祓う者
ながとん
『山の中の社』編
【01】母からの電話
また同じ夢を見た。
場所は俺が幼いころ訪れた田舎の村。太陽がぎらぎらと輝く真夏日。
幼い男女二人組が山の中へと入っていく。
冒険をしているつもりなのか、鬱蒼とした木々の中を女の子がずんずん進み、男の子がおびえながら後ろをついて行く。
だめだ、その山に入ってはいけない。
俺の声など届かず、二人はどんどん山の奥へと進んで行く。
すると、小さな社が行く手に現れた。
古めかしいそれは、十分に手入れがされていないのか、傷んでいて苔が生えている。
山の中の社に触れてはいけないよ。
よく聞いた声がした。子供のころ世話をしてくれていた祖母の声だ。
その忠告が聞こえないのか、女の子と男の子は社に手を伸ばす。
そこで、俺はいつも目を覚ます。
「神崎君。急で悪いんだけど、明日の会議資料、今日中に作ってもらっていい?」
唐突に、グループマネージャーの茂木さんが俺に言った。
「え、今からですか?」
「実は俺この後、緊急の会議が入っちゃって。完成したら見せてもらえばあとはいいから」
俺は時計を確認する。時刻は午後6時。そろそろ仕事を切り上げて帰ろうとしていたのだが。
「無理そう?」
「いえ、作っておきます」
「ありがとう」
茂木さんはそういうと、パソコンを片手に会議室へ向かうため部屋を出た。
「え~、茂木さんまた会議ですか~?」
俺の隣の机で仕事をしていた後輩の女性社員、水谷が文句を言う。
「うちの部長、会議多すぎですよ~。しかも全然戻ってこないし。あーあ、頼まれてた資料チェックしてほしかったのになぁ~」
「GMはGMで大変なんだろ。その資料っていつまで?」
「一応、今日まで」
「チェックしてもらうだけだったら、俺が明日茂木さんに見せておくよ。だからもう帰ってもいいぞ」
「え!?いいんですか!?さすがせんぱ~い!頼りになる!」
「はいはい」
見てもらうためだけに残業なんて給料の無駄だからな。それに、こいつの資料のことだから、チェックだけじゃ済まないだろうし。後でさっと見て直して、明日作り直させよう。どうせ茂木さんも今日中に完成するとは思っていないだろう。
「先輩も、今日はもう帰りますよね?」
「いや?少し残業するけど」
「何でですか!?私との約束忘れてません!?」
「約束……?」
「やっぱり……。言ったじゃないですか!ストーカー気質の元カレに粘着されて困ってるから、彼氏のふりして会ってくれって!」
「あっ……。そういえば、そんな約束してたな」
「会うの今日ですよ!残業してる場合じゃないです!」
「なぁ、やっぱり無理がないか?彼氏のふりなんて。俺、苦手なんだよ。『俺の女に手出すんじゃねぇ』とかいうの。野蛮で」
「大丈夫です。私が一方的に話すだけなんで!先輩はいつも通りにしていただければ」
「そんなんで相手は納得するのかね」
「納得します!させます!」
穴がぼこぼこの理論だな。
俺が返答に困っていると携帯電話が鳴った。母からだ。
何だろう、こんな時間に。
「悪い、電話来たから、ちょっと待ってて」
「助けてくださいよ~先輩!」
「はいはい」
彼女が新入社員のころから面倒を見ているから、もう3年になるが、あの頃と大して変わらないなこいつ。一体、どこで育て方を間違えてしまったのだろうと考えながら電話に出る。
「もしもし。うん、今仕事中。……え?うん、わかった。できるだけ早く向かうよ……」
俺は静かに電話を切った。
「何の電話ですか先輩?」
後輩の声に答える。
「ばーちゃんが亡くなったって・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます