第十六話 暗殺の準備
わたしと
かつて
竜胆をその湖に住む〈聖女〉として周辺地域の人間に認識してもらうため、噂を流したり、聖女としての姿をおぼろげながらも認識してもらったりと、数々の裏工作をしていたのだ。
「なかなかうまくいったよな」
「そうですね」
「
「そうですか。いつも変身していただき、ありがとうございます」
「いやいや、
「お仕事を楽しんでいただけているようでなによりです」
「で、今日あとは何する? 明日から仕事だから、それぞれ家でゆっくりする?」
「竜胆はそうしてください。わたしは今日も暗殺任務があるので」
「可愛い顔して物騒な仕事してるよね、
「まぁ、家業なので」
「じゃぁ、気を付けてね」
「はい。では」
わたしは杖に乗り、山から飛び立った。
「今日は……、ああ、僧侶か」
本日の暗殺対象がいるのは、葦原国にいくつかある
古い寺院が多く、各地の
そんな寺院の中でも古く格式高い
色々あって対応が遅れてしまったが、調査の中でわたしが目をつけた人物は三年ほど前から修業に来ている僧侶だ。
今回、なぜその僧侶が暗殺対象になったのかと言うと、ある貴族が墓を別の
そこで、ほかの貴族たちも自分たちの一族の墓を確かめたところ、ここ三年間に納骨した骨壺の重さが、それよりも前の時期に納骨したものよりも明らかに軽いということが判明した。
貴族たちは一様に「
寺の者たちが原因を調べてもよくわからなかったらしく、閻魔大王の書記官を通じて連絡を受けたわたしが独自に調査したところ、怪しい人物として浮上したのがその僧侶だったというわけだ。
僧侶が来た時期と納骨されている骨壺が軽くなったタイミングが同じ。
その僧侶は葬儀社で奉仕活動をしている。
僧侶の身体は触れると少し熱いという。
目撃情報によると、僧侶は身体が異様に柔らかいらしい。
わたしが何度か観察に行ったときに見た僧侶は、ゆっくりとした所作で鈍さを演出しているようだが、瞳の動きが早く、瞬発力は人間の比ではない。
(僧侶の正体はおそらく
化け猫は
そんな便利な狩場を、彼らが簡単に手放すとは思えない。
化け猫は独自の社会を築く。〈集会所〉と呼ばれる自治組織を持っているのだ。
各集会所は連絡役で繋がっており、明確な上下関係の下、時には統率のとれた夜盗と化すこともある。
化け猫は自由気ままなように見えて、集団行動も出来る優秀な存在なのだ。
いくらわたしが
そこで、今回は助っ人を呼んである。
陽が落ち始めた初夏の空を飛びながら、待ち合わせ場所へと向かう途中。
何かが猛スピードで近づいてきた。
「よぉくれぇい!」
「げ」
無理やり視界に入って来たそれは、待ち合わせ相手だった。
「
「いいじゃん! どこで会おうと、逢えたらそれで」
「暗殺任務だってわかってる? 隠密行動が基本でしょうが」
「なんでよぉ。もっと優しくしてよぉ」
「はぁ……」
火車は閻魔大王に仕える妖怪貴族の一族で、罪人の魂を地獄まで運搬する役割を持っている。
当然、現世で罪を犯し反省もしないような人間の魂は死んだ後も変わらない。
運搬の際に暴れたり逃げようとしたり、悪霊になって攻撃してくることもある。
それらを制圧するため、火車の一族は幼い頃から特殊な訓練を受けており、その実、超武闘派集団なのである。
わたしの数少ない友人の一人だ。
「え? 友人? 親友でしょ?」
「わたしの心の声に反応しないでくれる? そもそも聞こえないでしょうが」
「顔に書いてあるもん」
「あっそう」
「もう。照れ屋さんなんだから」
「ほら、もう行くよ」
「はぁい」
その姿が彗星のようで、いつも綺麗だな、と思う。
「今日も素敵だね」
「うふふ! 私、
目立たないようにするために、隠密行動の時は空の色に合わせて炎の色を変えているらしい。
わたしが一番好きなのは夜空の色の炎。
今日もそれが見られると思うと、わくわくする。
わたしたちは
まずは確固たる証拠を得なくてはならない。
暗殺するに十分な証拠を。
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