SSSSSSSSSR転生したけど寿命30日なので赤ちゃんのまま世界を救います!!
重土 浄
0日目 生まれる前に
第1話 0日目 その1
どこまでも続く雲の海岸。
その端に立った俺は水面下を眺めている。水はなく岸の下は真っ暗な宇宙が広がり、大きな星の姿を丸々と眺められる。
その星の、ゆっくりとだが着実な回転を見ながら俺は思った。
「ああ、死んだんだな」
夢とは違う意識のフィルター。ぼんやりしつつも現実以上にはっきりと実感できる自分自身の輪郭。
「どこで死んだのやら…」
自分の死に様を思い出せない。おそらく突発的で苦しまなかったのだろう。
「安らかに逝けたのは、不幸中の幸いでした」
そんな言葉を自分自身に対して思うことになるとは。
生への執着が、仕事への責任感が、肉親や友達との情のつながりが、プチプチと音を立てながら体から切れていくように感じたが、惜しいとは感じなかった。
「もう少し、悔しがれるくらいの人生を送りたかったな、もっと上手く…できたはずなのに…」
今まで俺の人生を縛っていた後悔の念すらも、体から剥がれそうになっていた。
いつのまにか隣に白髪の老人が立っていた。白いローブをまとった頑強な老人。
「そうかそうか、後悔があるか」
その老人は威厳の有り余る声でいきなり話しかけてきた。死してなお、知らない人に唐突に話しかけられると緊張する。
俺は聞こえないふりをして足元に広がる大宇宙と、その中に浮かぶ青い星の姿に目を移した。
自然な動きで半歩離れたが、老人は気にせず独り言を続けた。
「あれは地球ではない。お前がもといた星ではなく、これから生まれ直す星、アルテリアじゃ」
なんと転生ルールがある世界だったのか。だったらなんかの宗教に入っとけばよかったな。
「気にするな、思想信条は宇宙のルールとは関係ない。お前が何を信じていようと、ハリウッドセレブだろうと、ブラック企業の消耗品社員だろうと、全ての生命は同様に扱われる」
「ずいぶんと、お詳しいようですね」
「ああ、神じゃからな」
俺は3歩、距離を取った。
「わしは退屈でな」
「そうですか。退屈は心の病の元です。適度に運動や趣味を行いましょう。退屈であっていいことはありませんから」
古来、退屈を紛らわすために、神というのはろくなことをしなかった。その退屈のはけ口は常に人類だったからだ。
「気にするな、今は退屈を紛らわす物がある」
「それは?」
「ガチャじゃ」
天使が堕落するという事はあったらしいが、ついに神までもが堕落したようだ。
「…ガチャですか」
俺は極めてフラットな声で返事した。神の財布からガチャで20万円が消えたとしても、それは俺には関係ないし。それで神の機嫌が良くなったり、大激怒して都市を焼いたところで、俺の知ったことではないからだ。
ズイっと神が寄ってきた。俺が密かに確保していた緩衝地帯を超えて目の前に威厳ある髭面が迫る。
「すごいの引いたの。見たい?」
ガチャの引きを自慢したいらしい。ものすごい鼻息で白く長いひげが俺の顔にかかる。神の神々しきひげが、興奮した老人の鼻息で揺れ、神秘さと俗さが混ざり合って俺に降りかかる。
ここで「興味ありませんから」と断ることは難しかった。
「ぜひ」
老人は興奮した様子で、懐からカードを出した。
「デジタルじゃなくて、まじでリアルなカードガチャなのか」
俺はそう思ったが、取引先の部長が自慢の品を得意げに見せてくるのを、期待感いっぱいの顔を作ってみせる営業マンの気持ちで対応した。
「これじゃ!」
そのカードはキラキラと、ギラギラと、つやつやと、ビカビカと、キュルキュルと、ビガビガと
あらゆる特殊加工が施されたスペシャルなカードだった。
そのトップに輝く、カードのレアリティーを示す文字は!
「エス…SSSSSS…?」
「SSSSSSSSSRじゃ!」
「エスエスエスエスエス…アール? Sがいくつあるんですか?」
「エスナインアール!Sが9つじゃ!」
神の飛ばしたつばきが、いくつもの虹を描きながら俺の顔にかかった。
SRというのがある。かなり最高レアだ。
さらにSSRというのがある。Sが増えた分、SRよりさらに最高にレアだが…そのSが9つもある。多すぎると逆に安売り感を感じてしまう。
「エスナインアール…たしかにこれはすごいですね。排出率は…」
「0.000000000009%!惑星における知的生命発生率よりも低いのじゃ!」
今、神から世界の秘密を具体的数値で聞いたような気もするが、俺はスルーした。
「たしかにこれはすごいですね。あ、色々書いてありますね」
目の前に突きつけられたカードには様々なスペックが、読める文字で書かれていた。
「
SSSSSSSSSR転生
成長率 神
肉体 無敵にして無病
精神 神に至る道を歩む
敏捷性 海を渡る風
武力 一国に匹敵
魔力 昼を夜に変える
魅力 国を滅ぼす
何もしなくてもレベルが上がる(なにかするともっと上がる)
」
「エスナインアール…転生ですか?」
俺はカードから目を外して、初めて神の顔をちゃんと見た。
「そうじゃ、エスナインアール転生!
お前の次の人生はこれじゃ」
興奮した神が告げた。
俺の目の前には、光り輝く最高レアリティのカードが提示されていた。
「エスナインアール転生ねぇ…」
神の興奮が、イマイチ理解できない俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます