第2話 理科室のこっこさん(1)
扉を開けて辺りをキョロキョロ見回す。
「ふ~。よかった……誰もいないよね」
私はそう一人呟いて額に手を当て汗を拭う真似をしてみせた。
ここは旧校舎の理科準備室だった所。
以前は使われていた様だが今では殆ど物置変わりの場所で人の出入りもない。私の目的を達成するためにはもってこの場所だった。
今はお昼休み時間。クラスメイト達は恐ら
く教室でお弁当を広げたり学食で親しいもの同士ご飯を食べているのだろう。
でも、私にはそういう相手がいなかった。教室にいても身の置き所がない。結果、教室を出て向かった先はいつも女子トイレ。いわゆるぼっちの便所飯という奴。
でも、今は違う。その女子トイレである人と知り合ったのだ。
いや、人と言うのは正しくないかもしれない。なにせ彼女は……。
「あら! こんな所に来る人がいるとは思わなかったのかしら」
私の思考は突然耳に入って来た声にかき消される。
「お客様とは珍しいのかしら。どちら様かしら?」
目を向けた先にはほっそりとした体形の女性がニコリと笑いながらこちらをみていた。
目立つのはその肌だ。まるで陶器の様に白い肌。痩せこけて青白いとも違う。透き通るように綺麗な姿に、一瞬見惚れながらも私は驚いていた。
だって、部屋を見回した時には明らかに誰もいなかった。それほど広い部屋じゃない、人がいたらわかる。さらに言えば私は扉の真ん前に立っているから新しく入ってきたはずもない。
「え、えっと。どちら様ですか?」
「それはこちらのセリフなのかしら。貴方はどちら様なのかしら?」
「えっと。私は一年A組の山下えみです。そ、それで、貴方は……」
彼女の恰好は明らかにこの学校の制服のそれではない。どう考えても生徒ではない。が、かといって教職員のようにも見えなかった。
「私? 私は。こっこさん」
「こ、こっこさん?」
「そう。こっこさん。よろしくなのかしら」
その独特な語尾と相まって放たれたその珍妙な名前。ふざけてるのかと想ったがそんな感じでもない。
「え、えっと。こ、こっこさん? はここで何をしてるんですか」
「何ってこともないのかしら。アタシはずっとここにいるのかしら」
「ずっとって。あ、そもそも。私が部屋に入った時どこにいたんですか?」
この狭い部屋のどこかに隠れていたとでもいうのか。でも、そんな場所があるようにも見えないが。
「だからずっと、ここにいたのかしら。ふふふふふふふふふふふふふ」
含み笑いを浮かべながら彼女は音もなく私の傍ににじり寄ってきたかと想うと突然その細い右手のひらで私の顎をぐいっと掴み上げる。更にもう左手で私の腰に掛けてをまぐり始めた。
「うぇあ! うえ? うえええええええ」
余りの事に驚いて妙なうめき声をあげてしまう。
「あなた。中々良い骨してるのかしら。欲しいのかしら。貰ってちゃってもいいかもしれないのかしら~」
言いながら彼女の身体がまるで私の周りをぐるりと渦を巻くように取り巻いていく。
「きゃあ~」
慌ててもがくと期せずしてゴンゴンと腕が扉に当たる感触を感じた。
「は、花子さん。遊びましょ~」
私が叫ぶと同時に扉が開いたかと想うと同時に身体へ衝撃を感じた。と同時に、
「ごへええええええええええええええええ。なのかしら~~~~~~~~~」
断末魔の様な叫びをあげてこっこさんは私から身を放す。
「彼女は私の縄張りなの。貴方の好きにはさせないわ」
気が付くとおかっぱ頭の少女が佇んでいた。彼女は涼しい声で言うと、指をパチンと鳴らした。途端に、
カラカラカラカラカラカラ。
乾いた音がしたかと想うとそこには真っ白い骨が転がっていた。
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