再廃の記
1
白い百合。
白い地面に咲いている百合。発芽は済み今が絶頂期。悲しいことに周りの草は全て毟り取られており有するのは茎と美しい花だけ。
その花を、憐れみをたっぷり含んだ左目でサヤは見つめる。
そして言った、
「鏡花水月」
と。
魑魅は、空を見る。
離れ離れの悲しさ。そんな思いに耽りながら。
「墓靄様……」
連れて行かせたのは紛れもなく五従の私たち。
だがやはり後悔する。他の手段はなかったのか。
最悪の場合もう………
やはり、帰ろう。
邪魔をしてくるものは、薙ぎ倒して。
待ってて下さい。
空は雲が覆っており、地面には草が広がっている。所々ある花がその場所を微妙に照らす。
だが数メートル離れてみれば分かる通り、下には池が広がっている。
その水面はどこまでも鮮明に花畑の裏を映し出し、故に底が見えない。
まさに美景。
人一人として揺らすことのできない、秘境。
沢山の剣が黒い地面へと突き刺さっている。
その地面には刺さっている剣以上の穴が空いている。
そこになりがあったのかなど知る由もないことだが、光の入らないソコを見る限り暗い出来事が原因なのだろうということだけが分かる。
暗い場所を明るくするのは、更なる闇。
ソコはそんな、兇景であり、美景でもあった。
亡骸というのは存在しない。
有るのはその者たちの武器だけだ。
両者が、双方の場所で会う。
「花か」
魑魅が悲しい顔をしながら呟く。
平和の象徴とも言える花。自分らがそれを最も簡単に踏み潰し戦争への道を歩んでいることに彼女は嘆く。
「墓靄様は無事だろうか」
送り出したのは五従である彼女らの判断。
だがやはり心残りは残ってしまうものなのか彼女は今度はため息をつき再び歩を進める。
戻らなくては、その一心で。
「武器…」
サヤが顔を俯かせながら呟く。
戦争の象徴である大量の武器、刀、剣……。自分らはそれを手に取り、深い深い川へと沈めなければならない。平和という道を歩む為に。
「…」
だが、その屍の先に何があるのか。
他の者に帰る場所があろうと、天地がひっくり返ろうと、自分に帰る場所などありはしない、絶対に。
しかし今は進み続けるしかない。
右目の花が、彼女をそんな気持ちにさせる。
不意に、二人の前に影が立った。
魑魅にはサヤのような者が。
サヤには魑魅のような者が。
唯一違う点は、心臓の部分に穴が空いていること。
これらは、彼女らの後悔を思い出の地で具現化した、「ケケ」
「「邪魔しないでよ」」
二人は臨戦体制をとり、構える。
邪魔をするものは誰であろうと、殺す。
そんな気概が本気で、感じられた。
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