巨人と周波と僕ら

残虐性

僕達は、大きい空間に集団で暮らしている。

どこから生まれたのかもさっぱり分からない。

いつからこの空間にいたのかも。


ここは天国でもあり、地獄でもある。


暖かい芝生に散りばめられた灰、食堂の配膳台に溢れる濡れた細菌、巨人の抜け毛、全て僕達にとっては欠かせない"ご飯"なのだ。


この大きい空間の主である巨人は、とても興味深い生物だ。


変な音に不可解な言語を乗せた謎の周波に合わせて叫んだり、僕達の食堂に倒れ込んで鼻から轟音を鳴らしたり、明らかに種族の違う四足歩行の生物と戯れていたり。


陰で生きることしかできない僕達は、そんな巨人に怯えながらも毎日ご馳走を貰っている。


巨人は気まぐれなので、たまに僕達のご飯を巨大な吸引器で奪ったりもする。僕の友達も奪われた。

そしてまた新たなご飯をくれる、腹立たしくて不思議な生物だ。


巨人がいない間は、僕達にとって平和な時間だ。

踏み潰されることもなく、食事の時間を邪魔されることもない。

一息つける瞬間なのだ。


ご馳走を貰えるのは嬉しいけれど、あまり帰ってこないで欲しい。

僕達にだって安寧が欲しいのだ。



そう思っていた矢先、巨人は帰ってこなくなった。

この空間に残ってるのは、四足歩行の生物だけだ。

巨人ほど場を荒らすわけでもないので、まぁいいかなと思えた。

なんだか愛嬌があるし。


僕達にはこの生物の抜け毛と、空間の隅の埃だけあればしばらく生きていける。



不味いご飯を食べている時、ふと巨人が流していた周波が恋しくなった。

巨人はどれも、あの周波を好むのだろうか。

それ以前に、あいつ以外にも巨人は存在するのだろうか。


その周波は、音の形や言語の種類も毎回違っていた。

それに合わせて暴れ回っていた巨人の表情は、僕達じゃ表せないものだった。


巨人にとってのご飯は、毎回僕達が吹き飛ばされそうになるあの周波なのかもしれないな。



僕の友達が次々と死んでいく。

やはり、あの巨人がいないと生きていけないのかもな。


あの楽しい周波をご飯に生きていけるなら、次は巨人に生まれ変わってみたいかもな。


僕達の存在は小さいな。

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巨人と周波と僕ら 残虐性 @cruelty01

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