第38話 仕切り直し、ただし乱入アリ
川から離れ、レティナとルシードは上へ上へと登る。
すると、ほどなくしてアレスと合流できた。
アレスはふたりの無事に安堵の息を吐いたものの、すぐに申し訳なさそうな表情になった。
――売人たちを逃がしたと。
ルシードは、沈むアレスの肩をぽんと叩く。
「あれだけの人数だ。そんな中、よく切り抜けてくれたな。お前が無事で良かった」
「隊長……」
感動したように呟くアレスは、レティナの方へ顔を向ける。
「オレ、レト君が最近よく死ぬ理由が分かった。これは死ぬわ。即死だわ」
「なにを言っているアレス。それと、レトにあまり近づくな」
「お? おぉ?」
あっというまに普段の飄々っぷりを取り戻したアレスは、ルシードに間に割りはいられると面白そうな顔をしてふたりを見比べる。
レティナとルシードの顔を交互に見比べ……やがてにんまりとした笑みを浮かべた。
「仲直りできてよかったですね」
「え?」
「そもそも、仲違いすらしていない」
「いやでも、ちょっとギクシャクしてたから心配してたんで。――これで、後は売人を一網打尽に出来れば御の字なんですけどね~」
言いながら、騎士団へ戻った一行。
ルシードは騎士団長へ報告へ向かった。
アレスが一度騎士団へ報告を上げ、それからルシードたちを探しに来たため、騎士団内ではすでにリグハーツ隊の失敗として噂が流れていた。
日頃、ルシードになんらかの感情を持つ者たちが、あれこれとはやし立てているのだ。
もちろん、眼力が怖いので、本人には言えない。
――レティナとアレスに、その矛先は向いた。
「ついにメッキが剥がれたな。実際はコネだった、顔だけ隊長」
「あ~今日の飯なにかなぁ。オレ肉食いてーな。レト君はなにがいい?」
「え、あの……」
アレスは露骨にそれを無視した。
絡んできた相手が気色ばむが、それも無視。
まるでここには何もいないし、何の聞こえていないかのように振る舞う。
レティナだけがオロオロしていると、相手とバチッと視線がぶつかる。
にんまりとつり上げられる唇。
「お前も顔だけ入団か? 実力不足の隊長と、腰巾着の隊員共に、騎士の資格があるか、確かめてやるよ!」
そう言って振り上げられた腕。
「――おい!」
アレスがハッとして振り返り止めようとしたのだが、それより早く、レティナは相手の腕を掴むとひねり上げていた。
「リグハーツ隊をバカにするのは、やめてください!」
「いてっ」
「皆さん、毎日努力しています! 国で暮らす人たちが、安心して暮らせるようにと真剣に向き合っているんです! そんな一生懸命でひたむきな方々を侮辱するなんて……あなたこそ、それでも騎士ですか!」
腕を放して床に転がすと、相手は呆然とレティナを見上げ、それから怒りで顔を赤くし立ち上がった。
「貴様!」
怒鳴りながら、剣に手をかける。
しかし、彼の剣は抜かれることがなかった。
今度は、後ろから腕をひねり上げられたからだ。
「くっ、だ、誰だ!」
「誰でもいいだろう。丸腰相手に抜剣なんて、お前はそれでも騎士か? 本当に、恥を知れよ痴れ者」
聞き覚えのある声に、レティナは僅かに肩を揺らす。
だが、それよりも周りの方が大きく反応した。
「おい……あれ」
「遠征任務が終わったのか?」
「――《大熊殺しのレジ》だ……!」
レティナたちに絡んでいた相手は、自分の後ろに立つ筋骨隆々で大柄な男を見ると尻餅をつく。
そして、悲鳴を上げて這うように逃げていった。
「……まさか、大熊殺しに助けられるなんてな。一応礼は言っとく。うちの見習い君を助けてくれてありが――」
アレスの言葉が不自然に途切れた。
それもそのはず。
大熊殺しと呼ばれた男は、脇目も振らず大股でレティナに近づくと、無言で抱え上げたからだ。
「え、ちょ……」
「よし。行くか」
レティナが混乱しているのも構わず、大熊殺しは颯爽と歩き出す。
「お、おい待てこら! 行くかじゃねーよ! うちの見習いを、連れて行く気だ!」
「あ? おまえの所じゃない。これは、ウチのだ」
ぺっとアレスの腕を払いのけ、大股での歩みを再開する大熊殺し。
「ウチのって……エラいことになった……隊長、リグハーツ隊長……!」
自分ではあの大男を止められないと察したアレスは、ルシードの顔を脳裏に描き慌てて別方向へ走り出した。
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