクが大きすぎる。特別、連携がうまいということもなかったし…」

「俺たちをホンキでやっつけるつもりがない、ってこと?」ナルオが言う。

「たしかに、さっきもちょっと間があったな。時間を稼いでいるような…」


時間を稼ぐ?なんのために?

ナルオと僕は同時に顔を見合わせた。


マズイ。未咲が、狙われている!!

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