第四十八話 梅雨の晴れ間
「思ったのだが、
「
「ああ、そうだ。烏羽玉が持っているものはすべて〈写し〉で、
その双子の片割れが烏羽玉と葦原国現皇帝の母親である廃后の姫君なのだ。
烏羽玉はまずは純血の人間である弟を皇帝にのし上げた。
それにはおそらく写しの書状と印形が使われたと思われる。
もし本物を持っているのなら、烏羽玉は自分が皇帝になったはずだからだ。
なぜそうしなかったかは竜胆を見ていればわかる。
それではすぐに〈人間〉ではないことがバレてしまう。でも、もし本物の書状があれば例え人間ではなくとも皇帝になることは可能だ。
正統なる血筋が証明できるのだから。
「なんとしても先に見つけ出さないとですね……。子孫の方々の身も心配です」
「廃后の姫君の片割れに関してはほとんど情報がないからのう。性別すらわかっておらぬ。そもそも、廃后の姫君の行方すらわからないのだからな」
「姫君の方は息子である烏羽玉が匿っているのかもしれませんね。
「でもさぁ、どうして姫君の双子の片割れは自分の身分を主張しなかったんだろうね?」
「確かに……。それに、姫君を見つけ出してその当時の皇帝にあてがった人物も謎のままだな。その頃人間界に何の後ろ盾も持たない烏羽玉が、自分の母親を入内させることが出来るとは考えられないからな。ある程度の権力と富を持つ貴人でなければならない。まぁ、大方、姫君が廃后になったときにその人物は夜逃げするか処刑されただろうが……」
わたしは『処刑』という言葉に、あることを思いついた。
「もし処刑されているとすれば、地獄に記録があるはずですよね? きっと
「……なるほど! それは気づかなかった。うむ。葦原国の地獄を統べる閻魔大王に聞いてみるのはありかもしれんな。あの方はすべての亡者を覚えておる。それに、葦原国の地獄は亡者の記録がしっかりしているからな。書庫や裁判記録にも手がかりがあるだろう」
「では、わたしは地獄に行ってまいります」
「もちろん、私も行く」
「では、二人とも一旦、葦原に帰らなくてはな。寂しくなるな……。
「ありがとうございます。本当に、何から何まで……」
「何を言うか。助かったのは
「地獄へ行った後、またこちらに報告に来ます」
「いや、今度は
「嬉しいです。たくさんおもてなししますね」
「うむ。楽しみにしておるぞ」
わたしと竜胆は見送りに出てきてくれた
行きと同じく十二時間後、わたしと竜胆は無事に葦原国上空へと戻って来た。
昨夜遅くに出たので、すでに太陽は昇りきり、昼時。
「
「そ、その前にご飯食べない? もう、へろへろだよ……」
「ああ……」
その時、タイミングよくわたしのお腹もぐぅっと鳴ったので、とりあえず近くの料理店へと入ることにした。
もちろん、竜胆には女性に変化してもらってから。
「……胸が重いわ。男の身体は楽だったから忘れてた」
「……嫌味ですか?」
「あ、ごめん
わたしは自分の胸元をチラッと確認し、小さくため息をついた。
「
「あ、それもそうですね」
わたしは
「それにしても……」
「暑いわねぇ。洋装にしない? 半そでのブラウスとか」
「竜胆はそうしてもいいですよ。でも、ご飯を食べた後に行くのは地獄です。もっと〈熱い〉ですし、人間用のブラウスだと燃えてなくなっちゃいますよ」
「……不便! なんて不便なの⁉」
「さぁ、ご飯を食べに行きますよ」
本格的な梅雨の合間に訪れた貴重な晴れ間ではあるが、湿気で汗がひかず、肌も空気もべたついている。
行き交う人々が身にまとう薫香の匂いが煩わしく感じる季節到来だ。
今日は熱々の物を食べる気にはなれない。
わたしと竜胆は導かれるように蕎麦屋へと入っていった。
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