第9話 カナルの魔力教育
「超血流ダイエットを行っているからだ!」
「え、どういうこと!?」
「これだけ食べても太らないことを証明してやったんだ! 要は血流を良くして代謝を活性化しているのだ!」
――試しているとは、俺の集中力と自分の代謝のことだったのか。ちゃんと考えてたのね。
「血はな、生きるために必要な酸素を体内に供給するだけでなく、二酸化炭素や老廃物を回収するんだ。即ち、血液を良くすれば代謝もよくなり、ダイエットに繋がる。俺の場合はそこに魔力をかけているから、魔力の分だけ何倍にも代謝は膨れ上がる」
「通りで太らないのか! でもその血流を感じる方法は?」
「集中あるのみ」
――自分の凄さを見せただけで、教えてくれないのか。でもやるしかないよな。
サブは今一度集中をした。
――雑念を取り払うには、これしかない。
自分が無に帰そうとした瞬間を思い浮かべた。
辺り一面、白い世界。その中央なのか端っこなのかわからない。
立っているか、座っているかわからない。
とてつもなく広大な空間に佇む自分自身。
周りの空気は冷たい。しかし、寒くはない。
目を閉じ、全身をオーラで覆うように全ての皮膚から外へ逃げる空気を塞ぐ。
すると、暖かさを感じるようになる。
この温もりの根幹が血液だと気づく。
数えきれないぐらいの血管が体内に伸び、その1本ずつに川の流れを感じる。
――これが血流か!
サブは血流を見つけると、そこに魔力を流し込もうとする。
――あ、肝心な魔力の流し方教わっていなかった!
ここまできたのに、魔力の流し込みができずに戻るのは勿体ない。そう思ったサブは、カナルやレオパルドから身を守ろうとした時のことを思い出した。
全身に力が入る感覚。それは膨張するような感覚。即ち、血管を広げようとする行為。それは循環機能を果たす心臓であった。ここが魔力を纏うためのスタートライン。
サブは今一度集中をする。あとは魔力を探し、心臓に魔力を連結させれば全身に行き渡らせることが可能となる。
足元から探すも魔力は見つからない。膝から上へ行き心臓を越えて、首を越え、顔を過ぎ脳内に到着した。やがて頭全体を覆うふわふわとした魔力の根源を見つけた。
――これだ!
この魔力、果てしない渦を巻き先の見えない大気のようであった。
サブはこの魔力を心臓まで移動させた。そして、血管に流し込む……
グオオオオオオオ!!!!
けたたましい音と共に、サブの魔力が全身から漲り始めた。
カナルは突然のことで、食べていた大好物のゴルゴンゾーラのチーズ、しかもピカンテが手から吹っ飛び、自身もたまたま飛んだ先にあったソファーに打ち付けられた。
サブは加減がわからず、ありったけの魔力を注いでしまったらしい。
「待て待て、魔力を止めろ!」
カナルの静止の呼び掛けも虚しく、サブは放出することだけを考えている。
その放出たるや、大爆発でも起こったかのように家の屋根は吹っ飛ぶび、サブの立つ床は抜け、洪水となっていた下水道の水も熱波で蒸発していく。
「サブ! やめろおおおお!」
サブはカナルの大声に我に返る。カナルは必死に魔力を放出して、飛ばされるのを免れていた。
サブは直径10メートルはあろうかという、円形のクレーターの中心地に立っていた。
「え! これ俺がやっちゃったの!?」
「そうだよ! もう何もかも滅茶苦茶だ~~~!」
とんでもないことになってしまった。あまりにも巨大な魔力だったので周囲だけでなく、下水道の天井にも大きな穴が広がっていた。
「この下水道は魔力で守られているから、簡単に壊すことはできない。それをこんなにも……」
随分と先まで魔力の波動が及んだようで、下水道の水が枯渇しているように見えた。
しかし……
「まずいぞ、きっとサブの魔力の勢いで上流に水が逆流したかもしれない!!」
カナルが深刻そうな顔で話すが、事態の重さを理解できていないサブ。
「え? それは何か悪いことでもあるの?」
「悪いどころじゃない! 恐らく近隣下水道にこの下水が逆噴射しているよ! マジでやばいぞ!」
「あー、そういうことね! え、下水が逆噴射!? やべー--!!!」
「着いてこい!」
と言うと、カナルはリットを唱えて先を明るく照らし出し、猛ダッシュで上流へ走り出した。
――この光景、デジャブ。
風圧で削られた道が数十メートル先で、通常の道に戻っているのがわかった。ここまでにまだ下水は流れ込んでいないが、ちょろちょろと川の源流のように流れが戻りつつある。
数百メートル走ったところでカナルは止まった。
「やばいぞ、上流に戻った下水が一気に戻ってくる!」
カナルはそう言うと、通路の左を指さした。
どうやら小規模な下水道本管があるらしい。この幹線は下水道本管が幾重にも繋がって形成する大下水道である。
「なんか凄い音が聞こえてきたよ! やばいんじゃないの!?」
「大丈夫だ! 俺はこの下水道のプロだぞ! こんなところで死んでたまるか!」
傾斜が少しあるのか上り勾配になってきている。
サブにとっては非常に苦しい坂道であるが、死んだら終わりだ。必死に先を行くカナルに食らい付く。
幸い、命の危機に晒されたことで人間の走り方に少しは慣れてきたようだ。
「ここからはいくつか人孔と呼ばれるマンホールに繋がっていく。そこを抜ければ押し寄せる下水に飲み込まれることはない」
後方から轟音が迫ってくる。
もう少しだ、頑張れ! と励まされ、何とか人孔に辿り着いた。
足掛が用意されていて登っていく。最上部まで行くと小さい穴から光が漏れている。カナルはそこで止まった。
「まずいぞ、呪文が出ない!」
「えええ! ここまで来てそんな!」
「走ったことで体力を失い、魔力が一時的に底をついてしまったようだ……」
――おいおい、やっぱり俺は下水で死んでしまうのか~!
「落ち着け、何か方法があるはずだ。何か……」
絶体絶命のピンチである。動揺するカナルに対し、サブは何とか知恵を振り絞ろうと深呼吸する。
何か思い付いたのか、サブはカナルの手を握った。
「俺の魔力は渡せるのか?」
「ん、ああ! その手があったか! でもさっきみたいに膨大な量を放出したら死ぬぞ」
――確かに俺は呪文は唱えられないし、さっきみたいな大爆発起こしたら、こんな狭い空間では二人ともバラバラになりそうだ。
「方法はある。サブ、俺の手を剣だと思え」
カナルは握られた手をがっしりと掴んでいる。信じている、と言わんばかりに。
「集中だ、集中するんだ。さっきみたいにならない為に、魔力を体内に留めることだ! それさえできれば俺の手に魔力が通ずるはずだ!」
「大丈夫、さっきのやり方を思い出せ。万が一それでダメだったら二人で下水と共に逝こう」
――こんなところで死んでたまるものか。カナルも死なせない。
轟音は爆音に変わってきた。
恐らくは幹線は今大洪水になり、この本管にも迫ってきているような音であった。
サブは先程の感覚が残存していて、血流はすぐに意識することができた。
次に心臓まで魔力を持っていくのも不器用なりにできた。
問題は今血流に乗せた魔力をどうやって留めるかだ。
迫る下水。サブとカナルの心音は今最高潮に達しようとしていた。
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