第4話 森賊
辺りは暗くなってきて、太陽の光も薄れてきた。足は既に限界。
こんなに続けて走ったことは、ドッグランでさえなかった。適度に休憩があり、おやつもあった。
そろそろ休もうよ。という言葉も無視され、ひたすら沈む太陽に向かって走っていく。
肉球はないし、裸足で走っているから足の裏に木の枝や固いものを踏んで血が滲む。
そして、ようやく森の端が見えるようになってきたかと思うと、突然ネズミが足元で止まった。
「ちょっと離れていろ」
ネズミが何か言葉を発すると、水面に垂れる雫のように、草むらの中心部から波打ち、周囲の草が円形にかき分けられていく。すると、草の下から円形の蓋が出現した。
――こんなこともできるのか!?
再びネズミが何か発しようとしたとき、突如背後から殴られる感覚がした。
どんっ!!!
――いっつ……
サブは何かに殴られ一瞬痛みを感じたようだったが、それほど痛くはなかったようだった。
「森賊だ!」
ネズミはサブの頭を確認すると、大丈夫か? と言い、すぐに振り返る。
あっという間に周辺には2本足で立つ動物がずらり……気配なく周囲を囲んでいる。
よく見ると、顔が白黒の斑点で猫のような顔つきをしている。
体にもその斑点があり、ボロボロの布切れを体にまとい、手にはこん棒を持っている。どうやらあれでサブの頭を殴ったようだ。
「タフな人間め」
一際強面の白黒斑点の動物が、こん棒を手で叩きながら話しかけてきた。
よく見ると目が全体的に充血している。血走っているとでも言うべきか。
――この変な動物も喋れるのか。動物の言葉は共通なのか、それとも人間の言葉と共通なのだろうか。いや、その前に何で殴られた俺!
「おお、これはこれはカナルくんじゃないか」
サブを殴ったでかいのが歩み寄ってきた。
――このネズミの名前はカナルというのか。さっきも自分のことを様付けで呼んでいたし、自尊心が高いのか。
――これがカナルの言う森賊なら知り合いなのか? でも一緒にいる俺のこと突然殴ってきたから、敵か? もう誰か説明して!
「やぁレオパルドくん」カナルが答える。
「人間とつるむとはどういうことだ? 俺たちユキヒョウが人間を嫌っているのは承知のことだろう?」
身長2メートルはあろうかという大型のユキヒョウはいかにもこの森賊の長という風貌で、他の者と同じくボロボロの布切れを纏い、体中には歴戦の傷がある。
――おいおい、いきなり人間嫌いがきたよ。カナルもこいつも威勢が良すぎるって。
「たまたま会っただけだ」
――ユキヒョウ。ヒョウの類だ。夜行性で凶暴な一面を持つ。ん、待て。なぜ俺はユキヒョウのことを知っている。最初から知識が備わっていたかのように。
レオパルドはたまたまね~。と言うと、部下と思われる他のユキヒョウが出てきた。ふらつきながら全身包帯を巻き、目以外が包帯で覆われている。今にも倒れそうだ。
「こいつを見ろ。この間、人間にやられた」
全身包帯のユキヒョウは、人間の魔法により焼かれて大やけどをし、苦しみを与えて殺されそうになったという。
人間がそんな残酷なことをするなんて、飼い主を想像したらあり得ることではなかった。
「我々白の国の人間がそんなことをするはずがない」
カナルは動じずに答えた。
――そうだ。そう、人間は動物には優しいはずだ。こんな卑劣な真似をするはずがない。
しかし、レオパルドはカナルの言う言葉に聞く耳を持たない。
「ふん、この世界に人間など必要ない!!」
――おいおい、そこまで言うか。この世界でも人間は地位が高いのか? 謎だらけ~。いきなりやばい展開に巻き込まれてんじゃんか~!
「事実かわからないうちに人間を攻め立てるのはどうかと思うぞ」
――カナルの言う通り。
「この無口を見てみろ? 喋らないことが罪の重さを感じている証拠だ!」
サブは展開に追い付いていけず、この状況をただ見ていることしかできなかった。
「あ、俺はさっき死んでここに来たばかりでよくわからない。ただ、人間全員が悪者ではないはず!」
確かに人間世界では犯罪を犯す者もいた。しかし、全てではない。基本的には善良者だ。少なくともサブの飼い主はサブを愛してくれていた。
カナルは断固引かず、その間にもユキヒョウたちはじりじりと近づいてくる。
「わけのわからんことを言う。死んだ奴が喋ってるとでも言うのか!? 者共、ひっとらえろ!」
怒りが先行し、完全に言葉が通じない。
カナルが一歩後退しようとした瞬間、レオパルドの空気が変わったのを感じた。
サブも後ずさりしながら逃げる方法を考えようとした束の間、レオパルドは瞬時に背後に回り、両腕を後ろに回され固めた。
――え! 早っ! カナルのいた位置から距離はあったのに。
カナルも同様に他の森賊に捕まえられた。
「下手に動いたら、折るぞ」
サブはレオパルドの言葉に心臓が止まる思いがした。
――やばい、こいつ普通じゃない。本気で折りにかかっている。
犬の世界ではここまで非情な犬はいなかった。レオンといういじめっ子の犬がいたが、骨折させたり殺すようなことはしなかった。
――レオンに尻をかじられた時は痛かったな~。でも、こいつらはもっとやばい。どうにか逃れる方法を……
一先ずここはカナルの言っていたかんせん? とやらに逃げきれば何とかなるのかもしれない。そう思い付くも、動けないサブ。
「カナルくんよ~、お前は人間と森賊どちらの味方だ?」
「どちらも味方だ」
「どちらも? バカなやつめ。聞いたか者共! 人間の味方をしたらどうなるか教えてやるよ!」
カナルは必死に抵抗して、森賊の手に押しつぶされそうになっている。サブはこの状況を考えてみた。
――俺が捕まって、森賊の味方だと答えればカナルはすぐに開放されていたはずだ。俺を犠牲にすれば良いのに、なぜカナルは俺も味方と言うんだ?
――初対面なのに「俺に着いてこい」と言われてここまできた。俺を助けようとしてくれているのは間違いない。ならば今味方に近いカナルと共にここを切り抜けるのが先か。
「く……くそ……俺の剣さえあれば……」
――カナルの苦しさが伝わってくる。さすがにまずい状況になってきた。でも今にも俺の腕は折られそうだし、どうすることもできない。やめてくれ! と叫んでも情け容赦なく俺の腕の痛みは増していく。
サブは勇気を振り絞った。
「待てお前ら! その手を放せ! 苦しんでいるだろう!」
テンプレ文みたいな台詞を吐くサブ。
「人間の小僧が! 口の利き方に気を付けろよ」
そう言うと、レオパルドが腕を折りにきた。サブは折られないように、反射的にレオパルドの腕を払い除けようと力を入れた。
「やめろおおおおお!!」
どんっ!
激しい音と風圧と共にレオパルドが吹っ飛び、そのまま後方にあった木に直撃した。
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