第9話 後悔しない出しゃばり方
――バンッッ!!
アレスが叩いたときよりも、数倍大きな音がした机。
思わず……という風に、全員の視線が向いた。
「みなさん!!」
視線を集めたレティナは、顔を青くしたり赤くしたりしながら、久方ぶりに大きな声を出した。
「みなさん、疲れているんです! お茶にしましょう!!」
呆気にとられた騎士たち。
あのルシードすら、ポカンとした顔でレティナを見ている。
ならば、ここが勝負所だとレティナは勢いよくたたみかけた。
「疲れているから、話し合いも上手くいかないんです! だって、みんな本当は分かっているはずでしょう!」
「……何をだ」
不機嫌なルシードの声。けれども、いつもより迫力に欠け、ほんの少しだけ、縋るような響きが混じっていた。
「リグハーツ隊長は、みなさんを駒だなんて思ってないって、本当は分かっているはずです!」
「……知ったことを」
「リグハーツ隊長もですよ! ――リグハーツ隊長が、一生懸命頑張るのは、隊員のみなさんが馬鹿にされないためでしょう!」
レティナが二人組に絡まれた時、ルシードは本当に絶妙なところで現れた。
もしかしたら、そういう可能性があることを分かっていたのか。
もっといえば、ああいうことはよくある事なのかもしれない。
そして二人組は、ルシードのいない時だけ「顔だけだ」と馬鹿にしていた。それはそれは、慣れた手口のように。
――ルシードは最年少で隊長になった、上の覚えもめでたい天才だ。それは、騎士ではないレティナですら知っているほど有名な話だった。
それはつまり、背負う期待も大きいが、敵も多いということだ。
だからアレス達のいう「自分たちだけ休めない」というのは、部下も統率も出来ていないと陰口を叩かれかねない状況を危惧しての言葉だったのだ。
「リグハーツ隊長は、みなさんを思って行動して、みなさんは隊長を思って行動しているのに、行き違いで険悪になってしまうのは……もったいないです……だから、お茶を入れます!」
「――は?」
「お茶を飲んで、一息ついて、みなさんで話あってください!」
そう言って、レティナは部屋を飛び出した。
心臓がバクバクと大きく速く脈打つ。
――やってしまったという思いが、こみ上げてくる。
とんだ出しゃばりだと思われるかもしれない。
でも、あの先を言わせたくはなかった――自分のお茶なんて飲めた物ではないが、場を持たせることくらいはできるはず……お茶を入れている間に双方頭を冷やすことが出来るはずだ。
淑女らしくなく廊下を駆け抜けるレティナの顔に、後悔は浮かんでいなかった。
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