プロローグ
「セレスティア・シンシア・スコールズ! 僕は君との
「マーティン様。……理由をお聞かせください」
「この
ここは、
たった今、婚約破棄を告げてきた私の婚約者・マーティン様の後ろには
──そして、にやり、と笑うのが見えた。気がついたのはきっと私だけだった。
意識を
視界が白い。今朝はお天気がいいらしい。でもすごく寒い。
私はぶるりと震え、ブランケットを
「おかしな夢を見てしまったわ。私の婚約者はたしかにヘンダーソン
昨夜の夢はひどかった。夜会というこの上なく公的な場で、お
けれど、自分の
「マーティン様は私よりも妹のクリスティーナのほうを気にかけていらっしゃるのよね。この前三人でお茶をしたときも、私のことは完全に眼中にない様子だったわ」
一着は
「今日、着るのは
薄い水色のドレスを広げると、窓の外に視線をやる。雪が積もっていた。寒すぎる。
「セレスティアお姉さま? ……うわあ、寒い!
そこに顔を出したのは、ちょうどさっき夢に出てきたばかりの異母妹・クリスティーナだった。ヒラヒラの
うらやましい、そう思った
「セレスティアお姉さま。今日はこちらのドレスを着てね?
「……ありがとうございます」
神殿に
この部屋には暖炉がある。けれど、使うことを許されている
ドレスも私に
ちなみに、最近は家庭教師の先生が私を
物心がついたころからこんな暮らしをしているので、私には反論する気力までない。
残念の始まりは、十五年前まで
私、セレスティア・シンシア・スコールズは、ルーティニア王国の王都・マノンにあるスコールズ
元々身体が弱かったお母様は、私を産んですぐに息を引き取ってしまった。
それとほぼ同時期に使用人の女性が子どもを産んだらしい。その使用人というのが異母妹・クリスティーナの母だった。
子どもの父親はまさかというか案の定というかお父様で。結構ひどい話だと思う。
その結果、住み込みで働いていた
部屋が寒いと言いつつ一向に出ていく気配のないクリスティーナの
そんな私を横目に、クリスティーナはひらりとハンカチを取り出して
「ねえ、セレスティアお姉さま見て? またお父様とお母様に
「……よかったですね。図案を
「また私の代わりに働いてくれる? あ、でも、お姉さまが刺繍したっていうのは
「……はい」
私に与えられる食事はパン一切れと具のないスープだけ。それがこの別棟に運ばれる。
クリスティーナのために刺繍をすることぐらい、食べ物が
鏡に映る自分の姿を
「あの。このドレスには、あのネックレスが合うと思うのです。そろそろ返していただけませんか」
「……え?
「そんな……」
クリスティーナにお母様の形見のネックレスを取り上げられてもう何年になるだろう。どんなに
けれど、彼女がたまに身につけているところを見ると、売り
顔も覚えていないお母様。その形見がどこか手の届かないところにいかないよう、私はクリスティーナに従うようになった。
「それにしても、セレスティアお姉さまは普段からもっときちんとした格好をするべきだわ。だって、私たちはもう十五歳で、今日は神殿に
「……」
「そうだわ。あとね、さっきお父様とお母様にあなたがこの世界で一番大切だって言われちゃったの。この家には、私だけじゃなくてお姉さまもいらっしゃるのにね? そんなことも忘れてるなんて、
「…………」
さっき?
「……お父様は領地からこの王都の家にお
「ええ、私のお父様は昨夜領地から戻ったの!」
この家で両親の愛を一身に受ける異母妹は『私の』を強調してからにっこりと笑う。
普段、領地で暮らすお父様とは半年に一度ぐらいしか会えない関係で。
私と、継母やクリスティーナの間に
私が一人で別棟にいるのも、死んだ母親を思ってのことと本気で信じているらしい。
本当のことを話してみたい、と思ったこともある。けれど、クリスティーナに取り上げられたネックレスが頭に
古びた姿見に映る私は、落ち着いたストロベリーブロンドに深いルビー色の
かつて、古参の
『この世のものとは思えないほどの、
──そのルーシーも、今はもう
今日は神殿で『啓示の
「何だか、今日はいいことが起こる気がするの。まぁ、お姉さまには
「……」
自信たっぷりのクリスティーナが
重い足取りで
──ガシャン。
「キャーッ」
何が起きたのかわからなかった。
ホールに
私は使用人に
どうやら足元にシャンデリアが落ちてきたらしい。
「お
めったに話しかけてこない使用人たちもさすがに
──頭の中にいろいろな映像が流れ込んできた。
お父様が
「あ、私が今送っているのって、五回目の人生だったわ」
そうだ、私は人生をループし続けている。
五回目ともなれば混乱することはない。あっさりとすとんと、胸に落ちた。
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